第5話 密会現場を押さえるべし
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ポーリーナは言う。
「そういう噂があるの。彼女が嫉妬でお姉様に危害を加えるかもしれないわ。気をつけてね、それを忠告しにきたのよ」
頭を殴られたような気分だった。やはり、アイラとレイブンは、ただの主従関係ではなかったのか。
泣き崩れることもできたが、そうはしたくなかった。
「忠告ありがとうポーリーナ。だけど平気よ。自分のことは自分でなんとかするから」
ふん、とポーリーナはつまらなそうに鼻を鳴らした後、もう用事は済んだとでも言うように素早く立ち上がる。だが思い出したことがあったのか、振り返った。
「今週末、ヒースとの婚約パーティをしようと思うの。急だけど、ぜひいらしてね」
当たり前に心は傷ついた。ヒースへの恋心も未だあったし、彼と妹への信頼も、断ち切られたわけではなかったからだ。
「楽しみにしているわ」
「お姉様とレイブンはとてもよくお似合いよ。末永くお幸せに」
にこりと微笑み、ポーリーナは去って行った。
入れ替わりで、まるで盗み聞きでもしていたかのようにタイミング良くレイブンが現れる。
去るポーリーナと二言三言交わし、見送った後で彼は私に目を向けた。
どこまでも澄んだ深い瞳が、私を見つめている。彼がこんな美しい目をしていなければ、私の心はまだましでいられるはずなのに。
まさしく私を憂鬱にしている張本人だというのに、その目は同情に満ちていた。
「君の態度は立派だった」
慰めは、私の耳に届き、体の中に落ちていった。
*
元々、浅い眠りだったのだろう。お姉様に手紙を書いた後で、神経が昂ぶっていたせいかもしれない。微かな物音がして、深夜に目を覚ました。
風が窓を鳴らしたせいかと思ったが、そうではなかったことがすぐに分かる。窓の外に、馬屋へと向かう光が一つ見えたのだ。
ランプを持つ、アイラだった。暗がりの彼女の顔は、今まで見たこともないほど幸福そうに微笑んでいる。
――まさか、レイブンに会いに行っているのでは。
アイラが彼の愛人なら、その証拠を掴み裁判所に申し出れば、離婚できるのではないか。幸い、夫婦のちぎりを交わす前――交わすつもりもないけど――だ。王女の離婚なんて、スキャンダラスではあるけれど、できなくはない。
彼女を尾行しようと思うのは、当然のことだった。
思った通り、アイラは馬屋へ迷うことなく進んでいく。私の尾行に気付く様子もない。
馬屋に近づくなと、昼間アイラは言っていたが、例えばそこが、レイブンとの密会場所で私を遠ざけたかったとすれば説明がつく。
アイラは小屋に入る。馬のいない小屋は、どう見てもおんぼろだ。本当にここで恋人の逢瀬をしているの――?
疑問はすぐに解消される。
「遅れてごめんなさい」
中からアイラの声が聞こえ、応じるようにくぐもった男の声がしたからだ。
間違いない。
確信に満ちて、小屋の扉を開こうとしたとき、私の手は、唐突に掴まれた。
「王族生まれも、こそこそと立ち聞きなどするんだな」
悲鳴を上げようとした口を骨張った手に塞がれる。瞳だけ動かすと、レイブンと目が合った。