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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Fateful Encounter
7/596

007


「遅い」


 翌朝。

 俺を待っていたのは無慈悲な一言だった。


「何分待ったと思ってんだ。どこほっつき歩いてやがったこのすっとこどっこい」

「いやっ、川の傍としか、聞いてない、ですけど……!?」

「あ? そうだっけか? 悪い悪い。許せ」

「それが人に謝る態度――……うぷっ……」


 こっちはやっとの思いで集合場所に辿り着いたってのに。

 おかげで息が、呼吸が苦しい。こんなに走ったの、いつ以来だっけ……


 聞いときゃよかった。もっと細かく、聞いときゃよかった。


 町を南北に分ける河の傍ら。

 何本も架かってるせいで地元民でも名前を間違える橋の一つ。

 一番古い橋の下。


 俺の家は南側だからってその辺りから探したのが間違いだった。

 何回も行ったり来たりする羽目になるなんて。ったく、ただでさえ家から遠いってのに。


 美咲と違って早起きの習慣があるわけじゃない。

 ここに来るだけでも本当に、本っ当に疲れさせられた。我ながらよく辿り着けたと心底思う。


「チッ、こんなことならどこか体育館でも抑えさせるんだった。毎回これじゃラチ明かねぇ」

「乱用。それ権力の乱用ですよ。立場に物言わせてどうするんですか。他に誰か見てる相手でもいるんですか」

「あ? いるわけねぇだろ少しは頭で考えろ」

「じゃあそんな許可下りるわけがないってところまで思い至ってください」


 大エース様だか何だか知らないけど無理だろ。さすがに無理だろ。

 ……待てよ?


「他にいないってどういうことですか。大エース様なら向こうから寄ってきますよね普通」

「んな連中一人一人相手してらんねぇよ面倒くせぇ」

「酷いですねほんと。昨日から思ってましたけど」

「ぬかせ。むしろテメェには感謝してほしいくらいだ。この俺が直々に見てやるんだからな」

「っわぁ感激あの大エース様に直接見てもらえるなんて嬉し過ぎて涙がでそぅ~! ……あの、神堂さん? こんなことさせて虚しくなったりしぃだだだだだ!?!!?」

「やっぱりテメェには口の利き方から教えてやった方が良さそうだなあ゛あ?」


 言い出したのはそっちだろ!


「ケホッ、っていうかそれなら例の[アライアンス]とかなんとかいう組織のところに行けばいいじゃないですか。朝礼サボるなんて言わずに」

「ホー、ちゃんと覚えてたか。上出来だ。んじゃ、相手の方は?」

「ろくでな白ーブ」

「真面目に答えろやタコ」

「無理です。覚えてないんで。というかあります? 覚える必要。あの趣味悪い白ローブとかいう分っかりやすいトレードマークがあるじゃないですか」

「通じねぇと面倒なんだよ理解しろ。[創世白教]だ忘れんな。チッ、あんな名前口にもしたくねぇってのに」

「じゃあ言わなきゃいいじゃないですか」


 分からない。本心がよく分からない。

 白すけとかなんとか色々呼び名くらいあるだろ。何か。

 向こうが使ってる名称、律儀に呼んでやってんの?


