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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Fateful Encounter
5/596

005

 空から人が降って来た。


 何の前触れもなく、真っ逆さまに。


 それはもう勢いよく。ジェットコースターどころじゃない。

 あんな派手にめり込んだんだから、それこそ馬鹿みたいなスピードが出てた筈。


「……え、なにコレ」


 理解が全く追い付かない

 救急車? 今更呼んでどうにかなる?


「え、ちょっ……えぇ?」


 今年って厄年だったっけ。

 モンスター見つからなくて安心してた矢先にこれかよ。


「チッってぇなクソが……」


 なに言ってんだこの人。


「くだらねぇヘマしやがって。ケッ、こんなことなら仮眠室占拠しとくんだった」


 ……マジでなに言ってんだこの人。

 どこかの誰か知らないけど、気の毒に。


 空から降っても傷すらない上にこの態度。

 頑丈さの代わりに協調性を捨てたとかでもなきゃこうはならない。


「んで? そこのバカ面晒してるガキも空から落っこちたか?」

「バケモノと一緒にしないでもらっていいですか」

「誰がだクソガキ」

「空からパラシュートもつけずにダイブして『痛い』の一言で済ませて何言ってるんですかね」


 ……俺のこと気付いてたのかよ。


 早く逃げときゃよかった。こんな得体の知れない生物に捕まったらなにされるか分かったもんじゃない。


「んな趣味ねぇよ常識的に考えろ。ぶつかってお陀仏だろうが」

「目の前に例外がいるんですけどね。起き上がって平然としてるデタラメ人間が」

「そりゃあ俺は特別だからな。その辺の連中と一緒にすんな」


 じゃあ紐なしダイブしてもおかしくないじゃん。


 まあどうせそんなこと言ったって聞きやしないんだろうけどさ。

 何せ『特別』だそうだし?


「……ならそもそも落ちるなっての」

「お? 言うなクソガキかかってこいや」

「知ってます? 日本で暴力って犯罪なんですよ?」


 何この危険人物。

 足元のクレーター見りゃ誰だってそんな気失くすわ。


 美咲がいなくて本当に良かった。

 あの真面目ちゃんがこんな非常識の塊みたいな光景目にしたら卒倒したっておかしくない。


「んで? お前結局どこの所属だ行ってみろよ。担当者問い詰めてやる」

「わぁ職権乱用ー。今時こんな警官見たことないですよどこの署ですか? とりあえずあとでお問い合わせしたいんで名前聞かせてもらえます?」

「あ?」

「はい?」


 ちょっと漫画買いに行こうと思っただけなのに。

 あーあ。こんなことなら大人しく美咲塾に行っとくんだった。


「いや、警官じゃないんですか? そんなあからさまに『不審者です!』と言わんばかりのロングコートこんな時期に着こんでまさかほんとnぃだだだだだ!?」

「大人への口の利き方ってモンがあるだろ? あ??」


 だからってヘッドロックかけるやつがあるか!

 痛い。頭が潰れそうなくらい痛いからさすがに止めてくださいマジで!


 左手ぶっ叩いてなんとか解放してもらったけど、圧迫感はしばらく消えてくれそうになかった。


「とんだヤクザに掴まった……」

「だぁれが指定暴力団だこのタコ」

「タコに失礼ですよ。俺あんなに柔らかくないんで。むしろ顔真っ赤なのは――って、そうでもないか」

「オマエさっきからマジいい度胸してんなぁオイ」

「短気な人に言われても」


 ああもう最悪。俺が何したって言うんだよ。

 これ、ひょっとして本物の警察呼んだ方が早い?


「まぁ特別に今回は見逃してやるよクソガキ。はよ所属言えや」

「なんで学校名言わなきゃいけないんですか個人情報ですよ」

「あ? 拠点番号言えっつってんだよ。その頭面白くもない煽りにしか使えねぇのか」

「……拠点番号?」


 いよいよ本格的に何を言ってるのか分からない。

 大体なんの拠点だよ。おたく、秘密結社か何か?


(……まあこんな格好してるくらいだし、割とありそうだけどさ)


 この時期にあのコートはどうなんだろう。

 暑い。見てるこっちが暑い。もう六月になったっていうのに。


 今すぐその暑苦しそうなのだけは脱いでほしい。

 それとも、もしかして何か変なもの仕舞ってたりする?


