038
突如として響いた音が与えた衝撃は、並の魔法の比ではなかった。
(ナイス……っ)
その衝撃に身体を押されるように、桐葉は飛び出した。
「何ッ……!?」
それは、この場に聞こえてくる筈のない音。
少なくとも目の前の相手にとってはそうだったのだろうと、桐葉は悟った。
「馬鹿な……一体、何故――」
でなければ、桐葉が飛び込むのに十分な隙が生じる筈がない。
「うちの仲間がやってくれたからですよ!」
懐へ潜り込み、更に封魔石を押し付け突き飛ばすことなど――できなかった。
「うッ、ぐぉ……!?」
押しの一撃が仰け反らせ、更には追撃の炎が相手を地面に叩きつけた。
「ッ、ふ――……ふーっ……!?」
桐葉が押し付けた封魔石は5つ。
僅かにタイミングをズラして起きた爆発は――本来、意識を奪うどころでは済まないものだった。
それでも、まだ脱落を知らせる音色は響かない。
「おぉお……ぁっ……!?」
そしてそれは、桐葉にとって予想通りの展開だった。
2811のリーダーの周囲に置かれた封魔石が、一斉にその身を散らせた。
桐葉が放った封魔石は、雷撃と暴風となってその者を襲った。
調整された封魔石でなければ、犬型の怪物の群れさえもまとめて消滅させかねない。
分厚い防壁を展開していなければ、脱落は避けられない。
「……退いたか」
「退きもしますよ。見るからに攻撃が届いてないんですから」
「届いてもらっては困る」
そして、2811のリーダーは、それを防ぎ切るだけの防壁を張っていた。
本来であれば、最初の爆発で脱落していてもおかしくはない。
本人の能力に合わせて多少の差がつけられているとはいえ、測定装置もそこまで寛容ではないのだ。
それもこれも、2811のリーダーが強固な防壁を展開したから。
「君の本来の魔法ならともかく、この封魔石のものなら多少は防げる。……もしものための特訓が、役に立ったということだ」
「褒めてくれるのは嬉しいですけど、いいんですか? そんな風にあっさりとバラしちゃったりして」
「教えたところで、その封魔石で突破できないことに変わりはない」
実際には、防壁の展開には限度がある。
どれだけ念入りに準備をしたところで、それぞれの魔力には限りがある。
外部からの供給を受けることなど不可能に等しい。
だが、2811のチームをまとめる彼の魔力が尽きるより、桐葉の手持ちがなくなる方が確実に早い。
相手の魔力と自らが持つ封魔石の量を比べた時、そう結論付けザルを得なかった。
「最初のように、途中にわざと落とした様子もなかった。不意打がないと分かれば安心だ」
「ついでにこうして喋っていれば、俺が隠していても巻き込まれるリスクを下げられるってわけですか」
「その通りだ。よく分かったな」
「こう見えて、こっちも警戒はしていますから」
あえて桐葉はそのことを指摘した。
2811のリーダーとの距離は約5メートル。
その直線状に、桐葉は封魔石などひとつも置いていない。
(さすがに、向こうにも多少は効いてると思いたいけど……)
最初に二人を脱落させた時点でもう、次はないものとして考えていた。
他のメンバーであれば話はまた変わってくるかもしれない。
だが、2811をまとめる彼にだけは通じないという確信があった。
「……そういうことなら、センパイさん。少し、付き合ってもらってもいいですか」
――この人を相手に、封魔石だけでは足りない。
この試合が始まる前から、分かりきっていたことだった。
対面した時点で、大掛かりな仕掛けなど用意できないことも。
組織の側から支給される品だけでは突破が難しいということを、桐葉は当然理解していた。
「付き合う……? 何を言っている。実戦で試そうなんて――」
「違いますよ」
故に、桐葉は自らにとって最大の武器を活かすと決めていた。
「………………な……っ?」
直後に桐葉の耳に届いたのは、間の抜けた声。
あまりの事態に理解が追い付いていないであろう、2811のリーダーの声だった。
「…………何ぃッ!?」
その彼は、飛んでいた。
2811も恐れている師によって、魔法以上に鍛えられた武器を桐葉が掴んだことで。
掴んだ桐葉が、力いっぱい投げ飛ばしたために。
「一体、自分が何をしているのか分かって――」
非難の声を、桐葉が最後まで聞くことはなかった。
空中目がけて桐葉が投げた封魔石。
それらが起こした爆発によって、かき消された。
「別にルールを破ってなんかいませんよ!」
「そういうわけでは……!」
着地地点を目がけ、桐葉は走り出した。
自身の行動に対する、2811のリーダーの焦り。
それを肌で浴びるように感じながら、力一杯に地面を蹴り飛ばした。
(あれでも駄目か……っ)
しかし、桐葉も決して余裕があるわけではなかった。
集中力が欠如していたであろう一瞬。
そこに叩きつけた封魔石でさえ、防壁を破るには至らなかった。
想定されていない一発目以上の効果など、期待できる筈がないのである。
「もし今のであの辺りの幹まで飛んでいたらどうする……!?」
「そのくらいは考えてますよ!」
しかし、桐葉の勢いが衰えることはなかった。
それどころか、より激しく攻め立てる。
封魔石を右手に脚で、腕で、執拗なまでに追い立てる。
「考えているからいいというわけでは……!」
「それを言ったらこの前のデカい一発だって、ひょっとしたら俺が落ちて大怪我してたかもしれませんけどね?」
徐々に、着実に退く2811のリーダー。
その足取りは怪しく、いつ転倒してもおかしくはなかった。
しかし、彼に怪我をさせようなどとは桐葉も思っていなかった。
当然、そのために手を抜くようなこともしない。
相手の選択肢を奪うには、半端な攻めでは届かないことを知っていた。
「だが、あれは元々組織の用意したもので――!」
「それを言うなら、こっちは準度100パーセント、自分が身に着けた力ですよ……っ!」
まして、いま桐葉の手にある選択肢はそれだけではない。
「――――ッ!」
桐葉が手を突き出した次の瞬間、光が森を貫いた。




