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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Fateful Encounter
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004

 今朝は美咲に突撃されたからできなかったけど、1つ試そうと思っていたことがある。


 昨日、眼鏡にやらされたよく分からないアレ。


 あの時は全く何も起きなかった。

 でも、本当に俺の力が足りてないのが原因だったのかなんてまだ分からない。


 大体なんだよ、こっちは何も知らないってのに好き放題言いやがって。説明もされてないのに分かるわけがない。


 いや、説明はされた。されたけど理解できそうな情報が皆無だった。


(……とりあえずその辺の紙でも使ってみれば分かるだろ、きっと)


 その辺の紙でもなんでも使えそうなもので試せばいい。


「目にもの見せてやるからな……覚えとけよあの野郎」

「覚えとけって、何を?」

「いや何って……は?」


 おかしい。幻聴が。先に帰った美咲の声が聞こえる。


「本当にどうしたの、きっくん。朝の電話もそうだったけどちょっと変だよ?」


 ……ああ、そうか。そういうことか。


「……喋る等身大フィギュアとかマニアック過ぎだろ。誰だよ。作った変態は」

「本物だからね! そんなのあったって誰も買わないし!」

「いやそうでもないって。美咲可愛いし」


 間違いなく。絶対に。

 クラスでも『可愛い人は?』って話題になったら大体すぐ名前が挙がるのを知らないなんて言わせない。


「嫌じゃないけど! 嫌じゃないけどせめてもうちょっといい雰囲気の時に言って!? 等身大フィギュアとか気持ち悪いこと言われた後だと素直に受け取れないから!」

「じゃあ真っ二つに割れて沈みかけの豪華客船の中で……」

「そんな状況なら他にする事あるよね!? そもそも乗りたくない!」

「じゃあどうしろって言うんだよ。わがままだなぁ美咲は」

「…………そろそろ怒るよ?」


 よし、エンジンも温まってきた。

 ついでに美咲の『おこ』ゲージも。……あとで土下座しよう。


「ところで美咲さん。なして我が家へおいでに?」


 しかも物音一つ立てずに背後に現れたりしちゃって。

 気配殺す練習でもしてるのか今度は。ひょっとして将来は忍者志望?


「あ、そうだった。もー、用事があって来たのにそっちを忘れるとこだったよ……」

「おいおい大丈夫か? 美咲こそしっかり休んだら? ただでさえいつも真面目に過ごして疲れてるだろうし」

「誰のせいだと思ってるの」

「ごめんなさい」


 いやはや怖いね、うちの幼馴染様。

 睨むだけでこの迫力。泣いてる赤ん坊もきっと黙る。


「それで用事って? まさか今朝の続きとか?」

「んー、それと全く関係ないわけじゃないんだけど……。きっくん、昨日の夜のこと覚えてないって言ってたでしょ? それがどうしても気になって」

「よく覚えてたな。そんな話」


 焦った。本気でお説教第二ラウンド突入かと思った。


「突然あんなこと言われたんだから当たり前でしょー。何か少しだけでも覚えてたりしないの?」

「と言われてもなぁ……俺も本当に何が何だかさっぱりで。近道してさっさと帰ろーって思ったところまでは覚えてるんだけど」

「やっぱり重傷だよ。行こうよ病院」

「頭のおかしいやつって思われるためだけに?」

「おかしいのは合ってるけどそういう意味じゃないから。それ絶対危ないから」


 しくじった。

 美咲に話せばこうなる事くらい分かってた筈なのに。


 なんとなくだけど、学校にいる間に見当はついた。


 あの野郎、散々失礼なこと言ってくれた上に殴りやがった。

 うっすらと覚えてる。あの衝撃、殴られたなら納得だ。


 要は俺が余計なことする前に(だま)らせて、その間にあの手この手で家まで運び込んだってわけだ。


(普通に犯罪だよなぁ……どうなってるんだ。倫理観)


 よく分からない力で暴れ回ってるような連中に行ったって無駄か。

 あんなこと言うくらいだから記憶もどうにかしたらいいのに。

 それだけないとか? ガバガバ過ぎない?