「じゃあ誰だよリーダーは。担当教育官でもいいからとっとと吐け」

「……さっきからなんの話してるんです?」


 さすがに分かる。この人、学校の話なんてしてない。


「じゃあ何だよその魔力は」


「――っ!?」


 でも、さすがにそこまでは予想してなかった。


「おいおい、まさか自分の魔力の状態も分かってなかったのかテメェ。垂れ流しにしてどうぞ狙ってくださいっつってるようなもんだぞ?」

「……あの趣味の悪い白ローブ着なくていいんですか?」

「言っていい事と悪い事があるだろうが。誰があのゴミクズ共の仲間だって?」

「……そんな言葉、信用できるわけないじゃないですか」

「今の警戒態勢、もっと早くから取っとくんだったな」


 逃げられるわけがなかった。


 その時頭の中は真っ白で、どうしたらいいかさっぱり分からなくて。

 たった一言であそこまで腹を立ててた理由なんて考える余裕もなかった。


「仕方ねぇから名乗ってやるよ。俺は神堂零次。テメェの言う白づくめ――《創世白教》のクソ共を叩き潰す《アライアンス》の大エース様だ」

「自分で言いますか普通」

「周知の事実だからな」


 うわ、うざっ。

 自分で言ってて恥ずかしくないのかこの人。

 ましてついさっき空からダイブしたばっかりなのに。


「じゃあなんです? あの化け犬が出たら狩るのがお仕事だとでも? この前人のことを殴ってくれやがった眼鏡みたいに?」

「眼鏡だぁ? オイそれ橘の事じゃねぇだろうな」

「知りませんよ名前なんて。お前は弱いから全てを忘れて生きろその方がお前のためだとか何の説明もなしに殴られたんで」

「チッ。あのバカ、ンなしょーもない初歩ミス犯してんじゃねぇよ……」


 人を殴るなって?


 でもこの人がこんなに呆れるのはちょっとおかしい気もする。

 ヘッドロックのことまで忘れるレベルの鳥頭だっていうなら知らないけど。


「なんですか。結局見逃したらまずかったんですか?」

「そうじゃねぇよ。なんで『D-』のヤツを『F-』なんて判定してんだっつってんだ。チッ、なんでこんなガキにそんなこと……」

「……『D-』なんですか? 俺。前はあの人本当に『F-』って言ってましたけど。なんか変なもの首に当てた後で」

「はァ?」

「そこで睨まれても。その、橘? って人に訊いてみたらいいじゃないですか。知り合いなんですよね?」

「そりゃそうだ。まともな意見も出せるじゃねぇかクソガキ」

「そういうところ、この前の眼鏡とそっくりですね」


 この人さっきから何回『クソガキ』って言った?

 こんな調子で昨日の人とまともにやっていけるのか本当に。


「――おう、俺が電話したら五秒で出ろやこのスカポンタン」


 目の前でこんなこと言われたら余計にそう思う。


 ひどい。とにかくひどい。

 間違った電話の手本でも見ている気分だった。


 あの眼鏡――橘さんだっけ?

 とにかくあの人はこのデタラメ人間のことぶっ飛ばしていいと思う。

 その後で俺があの人にこの前の仕返し。完璧だ。


「あーそうだ。この前……おいクソガキ。オマエ、いつ見たっつった?」

「連休明けた少し後だった筈ですけど人間流れ星さん」

「そー五月。後で覚えとけよテメェ。そのくらいに『F-』判定だって見逃したガキいただろ。……あ? いンだよそんな細かいことは。いいからとっとと調べろや石頭」


 何か余計な一言足さないと気が済まないのかこの人。


「機材の故障とか見間違えとか、なんかあんだろひとつくら――うるせぇよ叫ばなくても聞こえてるっつの。……で? ほんとに何もねぇんだな?」


 最初からああしていたらいいのに。

 内容はさっぱりだけど、何かヤバそうな雰囲気だっていうのはさすがに分かった。


「いや、いい。分かった。悪かったな邪魔して。……あ、それと暫く朝の会議出らんねぇから。じゃ」


 そう思ったのも束の間。

 あまりに一方的な宣告。聞かされた方はきっとたまったもんじゃない。


「オマエ名前は?」

「……天条桐葉です。それよりいいんですか。相手の人滅茶苦茶キレてましたけど」

「出ようが出まいが俺の勝手だろうが。文句あるか」


 とんでもない暴君だった。

 なんなんだこの人。そんな勝手に動き回ったら駄目だろ絶対。

 組織の大エース(笑)とか言ってたくせにそんな調子じゃ他の人とも――


「――ぁだだだだだ!?!?? 俺何も言ってないですケド!?」

「目ぇ見りゃ分かんだよ生意気なこと考えてるって」

「あんな電話してよく言えますねそんなこと」

「オマエこそこの態勢で言うじゃねぇかコラ」


 じゃあ即ヘッドロックを止めてください。荒っぽい小学生かよ。


「結局どうだったんですか? 機材の故障とか何とか言ってましたけど」

「いーや、全部違った。テメエ調べた後のメンテも異常なし。記録にもしっかり『F-』っあったとよ」

「じゃあとんだレアケースってわけですか。わーい。どうすればいいですかね。飛んで跳ねてみましょうか? お金はないですけど」


「オマエ、何回やった?」


「な、なんのことかさっぱり……」

「惚けんじゃねぇよ。いいから答えろ。光らせてたんだろ?」


 ……そんなことまで分かるのかよ。


「……覚えてないです」

「はァ?」

「冗談とかじゃなくて。最初の方は一日一回が限界だったんですけど、最近は三〇分ぶっ通しでもまだ余裕があるくらいで……」


 自分でもびっくりした。

 最初は本当に使えもしなかったから。


「……決まりか」

「はい?」


 聞き返したけど、なんとなく分かってた。


「いいか天条。こいつは提案じゃなくて命令だ。死にたくなけりゃ俺に従え」

「っ……はい」


 だから、そんなことを言われて、他の答えなんてある筈なかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちわ! こちらでは初めてになります。 リバイバーゼロ、005まで拝読させて頂きました。 冒頭の掌から炎で、吸い込まれて読んでました。 もちろん☆5です。 引き続き楽しませてくださいね…
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