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文書27 強襲

「そこまでだよ。」


寝っ転がった楓の頭上から聞きなれた声が降ってきた。


「!」


途端、楓は喜びと安堵の嵐に包まれた。

もう、安心だ。

そう、この声は………!


グレイスがにこやかに簀巻き状態の楓に向かってほほ笑む。


「一人で頑張ってくれてたんだね、ありがとう。でももう大丈夫、後は私に任せて。」


しかし、正面のおけさ笠の怪人を睨むその横顔は先ほどまでの優しげな面影を全く残していない険しいものだった。


「さてと、貴方には異能者としてシナリオの復活に関与した嫌疑がかけられています。

ご同行願えないでしょうか。勿論、釈明の機会は与えられますので安心してください。」


おけさ笠の怪人は何も答えない。

静けさが辺りを包み込む。


ゴウッと、一段と強い風が紅葉を吹き飛ばした次の瞬間。

おけさ笠の怪人が動き出した。


《自身》(装備)■■■■(五番人形)


やった! うまく決まった!

楓は簀巻きのまま、喜びを露わにした。


一人で戦っていた間は異能の行使の途中で妨害が入ったりしてまともに集中できなかったが、今はグレイスがいる。

楓は安心して異能に全力を傾けられた。


出鼻を挫かれたおけさ笠の怪人が動揺する。

その隙をグレイスは見逃さない。


挿絵(By みてみん)


銃声が紅葉の森の中に響いた。

冷徹な鋼鉄製の弾丸がおけさ笠の怪人に向かう。

それを華麗にかわしたおけさ笠の怪人は、ふと楓に目をやった。


《自身》(位置)()


またしてもの異能の不発におけさ笠の怪人は楓を怒り心頭といった具合で睨みつけた。

おけさ笠の怪人が楓に向かって足を踏み出す。


挿絵(By みてみん)


しかし、それはグレイスのマシンガンによる銃撃で阻止された。


「諦めたらどうですか?」


グレイスが静かにおけさ笠の怪人に投降を促した次の瞬間。


おけさ笠の怪人は手りゅう弾の様なものを地面に投げつけた。

途端、辺りが真っ白な煙に包まれ、視界が一寸先も見えないほどの白色に塗りつぶされる。


ザザザザザザ………。

おけさ笠の怪人が降り積もる落ち葉を掻きわけるように走り抜けていく音がした。


煙が晴れた頃には、楓とグレイスとが森の中に取り残されていた。

簀巻きの楓にグレイスが近づく。


挿絵(By みてみん)


グレイスはナイフを取り出すと、楓を縛っていた縄を手際よく切った。


「すぐあのおけさ笠の怪人を追いかけよう。」


         ◆◆◆


もはや見慣れた狩衣の袖がゆらゆらと揺れながら深い紅葉の森の中に消えていく。

グレイスと楓は二人して降り積もった落ち葉を巻き上げながら、その後を追跡していた。


「逃げても無駄ですよ! もう諦めて観念したらどうですか!」


楓が大声で呼びかけるも、返答はない。

おけさ笠の怪人は黙り込んだままなぜか慣れたような足取りでより深く山に分け入っていく。


暫くして渓谷にたどり着く。

両側は迫りくるかのような急斜面で挟まれ、妙に圧迫感があった。

地面は踝まで鮮やかな色彩の落ち葉に埋もれていて、足を取られる。

どこからともなくチョロチョロと小川のせせらぎが聞こえてきた。

周りは紅葉の絶頂を迎えた色とりどりの木々で一杯だ。


グレイスが急に立ち止まった。

後ろを走ってついてきた楓はつんのめりそうになる。


「どうして急に止まるのさ、グレイス?

おけさ笠の怪人が逃げてしまうじゃないか。」


焦りからか、若干の非難をこめた口調になってしまう。

しかし、グレイスは何も答えなかった。


「ねえ、グレイス?」


再び話しかける。


「………これは、しくったな。

どうやら、誘い込まれたのは私たちみたいだ。」


グレイスの額を一筋の汗がつたう。

遅れて、楓も周囲の異常に気がついた。


落ち葉があまりにも多すぎる。


         ゞゞゞ


まるで土砂降りの雨のように落葉が辺りに降り注いでいた。

そして、楓が嫌というほど見覚えのある景色だった。


「繰り返してる………。」


「楓、すぐにここから離れよう!

………って、逃がしてくれるほど甘くはないよね。」


グレイスが苦笑した。

自分たちの後ろと前に人の気配がする。

完全にやられた。

両側の渓谷はとてもじゃないが攻撃を避けながら登れそうにないし、前も後ろも塞がれている。


楓の前に立つのは見慣れた和装束。

おけさ笠の怪人である。


「やれやれ、新しく一人の敵と対面できたことを喜ぶべきか、嘆くべきか………。」


そして、グレイスの前に姿を現したのは初めて遭遇した敵であった。


頭から足元に至るまで全身を極彩色の縞模様の房飾りで覆い、革のベルトを前でたすき掛けにしている。

街中ならば実に悪目立ちするであろうその装束は、ことこの紅葉の森の中では見事なカモフラージュとして機能していた。

しかし、恐らく最も奇妙なのはその装束ではない。

それは、真っ赤な仮面だった。

三角柱状の鼻の出っ張りに、横に細く空けられた目元の穴。

どこか不気味なその仮面は、完全にそれを身につけた人間の表情を隠しきっていた。

これで、手に二振りの物騒な幅広の三日月刀を交差させて持ってさえいなければ、どこか間抜けに見えるハロウィンの仮装か、どこかの伝統的な民族衣装ですんだだろう。


「あ~、その、今までの自分の行いを顧みて、自分から投降してくれたり、しないかな~………。」


グレイスの冷や汗混じりの勧告に返されたのは大きく弧を描いた刃の一撃だった。

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