「でもほら、あのあと美咲に服引っぺがされて体温測った時も正常だったろ? 頭痛も腹痛も何もないのにどうしろと」

「してないよね、私そこまでしてないよね!? ほらやっぱり現在進行形で記憶能力に問題出てる!」


 とりあえず今はなんとかして美咲に納得してもらわないと。

 正直全く誤魔化せる気がしないけど、何かあってからじゃ遅い。


「え、酷い……俺あんな恥ずかしい思いしたのに……」

「男の子がシャツ一枚にされたくらいで騒がない!」

「なら否定するなよパジャマむしりの件」

「先にきっくんが引っぺがしたなんて言うからでしょ」

「いやあれどう見ても引っぺがしてただろ」


 なんなら押し倒して馬乗りになって強奪してたじゃん。


 母さんも父さんも気付かなくて本っ当に助かった。夜勤帰り万歳。

 あんなところ見られたらさすがに死ねる。


「大体、し……下まで脱がせたわけじゃないのにそんな騒ぐ? もう少しどっしり構えた方がいいよ、きっくんは」

「いやそこで顔赤くするなよ。変な想像するなよ怖いなオイ」

「変な言いがかりつけないでくれるかな!?」


 どこが。


 案外いけそう。代わりに別の意味で幼馴染のことが心配になってきたけど。

 大丈夫かこんな調子で。冗談抜きでストレスフルだったりする?


「よし、予定変更。先に美咲のカウンセリングから始めようか。ほら、何か悩みとかあったりしないのか?」

「そうなんです実は幼馴染の男の子の訳の分からない冗談に振り回されていて……」

「……それ以外で」

「え、聞きたい?」

「今日のところはこれまでにしておいてやろう」

「逃げるくらいならあんなこと言わなきゃいいのに」


 辛辣オブ辛辣。

 そりゃあ美咲に口で勝てるわけない。


 っていうか完全にミスった。

 折角上手く行きそうだったのに自分で流れぶっ壊してどうするんだよ。バカか。馬鹿だわ。


「具合が悪いわけじゃないのは今ので分かったからいいけど……本当に何も覚えてないの? ゆっくり一つずつで言いから思い出してみて。あの裏道使ったんだよね?」

「そんなことを言われても。なんか歩いてたらだんだん景色がぼやけて、そのまま……」

「それはどこ? 地図……あ、待って。いいよ私が描くから」


 すみませんねド下手くそで。


 勿論殴られた場所くらい覚えてる。覚えてるけど……


「ちなみに、なんだけどさ。もし俺が場所を思い出せたらその後どうするんだよ。まさか現場に突撃とかしないよな」

「きっくんの中の私ってどんなイメージ? 新聞記者か何かだと思ってる?」

「は、ははは。だよな。しないよなさすがに」

「当たり前でしょー」


 忍者とか思ったのは黙っておこう。

 微妙に新聞記者のイメージがおかしい気がするけどそれはそれ。


「ちょっと見に行くだけのつもりだし」

「はいレッドカード」

「それ暗記シートだけど」

「逆らうならもう一枚追加するぞこの野郎」

「理由の説明くらいしてくれないかな!?」


 行かせるわけないだろ。あんな場所。

 あとでおばさん達にも言っておこう。念のため母さんにも。


「どうしてこう変なタイミングで思い切りよくなるんだよお前は。止めとけって。何があるか分からないのにそんな場所行かない方がいいって絶対」

「登下校で使う道なのに? これから通るたびに嫌なこと思い出すより早く解決した方がよくない?」

「怪奇現象に合うくらいなら俺は通らない。ほら、昨日美咲も言ってただろ。あの噂話」

「失踪事件? 意外。きっくん絶対信じてないと思ってた」


 ああ信じてなかったよ。昨日のあれを見るまでは。


 直接関係があるかなんて分からない。

 でも実際にあんな化け物を見せられたせいで、そのくらいのことはあってもおかしくない気がしてる。


「こんな目に遭ったらさすがに警戒するっての。何が出るかも分からないってのに」

「今朝言ってた大きな犬みたいな?」

「いや、あれはついでに聞いただけ。夢で見た気がしたから」

「なら先にそう言ってね? ……今度からは、絶対に」

「ハイ」


 ……言えるわけがない。あんな化け物の話。


 多分、美咲もそのつもりで今の話を振ってきた。

 あんなこと言うくらいだし、鈴木もなんとなくの違和感くらいはあるんだと思う。

 でも絶対、絶対言っちゃ駄目だ。


「……本当にいいんだね?」

「まあ一頭。美咲もしばらく使わない方がいいぞ、あの道。絶対ヤバい」

「かもね。そういうことならきっくんと登校するのが一番安全かなー」

「いいのかよ。自分の友達は」

「余計な心配しなくていいから。そういうきっくんは?」

「あいつらの家全員別方向だし」

「……大丈夫? 友達付き合い」

「お前は俺の母親か」


 正直、朝の電話で物凄くほっとした。

 いつも通りの朝なんだって。


 眼鏡の態度は今思い出すだけでもムカつくけど、美咲を巻き込むようなことだけはあっちゃいけない。


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