018
狙い通り、席はすぐに確保できた。
今日の運気もさすがにそこまで悪いわけじゃないらしい。
そんな安心も、小城のトレーを見せられたおかげでたちまち吹き飛んだ。
「お、小城くん……そんなに食べられるの……?」
東雲さんの気持ちもよく分かる。
あの量を見たら、さすがに確認したくなる。
どこかの四人家族に負けず劣らずのハンバーガーにポテトにナゲット。
自分で買いに行くって言った理由も分かってしまった。
どうやったら、たった一枚のトレーの中に収められるのか分からない。
ちょっとの衝撃で一気に溢れ出してしまいそう。
そんなものを持っているのに、小城はいたって冷静だった。普段と何も変わらない。
「食べられる量しか頼まないって。っつーか、天条が少な過ぎんだよ。それだけじゃ絶対足りねーよ。ポテト分けてやろーか」
「だったら後で、少しだけ。残してくれなくて大丈夫だから」
別に俺も、食が細いっていうわけでもないんだけど。
むしろ、今日は少し多めに頼んだくらい。
それでも小城と比べたらやっぱり少ない。倍半分くらいの差があった。
魔法の使用量が食事の量に直接影響してるわけでもない。
組織の食堂だけ並盛が特盛サイズになっているとか、そういう話もこれまでに聞いたことがない。
小城なら特盛でも余裕で間食できるだろうけど。
いそ大食いチャレンジにでも挑戦すればいいのに。
「いいって、別に。『ちょっと』とか遠慮すんなよ。俺達、仲間じゃねーか。なぁ?」
「小城こそ、そんなに気を遣わなくても。朝食、抜いたんじゃなかったっけ?」
「いやまあ、そーなんだけどさ? やっぱ、少ないのを見ると心配になるじゃねーか。育ち盛りだぜ?」
「べ、別に、天条くんのも少なくないと思うけど……」
……さては何か別の理由があるな、この野郎。
さっきの理由も全くの嘘ではないんだと思う。
何度見ても、小城のトレーと比べると差が凄まじいのは本当のこと。
ただ、百パーセントの善意ではないというだけの話で。
「そういうことなら大丈夫。そのために待ってもらうわけにもいかない。どうしても足りないなら、持ち帰りで頼めばいいんだから」
「んなことしたら荷物が増えちまうだろ? ポテトがひとつくらい減ったって俺は大丈夫だって」
おい。さらっと渡す量を増やすな。誤魔化せると思ったか。
どれもこれもLサイズ。よりにもよって、Lサイズ。
俺とイリアと東雲さんで分けてもしっかり消費しきれるかどうか。
小城のところにある残りのふたつだって、空になるかどうか分かったものじゃない。
そんなに露骨な態度を取られて、気付かないわけがない。
いくら日が浅くても、さすがに分かる。
「……もしかして、小城くん……注文し過ぎたとか……」
ナイスシュート、東雲さん。
東雲さんにまで指摘されたんだ。さすがの小城も、そろそろ観念してくれる筈。
露骨に焦り始めたことだし、陥落も時間の問題。
気分はまるで取り調べ。……さすがに腹の虫も限界が近付いてきた。
「ち、違ーよ? 別に全然、そんなことねーけど? 変なこと言うなって」
「じゃあ小城にはそのまま食べてもらおうか。――というわけで、いただきます」
「待てって。いただくなって。話を聞けって。俺の話を」
聞いたよ。聞いた上で言ってるんだよ。全部。
どうしてここに来てこんなことをしなきゃいけないんだか。
ただ小城が素直に認めたらいいだけの話なのに。
「いや、食えないとかじゃねーけど、それとこれとは話が別っつーかさ? ……食べ切れないわけじゃなーけどな?」
「なんて往生際の悪い……」
「おいコラそこまで言うことねーだろ」
事実だろうが。諦めて受け入れろ。それですべて丸く収まる。
「これからリーダーになるんだしさ、少しは度量の大きさ見せた方がいいんじゃねーの?」
「それを言うなら小城の方こそ。リーダーとして、時には潔さも必要だと思うんだけどな?」
「いやー、別に俺そんな予定ねーしなぁ?」
「おかしいな。俺もそんな予定はないんだけど」
……あくまで認めない気か。この野郎。
せっかくのメニューが冷めてでも譲らない気か、こいつ。
「そ、そういうもの……なの?」
「……何故、そこで私に話を振るんですか。分かる筈ないでしょう」
イリアや東雲さんに呆れられても諦めない気か。
……俺にも向けられているような気がするけど、多分勘違い。きっと思い過ごし。
「っし、分かった。ジャンケンできめよーぜ。勝っても負けても恨みっこなしだ」
…………へぇ。
「言ったな、お前。いいんだな。それで絶対、納得するんだな?」
「おいおい、いいのかよ。そんなこと言って。負けたって知らねーぞ?」
「その時はその時だよ」
ひとつでもふたつでもこの際だから関係ない。全部空にでもなんでもしてやる。
「あっ……!」
「……ハッ」
――ジャンケンに勝ちさえすれば、なんの問題もない。
必勝法なんてものはない。勝てば官軍。
ジャンケンを提案したのは小城の方。恨みっこなしとも言った。さすがにこれで諦m
「…………先に五勝した方の勝ちだよな?」
「さらっとセコい保険をかけるな、おい」
あっても三回だよ。普通。いつまでやる気だ。この野郎。
それでもまだ小城は唸って――それからようやく、諦めた。
「くっそー……。これならいけると思ったのに……」
「そうやって誤魔化そうとするからだよ。最初から言えばいいのに」
「分かってたなら何も言わずに受け止めてくれりゃいいじゃねーか。リーダーなんだから」
「まだ分かってもらえないらしいな、リーダーには」
……こいつ。
小城にだけは睨まれる筋合いなんてない。
引っ張ったのはどっちだと思ってるんだか。まったく。
「さ、さすがにもうやめない……? 天条くんも、小城くんも……そんなことより、他の話……えっと、その……」
こんな不毛な争い、これ以上続けても仕方がない。
ポテトももらったことだし、謝ってから落ち着いて食べたい――
「そ、そう! 天条くんと天上さん、今も同じ部屋に住んでる……よね?」
「えぇ、別の部屋に住む理由がありませんから。あのままですよ。今も」
――食べたかったのに。
いくらなんでも想定外。仕返しのつもりか。……ないか。
「おい天条。どーいうことだよ。オメーそんなこと一言も言ってなかったじゃねーかコラ」
「聞かれなかったから答えなかったんだよ。……あと、クラスメイトに説明がしづらいというか」
小城には教えてないんですか。東雲先生。
俺の口から説明しろとでも言いたいんですか。手間を省くところじゃないのに。
「そうじゃねーよ。俺に言えよ。誤魔化すなっつったのオメーだかんな?」
「この野郎、ここぞとばかりに……」
――話に夢中で、気付かなかった。
黒い影が、忍び寄りつつあることに。




