034
「天条桐葉……!」
「大正解……っ!」
再び桐葉は、手にした封魔石を一斉に投げつけた。
「ぅお…………!?」
激しい明滅が、辺りを襲った。
それを皮切りに地面が凍り、墜ちた枝の下から激流が噴き出す。
全く同時に、真反対の位置で同時に起きた。
桐葉が手放した封魔石が弾け、2811のメンバーを襲った。
「やってくれたな……ッ!」
――しかしその次に爆発に見舞われたのは、桐葉だった。
「この攻撃、仕返しのつもりか……!? 随分と派手だったな!」
「無いとは、言いませんよ……っ。やられたら倍にしてやり返せって、教わったもんで――!」
一斉に放られた封魔石を、飛び退き避ける。
「うそっ……!?」
「なんつー馬鹿力……」
背後に現れた壁を、桐葉は右肘で破壊した。
退路を確保するため、彼は躊躇なく自らを叩きつけて砕いた。
「怯むな! 向こうに攻撃の隙を与えることになるぞ!」
「はいはい分かってますよ……っ!」
それぞれの手に、封魔石が握られているのを桐葉は見た。
全員の標的が自らに定められているのを確かめた。
(それじゃあ――)
すかさず桐葉も、2811の生徒の生徒を目がけ封魔石を構える。
「……次、よろしく」
しかしそれらは、地面に落ちた。
小さく開かれた右手から、次々と重力に引かれるまま落ちた。
全く同種の封魔石が、桐葉の足元に散らばった。
「えっ、なに? なんで捨てたりなんか――」
――直後、辺り一体を《煙幕》が覆った。
桐葉が手放した石の下から、一斉に煙幕が溢れ出した。
「うっわ、マジ……っ!? この前のやり返しとか……!」
「今すぐ狙え! 場所が分かっている今のうちに!」
煙の中から響く声。
高低の異なる声には、小さくない困惑と焦りがはっきり表れていた。
「俺、行きます……! 抑え込みますから、先輩達はそこを狙って」
「待て、そこまではしなくていい! 体勢を崩すな!」
「まあまあ、二人で行けば問題ないんじゃないの……っ?」
「お前まで……!」
――風を切る音を桐葉は聞いた。
2811の生徒が向かってくる。
自身を標的と定め、一直線に。
煙を撒くその瞬間に桐葉が立っていた一点。
そこを目指して、凄まじい速度で向かってくる。
手放し捨てた、《火炎》の封魔石が残されたその場所に。
「え……っ」
「ちょ――!」
鈍い音が響いたその時、部分的に煙が晴れた。
桐葉が置いた封魔石が起こした爆発に、辺りの《煙幕》が蹴散らされたのだ。
桐葉が自らの魔力を用いて起こした《煙幕》が。
「やられた……!」
「ちょっ、ちょっ……そんなのアリぃ……!?」
甲高い二つの音が、僅かに重なり森の中に響き渡る。
脱落したのは、2811側の二人。
桐葉を追って仕掛けようとした二人は、煙が晴れたその場所にへたり込んでいた。
「一気に二人とか、さすがにやばくないっすか? これで人数差も……」
「待て。ここで我々が取り乱せば今度こそ向こうの思う壺だ」
遠くから聞こえるやり取りに耳を傾けつつ、桐葉は所在を確かめる。
大きな移動は、今はない。
視界が覆われている中で、少しずつ一か所に集まろうとしているくらいのものだった。
「読み切れなかった……ッ!」
(今のところ、予定通り……いや、それより上手くいってる……!)
はやる気持ちを抑え、桐葉は退いた。
既に脱落してしまった二名にも見つからないように。
最初に相手をかき乱した時点で、ひとまず彼の役目は終わっている。
追撃はさすがにできない。
煙の中とはいえ、向こうは一カ所に集約している。
安易に飛び込めば、今度は自らが脱落させた二人と同じ目に遭うと桐葉は予感していた。
「――さすが、やってくれるじゃねーか……っ」
何より。
「……? ねぇ、リーダー、今こっちに何か落ちて……」
「ッ!? 退け! 退けぇ――――ッ!!」
二の矢は既に、放たれていた。
「っし、やりぃ……っ! これであいつも少しは考え入れ替えてくれるんじゃねーの?」
やっぱり、自信ありげな様子だった。
今のところ三人目の脱落者は出ていない。
出ていないけど、大きな負荷をかけられたのは間違いない。
「まだその、あまり油断しない方が……。もう、同じ手は使えないと思う……」
「おそらく次は最大限に警戒してくるでしょうね。……さすがにこちらへ仕掛けることはないと思いますが」
「でも、さすがにいつまでも同じ場所に留まるとは思えない」
向こうからしたらやり返されたようなものだし、このまま黙ってるわけがない。
一気に二人もなんとかできたけど、数的不利は相変わらず。
油断してたらこのまま逆転される可能性だって十分にある。
(完っ全な不意打だったもんなぁ、アレ……)
また同じ方法で突破しろって言われても、さすがに無理。
最初の封魔石を見た時点で警戒される。
イリア達が追撃した時がそうだった。
向こうのリーダー、逃げろって大声で指示を出してた。
煙の中に投げた封魔石に気付いてた。
「なんだよなんだよー。少しくらい喜んでもよくねぇ? せっかく上手くいったんだからよ」
「その台詞、これ以上ないくらい完璧なフラグなんだけど」
……小城も油断してるわけじゃない。多分。きっと。
こんな状況なんだからそれはない。
張り詰めっぱなしだと最後まで持たないとか、そういうアレ。
それは分かってる。その通りだと思う。
ただやっぱり、前回の結果的にm
「そこんとこはあれだ。天条がしっかりしてりゃ大丈夫だろ」
……この野郎。
「確かに大丈夫かも、東雲さん。いざとなったら小城が殿やってくれるみたいだし」
「誰もんなこと言ってねーよ!?」
「こ、声、声……っ!」
「わ、ワリっ……」
(やばっ……!?)
慌てて、周囲を探す。
あんなことで見つかるなんてさすがに笑えない。
東雲先生になんて言ったらいいのか分からない。
「……い、いない?」
「多分……」
だから、周りに姿が無いって分かって心底ほっとした。
聞こえているかもしれないけど、それはそれ。
警戒しなきゃいけないのは最初から変わってない。
……何度もやらかしていい理由にはならないけど。
「……まだまだ気は抜けそうにありませんね」
「もちろん、最大限に気を付ける。……さっきのもあれっきりだから」
「あら、まだ何も言っていませんよ?」
「目を見たら分かるっての……」
ただ、小城の気持ちも分からないでもなかった。
「けどほんと、上手くいったよなぁ。やる前はハラハラしてたけどよ――」
ここまで刺さるとは、俺も正直思っていなかった。