「ろくでなしっつぅのは同意だがな。そんなに気に食わねぇならとっとと強くなってあの雑魚共蹴散らせるようになりやがれ」

「言われなくてもそのつもりですけど。……本当なんですよね? 魔力持ってなかったらこの前みたいに襲われることはないって話」

「他の話忘れてねぇだろうな。やるときゃ平気でやるぞあのクズ共。どうせテメェも聞いたんだろ? 噂の一つや二つ」


 教えてもらったのは最悪って言えそうなくらいひどい情報だった。


 魔力がなければなす術もなくあの化け犬に襲われる。

 魔力があれば逆に白ローブの連中に狙われる。


 この前の俺はある意味どっちにも当てはまるって言われた。


 どっちに転んでも狙われる。

 唯一の対抗策は力をつけて化け犬を叩き潰すこと。


 そうやって戦えば、他の人を守ることにも繋がる。

 神堂さんは一度もそう言わなかったけど、他に誰も抵抗できそうなやつがいない。


 あの日襲われて分かった。

 今の俺なんかじゃどうにもならない。

 体力も魔力も全然足りてない。


 美咲が巻き込まれそうになったらなんて、考えたくもなかった。


「オマエもあのカノジョが大事なら本気でやれ。いいな」

「彼女じゃないです。というかいつの間に調べたんですかそんなこと。ストーカーとして突き出しますよ?」

「ハッ、やれるもんならやってみろよクソガキ。心配しなくたって手ぇ出しゃしねぇよ。睨んだって変わらねぇだろ」

「……分かってますよ」


 今のままじゃ神堂さんに手も足もでないってことくらい。


 空の上からダイブして平気なんだからそんじょそこらの連中とはほぼ別物。

 最初の目的にはあまりに向いてない。


「ま、俺も鬼じゃねぇ。特別に初回メニューで相手してやるよ」

「初めての相手にはそれが当たり前だと思うんですけど」

「テメェみたいな完全なトーシロは初めてだからな」

「あぁ……こりゃ失敬」

「ま、気楽にやれよ。俺も横で見といてやる」


 そんなことまで。

 思ってたより危ない人じゃないのかも。


 本当に一瞬でも、そう思った俺がバカだった。


「おー、元気なワン公じゃねぇか。オマエもそう思うだろ? なぁ天条」

「…………」


 ……いいなあ。爽やかな朝を迎えられることができるなんて。


 こっちは頭痛いし関節がおかしな音立てるしふくらはぎはパンパンだし。


 誰か変わって。今すぐ変わって。お金払ってもいいから。


「ちょっ、神堂さ、これキツッ……!」


 誰かこの地獄から解放して。


「あ? まだまだ余裕? そーかそーか。そいつぁ何よりだ。鍛えがいがある。くたばるんじゃねぇぞ?」

「このクソ外どっ、げふっ……!?」

「叫ぶんじゃねぇよ全力で走ってんのに。それくらい分かんだろ?」


 ――何が鬼じゃないだこの悪魔!


 大声で言い返す体力さえ残っていなかった。


 六〇分間走。


 そのくらいならまあなんとかなるだろ――なんて考えてた自分をぶん殴りたい。

 もう何分経ったのかも分からない。あの魔王が騙して三時間走らせたって言われても驚かない。


「おいおいチンタラ走ってんじゃねぇよ。オマエの体力はそんなもんか?」

「こんなもんでっ、悪かったですね……!」

「喋る余裕があるなら問題ねぇな」

「大あり、だっての……!」


 この人外ウルトラハイスペックが。

 こいつのペースに合わせようなんて考え自体が間違ってた。


 最初から世界記録も真っ青な勢いで飛び出したかと思えばその勢いをほぼ維持するもんだから笑えない。

 どういう身体の構造してるんだよ。全身にバーニアでも取り付けてんのか。


 それでも何とか食らいついていった。……最初の五分くらいは。


 無理。いくらなんでも無理ゲー過ぎる。

 うちの陸上部のエースでも無理。もうやだこのバケモノ。


「ほら――速くしろって――あんま遅いと――置いてくぞ?」

「消えなが、いってんじゃ、ねぇ……!」


 行ったり来たりしやがってこのドS。

 そりゃ教え子いないわけだわ。最初の一回で心折れるわこんなの。


「――なんてな。ま、今日はこんなもんでいいだろ。どっかのバカも早々にへばりやがったしなぁ?」

「…………」

「どうしたいつもの減らず口は。ほら、言ってみろよ」


 もう何も言う気になれない。


 何が初回特別コースだ。

 達人限定鬼畜コースの間違いだろ。人格矯正拷問コースの間違いだろ。


「ほら起きろマヌケ。いつまで寝転んでやがる。起ーきーろー」


 頼みますからあと5分だけ休ませてください。


 その頃には話くらい聞けるようになるので。水なんかかけても起きませんから。


 やっぱり合ってた。こんなの最初の目標にしたら死ぬ。

 こんなブレーキもない暴走特急、誰が制御してるんだ。


「ったく期待外れだなこの腰抜け。ガッカリだ」

「んだと、このインチキやろ……っ!」

「やっと起きやがったか遅ぇよ。次行くぞ次」

「……へ?」


 今、なんて?

 ここからさらに続ける? 冗談じゃない。確実に死ぬ。


「時間は限られてんだ。さっさとしろクソガキ。学校もあんだろ?」


 この調子じゃ学校行けるかどうかも怪しいんですけどね。


 気を遣ってるようにも聞こえるけど、現実はそんな優しいものじゃない。

 あと痛い。引きずらないでください。痛いです。


(……ついていく相手、間違えたかも……)


 今日も空が青いなぁ……?






「きっくんおは――……よう!?」


 痛イ。身体中、痛イ。


「ああ、うん……アハハハ……」

「本当に大丈夫!? 目の焦点合ってないよ!? ねえ!!」


 師匠、コワイ。


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