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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
218/596

018

 狙い通り、席はすぐに確保できた。

 今日の運気もさすがにそこまで悪いわけじゃないらしい。


 そんな安心も、小城のトレーを見せられたおかげでたちまち吹き飛んだ。


「お、小城くん……そんなに食べられるの……?」


 東雲さんの気持ちもよく分かる。

 あの量を見たら、さすがに確認したくなる。


 どこかの四人家族に負けず劣らずのハンバーガーにポテトにナゲット。

 自分で買いに行くって言った理由も分かってしまった。


 どうやったら、たった一枚のトレーの中に収められるのか分からない。

 ちょっとの衝撃で一気に溢れ出してしまいそう。


 そんなものを持っているのに、小城はいたって冷静だった。普段と何も変わらない。


「食べられる量しか頼まないって。っつーか、天条が少な過ぎんだよ。それだけじゃ絶対足りねーよ。ポテト分けてやろーか」

「だったら後で、少しだけ。残してくれなくて大丈夫だから」


 別に俺も、食が細いっていうわけでもないんだけど。


 むしろ、今日は少し多めに頼んだくらい。

 それでも小城と比べたらやっぱり少ない。倍半分くらいの差があった。


 魔法の使用量が食事の量に直接影響してるわけでもない。

 組織の食堂だけ並盛が特盛サイズになっているとか、そういう話もこれまでに聞いたことがない。


 小城なら特盛でも余裕で間食できるだろうけど。

 いそ大食いチャレンジにでも挑戦すればいいのに。


「いいって、別に。『ちょっと』とか遠慮すんなよ。俺達、仲間じゃねーか。なぁ?」

「小城こそ、そんなに気を遣わなくても。朝食、抜いたんじゃなかったっけ?」

「いやまあ、そーなんだけどさ? やっぱ、少ないのを見ると心配になるじゃねーか。育ち盛りだぜ?」

「べ、別に、天条くんのも少なくないと思うけど……」


 ……さては何か別の理由があるな、この野郎。


 さっきの理由も全くの嘘ではないんだと思う。

 何度見ても、小城のトレーと比べると差が凄まじいのは本当のこと。


 ただ、百パーセントの善意ではないというだけの話で。


「そういうことなら大丈夫。そのために待ってもらうわけにもいかない。どうしても足りないなら、持ち帰りで頼めばいいんだから」

「んなことしたら荷物が増えちまうだろ? ポテトがひとつくらい減ったって俺は大丈夫だって」


 おい。さらっと渡す量を増やすな。誤魔化せると思ったか。


 どれもこれもLサイズ。よりにもよって、Lサイズ。


 俺とイリアと東雲さんで分けてもしっかり消費しきれるかどうか。

 小城のところにある残りのふたつだって、空になるかどうか分かったものじゃない。


 そんなに露骨な態度を取られて、気付かないわけがない。

 いくら日が浅くても、さすがに分かる。


「……もしかして、小城くん……注文し過ぎたとか……」


 ナイスシュート、東雲さん。


 東雲さんにまで指摘されたんだ。さすがの小城も、そろそろ観念してくれる筈。


 露骨に焦り始めたことだし、陥落も時間の問題。

 気分はまるで取り調べ。……さすがに腹の虫も限界が近付いてきた。


「ち、違ーよ? 別に全然、そんなことねーけど? 変なこと言うなって」

「じゃあ小城にはそのまま食べてもらおうか。――というわけで、いただきます」

「待てって。いただくなって。話を聞けって。俺の話を」


 聞いたよ。聞いた上で言ってるんだよ。全部。


 どうしてここに来てこんなことをしなきゃいけないんだか。

 ただ小城が素直に認めたらいいだけの話なのに。


「いや、食えないとかじゃねーけど、それとこれとは話が別っつーかさ? ……食べ切れないわけじゃなーけどな?」

「なんて往生際の悪い……」

「おいコラそこまで言うことねーだろ」


 事実だろうが。諦めて受け入れろ。それですべて丸く収まる。


「これからリーダーになるんだしさ、少しは度量の大きさ見せた方がいいんじゃねーの?」

「それを言うなら小城の方こそ。リーダーとして、時には潔さも必要だと思うんだけどな?」

「いやー、別に俺そんな予定ねーしなぁ?」

「おかしいな。俺もそんな予定はないんだけど」


 ……あくまで認めない気か。この野郎。

 せっかくのメニューが冷めてでも譲らない気か、こいつ。


「そ、そういうもの……なの?」

「……何故、そこで私に話を振るんですか。分かる筈ないでしょう」


 イリアや東雲さんに呆れられても諦めない気か。

 ……俺にも向けられているような気がするけど、多分勘違い。きっと思い過ごし。


「っし、分かった。ジャンケンできめよーぜ。勝っても負けても恨みっこなしだ」


 …………へぇ。


「言ったな、お前。いいんだな。それで絶対、納得するんだな?」

「おいおい、いいのかよ。そんなこと言って。負けたって知らねーぞ?」

「その時はその時だよ」


 ひとつでもふたつでもこの際だから関係ない。全部空にでもなんでもしてやる。


「あっ……!」

「……ハッ」


 ――ジャンケンに勝ちさえすれば、なんの問題もない。


 必勝法なんてものはない。勝てば官軍。

 ジャンケンを提案したのは小城の方。恨みっこなしとも言った。さすがにこれで諦m


「…………先に五勝した方の勝ちだよな?」

「さらっとセコい保険をかけるな、おい」


 あっても三回だよ。普通。いつまでやる気だ。この野郎。


 それでもまだ小城は唸って――それからようやく、諦めた。


「くっそー……。これならいけると思ったのに……」

「そうやって誤魔化そうとするからだよ。最初から言えばいいのに」

「分かってたなら何も言わずに受け止めてくれりゃいいじゃねーか。リーダーなんだから」

「まだ分かってもらえないらしいな、リーダーには」


 ……こいつ。


 小城にだけは睨まれる筋合いなんてない。

 引っ張ったのはどっちだと思ってるんだか。まったく。


「さ、さすがにもうやめない……? 天条くんも、小城くんも……そんなことより、他の話……えっと、その……」


 こんな不毛な争い、これ以上続けても仕方がない。

 ポテトももらったことだし、謝ってから落ち着いて食べたい――


「そ、そう! 天条くんと天上さん、今も同じ部屋に住んでる……よね?」

「えぇ、別の部屋に住む理由がありませんから。あのままですよ。今も」


 ――食べたかったのに。


 いくらなんでも想定外。仕返しのつもりか。……ないか。


「おい天条。どーいうことだよ。オメーそんなこと一言も言ってなかったじゃねーかコラ」

「聞かれなかったから答えなかったんだよ。……あと、クラスメイトに説明がしづらいというか」


 小城には教えてないんですか。東雲先生。

 俺の口から説明しろとでも言いたいんですか。手間を省くところじゃないのに。


「そうじゃねーよ。俺に言えよ。誤魔化すなっつったのオメーだかんな?」

「この野郎、ここぞとばかりに……」


 ――話に夢中で、気付かなかった。


 黒い影が、忍び寄りつつあることに。


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