042
(さーて、どこから出てくるかな……)
勝たせるものかと、内心でつぶやいた。
(こっちのリーダーまで落としてくれて勢いづいちゃってるみたいだけど、そうはいかないよ。いくら神堂零次の教え子でもね)
確かに、ここまで人数を減らされてしまうとは思っていなかった。
前回とは比べ物にもならない。
あれの存在がなくなったとはいえ、ここまで迫られるとは思ってもみなかった。
「多分、そろそろ痺れを切らして仕掛けてくると思うからー。その時は手筈通りによろしくねー」
「「はい!」」
しかし、その勢いに乗せられたままやられるなどプライドが許さない。
2943のチームが既に実際の戦いに何度も赴いたことは知っている。
2811では経験したことのないような大きな事件にも。
たった一か月の間とは思えない濃密な時間。
そんな経験が、彼らを大きく成長させたのも間違いない。
(火事場の馬鹿時からはちょっと怖いけど、それ頼りで勝てるほど甘くはないよ……?)
しかし自分達が重ねてきた時間の質が負けているなどとは全く思っていなかった。
これまでトレーニングにかけた時間が違う。
2943がどれだけ熱心にやっていたとしても、自分達を大きく上回るなどそれこそ不可能という自信がある。
夏の合宿然り、他のエリアと共に活動した経験も十分にあった。
チームとしての完成度で劣る筈がないのである。
(戦力的には多分トントン、かなぁ……。普通ならもうちょっとこっちが有利になっててもおかしくないんだけど……)
向こうに流れがあるうちに一気に持っていかれてしまったのだから仕方がない。
今回、想定外の事態にいくつも見舞われた。
前回ほどの圧勝とはいかなくとも、追い詰められそうになるなどあり得ない筈だった。
(おかげでこっちもコレが使いやすくなったけど……なんだかなぁ。あれであの子が自分の魔法を使えるようになったらどうなるんだろ)
その原因は、どう考えても天条桐葉だった。
好き放題にさせるつもりなど、今回も前回もなかった。
しかし、事前の想定を天条桐葉は明らかに超えてきた。
実際に負けてしまうことはなくとも、ここぞというところでペースを手にすることができなかった。
(……何かの拍子でバレたら怖いし、そうなる前に一気に決めてしまわないとなぁ……。他の三人なら誰が残ってても大丈夫そうだし)
――とにもかくにも、最優先で警戒すべきは天条桐葉。
「…………あれっ?」
その考えは、決して的外れなものではなかった。
「さっすがぁ……!」
しかし、他への警戒をあまりに怠っていた。
「な、なに? なんで……っ!?」
「なんでもですよ!」
三凪が予測した通りだったと、桐葉は思わず舌を巻いた。
弾けた雷が弾け、たちまち辺りを煙が覆い尽くしていく。
その中から聞こえた声に、桐葉は返した。
(ひとまず一個……。残りは見つけ次第、か……!)
いつかは自分自身へ届いていたかもしれない魔法攻撃。
それをたった今、桐葉は自らの手で破壊した。
聞かされたところで、すぐには信じられそうにない話。
しかし今、桐葉が放った封魔石は確かに標的を破壊した。
2811の生徒の戸惑いの声が、何よりの証拠だった。
(問題は、あとどのくらい残ってるかってことだけど……)
安堵している暇はない。
破壊される瞬間をしっかり両目に収め、あえて姿を晒して一瞬その場に留まる。
(――ない!)
次がすぐに飛んで来ることはないだろうと言うのが三凪の見立て。
「閉じ込められちゃいなよ……!」
「全力でお断りします!」
そして、彼女の予測はまたしても的中した。
突如として背後に、真横に現れる氷の壁。
更には地面を突き破って姿を現す。
桐葉の行く手を阻むばかりか、牙を剥いて襲い掛かる。
(多い、多い! こっちに全力集中かよ……っ)
強度は三者三様。
力を込めれば壊せるものがほとんど。
しかし、桐葉が力任せに蹴り飛ばしても壊れることのない代物も紛れ込んでいた。
残された頑丈な氷壁が地に伏し、辺りに不揃いな段差を作る。
「とっ、ととと……!?」
強引に突破をしようとしても、自然と桐葉の動きは限られる。
「閉じ込められるのが嫌なら、お疲れ様!」
(っ――!)
その一手を放つには絶好の状況が、作り上げられた。
三凪が予測した通りの代物が。
「嘘っ、外した……!?」
それを聞かされ、桐葉が備えていたそれが。
(あっ、危なぁ……!)
しkし予想通りとはいえ、桐葉は冷や汗をかかずにはいられなかった。
それが自分を脱落させ得るものだと、肌で感じた。
直に受けていれば危なかった、と。
(こんなことできる人が残ってたなんてな……っ)
茂みを抜けた先でまず見つけたのは、2811の最上級生の一人。
その脇に控えるようにして、残った二人も集まっていた。
「え、えぇ……? 今の、直撃コースだったのに……」
その表情は、桐葉の目から見てもはっきり分かるほど驚愕に染まっていた。
自らのみに襲い掛かった現象を、理解しきれない。
信じがたい現実を受け止め切れていなかったのだ。
「そ、それにしてもいきなり出て来たね? 他の二人は? まだいる筈でしょ?」
「そんなこと教えるわけないじゃないですか。こっちはこっちの作戦があるんですから」
「……まあそうなるよね」
溜息を突くふりをして、深呼吸しているのを桐葉は見逃さなかった。
相手の動揺は未だに抜けきっていない。
最上級生がそうであるように、残った二人も。
戸惑い気味に自身と先輩とを交互に見る姿を桐葉は捉えた。
「……じゃあ、一番厄介な君から行かせてもらおっか――!」
しかし、決定が下されてからの動きは早かった。
「っ……!」
自らに襲いかからんとする大量の封魔石を、桐葉は確かに見た。
(どこにこれだけ隠し持ってたんだか……!)
呼んでいた通りだと、真正面に突っ込みながら。
「うわっ……!?」
「なんだ、これぇ……っ!」
すれ違いざまに投げ散らかした封魔石が、我先にと一斉に弾け飛ぶ。
(っしゃ……!)
一気に駆け抜けた後、小さく振り返った桐葉はその瞬間を確かに視界に収めた。
飛び掛かろうとした桐葉を見て、二名は僅かに動きを鈍らせた。
応戦しようと身構えてしまったために、防ぎきれなかった。
全速力で駆け抜けた桐葉の行動に戸惑いほどなく、崩れ落ちた。
「っ……なんのこれしき――」
残りは、一人。
「センパイ、後ろ」
桐葉と、自身の後輩に完全に意識を奪われてしまった一人だけ。
「は――――」
最後の一人を呑み込んだ封魔石の爆発は、決着を知らせる音色さえもかき消した。




