043
「な、なんで……」
開いた口が塞がらない――そんな言葉の、お手本のみたいな表情だった。
何が起きたのかちんぷんかんぷん。
状況は分からなくても、腕に取り付けた装置が間違いなく脱落を知らせてる。
(……あの爆発が分からなかったなんてこともないだろうし)
あんな器用な真似はさすがにできなかった。
東雲さんが無理ならもうお手上げ。
未だに繊細さ云々で注意をされる俺にはそんなことできない。
俺が引き付けている間にイリアと東雲さんに後ろへ回り込んでもらって、そのまま二人に不意打ちをしてもらうしかなかった。
「……どうやら、上手くいったようですね」
「た、多分……。ありがとう、天上さん。手伝ってくれて……」
「感謝をされるような事ではありませんよ」
ありったけの封魔石を投げつけるから、当たれば勝てるのは分かってた。当たれば。
俺がジャンプする方角を間違えたら気付かれるし、引き付けきれなくても駄目。
他の二人もちゃんと倒しておかなきゃいけない。
そもそも、東雲さんにあれのことを聞いした時点では誰が小城を撃破したのかもはっきりしなかった。
その辺りはイリアや東雲さんも同じ。
動き出すタイミングとか位置とか、それ以外にも色々と。
どこかにちょっとしたズレがあったりしたら、やりきれなくてこっちが不利になってもおかしくなかった。
「それに、感謝すべき相手は他にもいるでしょう。今は戻るのが最優先ですよ」
「そ、そっか……っ」
東雲さんじゃないけど、上手く言って本当によかった。
戻ろうと言っているイリアもどことなく上機嫌に見える。
少し早口に感じたのも、きっと気のせいなんかじゃない。
「せっかく言ってもらったんだし、イリアも素直に受け取ったらいいのに」
「断ってなどいないでしょう? 私が一番ではないというだけの話ですよ」
「そんなところでこだわらなくても」
「何を言いますか。いちばん重要なところでしょう」
それが建前なのは、すぐに分かった。
左右でそれぞれ少しずつ結われた髪が跳ねていた。
嬉しさのあまりスキップしているように、跳ねていた。
なんというか、変なところで素直じゃないというか。
(まあ、その辺りは小城を連れて戻ってからでも遅くないかな……)
いつまでも待たせるのはさすがに悪い。
一発目だったからどうしようもなかっただけで、間違いなく今回の立役者。
「ちょっ……待って。ちょっと待って!」
――さっさと戻ってしまおうと思ったその時になって、引き留められた。
「ほんと待って。ちょっと待って。なんでさっきの、防いで……?」
止めはしたけど、困惑っぷりは相変わらず。
一緒にいた二人もそう。
別に怒ってるってわけじゃないけど、自分のところの先輩の言葉に頷いてた。
(……桐葉)
(ん、了解)
それならそれで、さっさと話してしまうに限る。
「東雲さんが、そっちの攻撃方法に見当をつけてくれたからですよ」
「…………えっ」
気付いたのは東雲さんなんだから、東雲さんに話してもらった方がいい。
後でもう一回、話してもらうことになるんだろうけど。
それならそれで、こっちを予行演習とでも思ってしまえばいいんだし。
「そっちの子が……? なんか、本人が一番驚いてるんだけど……」
「あ、えっと、それは……その」
「まあまあ、そんな緊張しなくても。別に取って食われるわけじゃないんだし」
東雲さんが気付いてくれなかったら、本当に強行突破を仕掛けなきゃいけないところだった。
あんなもの分かるわけない。
というか、何を食べたらあんなものを思いつけるんだろう。
「……本当なの?」
「えっ、と…………はい。全部ってわけでは、なかったんですけど……」
「そこで遠慮をする必然性などないでしょう。謙遜もほどほどにしておくべきですよ」
「そ、そんな……」
「そうそう。もっと堂々としてるくらいでいいのに」
「さ、さすがにそれは……」
誇張抜きに、東雲さんが教えてくれたのはほとんど答えみたいなものだった。
実際のやり方が分からないとは言っていたけど、そんなの誤差。
こっちから仕掛け返すことができないっていうくらいで、何の問題もなかった。
「……なんでもいいけど、まさか防御しっぱなしだったってわけじゃないよね? 何発あるかも分からないのに」
「いえ、その……連射はできないって、思ってましたよ? 防御を二重にしたのも、念のためで……」
確かに、連射されたらヤバかった。
直に受けたら間違いなくKOされるし、ピンポイントで防ぐのも難しい。
何発もストックできるような代物なら、いよいよ向こうの封魔石が切れるまで粘るしかなかった。
「天条くんなら、二発目の準備をさせる前にそっちのペースを乱せると思って……。その隙を突くって、ことになって」
だけど、そんな事をしようと思ったらどれだけ魔力が合っても足りない。
この人だって見るからに疲れてる。
まだ二桁も撃ってない筈なのに、だ。
「……さっきから肝心の部分が聞けてないんだけど」
「ご、ごめんなさい……」
神経をとがらせなきゃいけないだろうし、そうなるのも当たり前。
「……いいよ。別に。謝らなくて」
東雲さんを見ながらため息もついていたけど、その顔はどこかほっとしてるようにも見える。
「封魔石を先に割ってたのも、気付いてたんでしょ。よく気付けたよね。他じゃ絶対に使えないテクなのに」
「そ、それは……たまたま……」
「偶然で気付かれたら堪んないって」
――その人の技術を、封魔石の魔法を溜めるようなものだって東雲さんは言った。
「方向とか、規模とか、飛び方とか、全部調整して……めちゃくちゃ大変だったんだから。あれ」
「ぅ……」
一点集中。弾速上昇。
他にも多分、メリットはある。
全く別の形に変えてしまうって考えたら、無茶苦茶もいいところ。
「だからそんな顔しないでって。まるでこっちが虐めてるみたいだし」
「そ、そういうわけじゃ……っ」
「はいはい、分かった分かった」
一朝一夕でできるものじゃないってことくらい、さすがに分かる。
「で、そっちの二人はこの子の作戦を頼りにしたってわけだ」
それでも、勝ちまでは譲りたくなかった。
「大体そんなところですね。まず、イリアに皆さんの場所を探してもらって」
「初撃を桐葉が防げば、あとはもうこちらの勝ちは決まったようなものですから」
「うわぁ、凄い自信……」
この前から、ずっとそう。
あれから準備してきて、挑んだ。
お互いの力も、おかげで今まで以上に把握できた。
「いちばん奮闘してるからってあの男子真っ先に狙っちゃったのがマズったのかなぁ……。あっちの三人の中じゃ一番危なそうだったのに」
何を言われようと、この結果は全員で掴んだもの。
「そ……それはそうだと、思います。小城くんがいなかったら、あのときの一人も倒せなかったので……」
誰が欠けていても、きっと駄目だった。




