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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
319/596

036

「――っ」


 再び、桐葉は跳んだ。


 力いっぱい地面を蹴って、森の中を這うように駆け抜けた。

 木と木にぶつからないよう、しかし翼を広げることはなく。


 桐葉が耳を澄ませても、聞こえてくるのは風を切る音ばかり。

 それか、地面に降り立ったその瞬間に響く鈍い音。


 かれこれ数分。

 見える景色にも変化の兆しはなく、どこへいるのかさえ見失いそうになる。


(いい加減に、向こうも動いてくる筈……。このまま待ってたって、決着が着くわけでも――)


「そこにいたか!」


 そこにとうとう、異物が紛れ込んだ。


(ない、よな!)


 桐葉の周囲は、瞬きする間もなく燃え上がった。


「……《氷壁》」


 それでも、桐葉が作り上げた氷の壁を溶かすには至らなかった。


 封魔石に込められた《火炎》が消え去るまで、桐葉の《氷壁》は術者を守り続けた。


「さすがに、気付かれちゃいますよね。これでも頑張ってたつもりだったんですけど」

「頑張りが過ぎたからすぐに分かった。あれだけ派手に動き回れば、離れていてもすぐに分かる」

「それは確かに」


 しかし炎が消えても、更に封魔石が砕けることはなかった。

 魔力の動きさえ、ひとつもなかった。


 桐葉がそうしているように、自らが持ち込んだそれに手をかけ睨んでいた。


(……さすがにこれはちょっと想定外、かも)


 周囲を探る。

 しかし決して、目の前の相手から意識を逸らしてはならない。


 相手が近寄ろうとすればその分後ろへ退き、左に動けばそれを追う。


 相手の姿が木の影に隠れてしまわないように。

 自らの姿を相手の視界から消し去ってしまうために。


(こんなところを、意味もなく一人で走り回る筈もない……。この前の様子を見ても、強行突破を仕掛けられたら不利なのはこちら……)


 2943と、2811。


 それぞれチームのリーダーとして登録されている二人。


 そのことを意識しながら、着かず離れずの距離を保つ。

 隙を見逃すまいと睨み合う。


 しかし両者の間の沈黙は、長くは続かなかった。意図的に破られた。


「何人いるかと思えば……一人か。意外だったな」

「お言葉ですけど、そう言うそちらも一人じゃありませんか。てっきりこの前みたいに俺に人数をかけるのかと」

「最初はそのつもりだった。……君の残した封魔石のせいでそれができなくなったが」

「それでもこっちが不利なことに変わりはないですけどね」


 口を開いても、やるべきことに変化はない。

 状況の変化はまだまだ小さい。


(……やはり、どこにもいない……? だが、見捨てたとはとても……)


 小さな葉の音すら聞き逃さないよう耳を澄ませ、一挙手一投足も見逃さない。

 

 小枝を踏み抜く音に、ブザーが紛れ込むことはない。

 現時点ではまだ、他に脱落者は出ていない。


(てっきり隠れてこっちを狙ってると思ったんだけど、どこにもいない……。持ち込んだ荒れを仕掛けてるなら、さすがに見えるだろうし……。皆、ぶつかってないといいけど……)


 その事実は小さな安堵をもたらすと同時に、不安となって襲いかかった。


 脱落していないにもかかわらず、姿が見当たらなかった。

 今この瞬間に自分のことを狙っていてもおかしくない相手チームのメンバーの影さえも掴めずにいた。


(まさか、戦闘を彼に全て押し付けた……? この人数差でも勝機はあると踏んで、身を隠したというのか……?)


 頭の中に浮かび上がった懸念が、口を塞がせる。


 目の前の相手の言葉が届かないからこそ、唇は固く結ばれた。


 この場での1対1は、実は双方にとって想定外。

 しかし現時点で、相手がそうだという確信はない。


(俺のことを探すなら、こんな風にバラけさせたりしないだろうし……。イリア達狙い? 今ならまだ頭数で勝ってるから?)


 考えに考え――そうすることで、自らの結論を導き出そうとしていた。


(この前みたいにしてやろうとか思ってやがるなら――)


 やらせるものかと、桐葉は一層右手に力を込める。


(そこまで浅はかなことを考えているのなら――)


 しかし、最終的に取った行動は――奇しくも同じだった。


「「ッ!?」」


 お互い、相手に向かって正面から封魔石を叩きつけたのだ。


(くっ、やはり向こうも……!)

(痺れを切らしてくると思った……!)


 衝突の衝撃で砕けた封魔石は、丁度二人の中間地点で砕け散った。


 手にしていた封魔石も、また同じ。

 相手を打ち破る可能性を少しでも上げるためには、避けられない選択肢。


 その時だけは、それが双方に悪いように働いた。


 爆発同士が打ち消し合うことはなく、むしろその威力を強めてしまった。


(このっ――)


 当然、今更その程度のことで怯みはしない。


「――くらいっ……っ!」


 封魔石が起こした炎へと、桐葉は迷いなく飛び込んだ。


「何ッ――!?」


 そんな桐葉の姿が、動揺を誘った。


「――ォおおっ!!」


 その勢いを乗せた封魔石は、弾けると同時に地面さえも吹き飛ばした。


 桐葉の手で、叩きつけるように放たれた三つの封魔石。


 それらは地面に突き刺さるや否や、盛大に弾け飛んだ。


(魔法も!? いや……!)


 それは一瞬、あらかじめ込められ以上の力を発揮したと誤解させた。


(さすがに、近すぎた……っ)


 両者を軽々吹き飛ばす衝撃が、そう思わせた。


 一方は防壁を盾に、もう一方は飛び退くことで凌いだ。


 結果として、一瞬だけ近付いた距離は――またしても、同じだけ開いてしまった。


「……やはり、今ここで撃破させてもらう。この前の借りもあるのでな」

「それはこっちも同じですよ……っ!」


 もっとも、その距離が保たれた時間は僅かなものだった。


((押し切る!))


 その場に留まるようなことを、しなかった。


「――阻め、《氷壁》!」


 逃げ場を奪い、爆発の衝撃をより手中させるための塀が聳え立つ。


「――蹴散らせ、《暴風》!」


 しかし桐葉の手を離れた封魔石は、次の瞬間空を舞った。


 それどころか。


(危な……っ!?)


 桐葉の手を離れた封魔石は、彼の足元に舞い降り爆ぜた。


 彼が回避したのは、寸でのところだった。


「……避けるか」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ……!」


 しかし動きが鈍ることはない。


 相手がそうであるように、桐葉もまた、安易な決着を許すつもりなどなかったのだ。


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