017
「ご……ごめんなさい……」
……気の毒なくらいに、東雲さんは落ち込んでいた。
致命的なミスを犯したわけでも、なんでもない。
それなのに、まるでこの世の終わりのように落ち込んでいた。
「き、気にすんなって! 東雲が悪いわけじゃねーんだから!」
「そ、そうそう! おかげでいい場所も知れたんだから! 次に四人で出かける時に行けばいいんだよ」
「で、でも……」
あんな展開、いくらなんでも予想できるわけない。予言者じゃないんだから。
「このくらい平気だって。天条なんて毎朝走ってるんだぜ? なぁ?」
「そりゃあもう。駅の近くばっかりだったし」
師匠のトレーニングに比べたら屁でもない。
……このくらいの距離、本当にどうってことない。
「で、でも……」
「私の心配をする必要もありません。……あの程度の事で文句を言うほど子供ではありませんよ」
……まあ、確かに。こっそり浮いてから。
まったく、いつの間にあんな器用な真似ができるようになったんだか。
負担は歩く時の半分以下って、イリアは言った。
移動速度は当然そのまま。魔力の消費もほとんどない。
何度か聞いてみたけど、詳しいことは一向に教えてくれない。
……まあ、危険なものじゃないみたいだから、いいけど。
「東雲さんこそ、大丈夫? 歩き疲れたりとか」
「そ、そんな、全然……私は、大丈夫だから」
行先を決めかねていた中で、東雲さんは幾つも候補を上げてくれた。
色々と調べてくれたんだろう。学生でも気兼ねなく入れそうな場所を。
そこまでしてくれたことには感謝しかない。
今まで一度も使ったことがないっていうのは少し気になったけど、わざわざ聞くようなことでもない。
どんな場所なのか、ちょっとだけ期待もしていた。途中までは。
(……さすがに、運が悪すぎるよなぁ……)
そんなに日ごろの行いが悪かったってか。失礼な。教団の連中でもないのに。
まさか、まさか全部だめとは思わなかった。
いつでも行けると思ってたショッピングモールが最適解だったらしい。
臨時休業で出鼻をくじかれ、開いている場所も最低一時間待ちのところばかり。
待てばいずれは入れたんだろうけど、東雲さんは諦めなかった。
……俺だって、まさか実質全滅とは思わなかったよ。さすがに。
今日はとことん判断を間違えている気がする。
イリアも気にしないって言ってくれたんだから、すぐに手を打ってしまえばよかった。
それでも東雲さんに責任を感じさせてしまったかもしれないけど……今よりは、きっとまだマシだった筈。
なんて声をかけたらいいのか分からない。
別に東雲さんのせいで入れなかったわけでもないのに。
きっと東雲さんも、ここならいつでも来れると思ったんだろう。
駅から徒歩で大体十五分。地元にもあった大手グループの、見慣れた看板。
それでもどこか決めてしまわないと、いよいよ――
(……あっ、そうだ)
「東雲さん、よければフードコートとか、飲食店に連れて行ってもらってもいい? 少し、お腹が空いちゃって」
「や、やっぱり歩き回ったせいで……」
「いやいや、関係ないから。……前倒しにした方が、ゆっくり座れそうだと思って」
まだ昼食には早い。
少し歩いて回ったけど、幸いまだそこまで時間も経ってない。
今の時間、いつもならまだどこでも席は空いてる筈。……今日の運勢を考えるとちょっと不安だけど。
多少の待ち時間なんて気にしてられるか。
「イリアも小城も、どうせなら空いてる内に済ませたいみたいだし。……な?」
「……えぇ、そうですね」
「ん? そりゃいいけどよ。俺、別にまだそこまで急いでるってわけじゃ――」
「な?」
いいから。頷いて。黙って頷け。余計なことを言うんじゃない。
「なあ、小城。……す・い・た・よ・な?」
こんな状況で東雲さんに聞かれるわけにはいかないんだよ。
また余計に責任を感じさせかねないから。
「お、おう……? どうした急に。止めろって。さっきからそれ痛いんだって」
いいや、止めない。肩まで掴んだんだから、さすがにこっちの意図くらい察してくれ。
イリアみたいに即座に悟ってくれとまでは言わないから。
「…………ぁっ! 空いてる空いてる! 今日は朝抜いたんだった!」
「えっ……それなら、言ってくれればいいのに……」
「喋ってたら楽しくて、つい忘れちまったんだよ。わりっ」
「そ、そんな……謝らなくても……。……でも、みんながいいなら」
……ミッションコンプリート。
これでひとまずの危機は去った。
向かう間に、見える範囲で何があるか見ておけばいい。……なんて、気にしなくても最低限のものは揃ってるだろうけど。
特別込んでるわけでもない。むしろ他に人がばらけてる分、空いてるくらい。
とりあえず、ここは軽く見て回るだけでもいい。
どうしてもの時は、それこそ座って相談すればいい。
「(ナイス。……でも、今の嘘はさすがに苦しくないか?)」
「(嘘じゃねーよ。マジだよ。集合時間ギリギリになりそーだったから大慌てで飛び出したんだよ。食う余裕なかったんだよ)」
「(いや、お前……それはさすがに……)」
「(おいこら。その目止めろ。その目でこっち見んな)」
だったら忘れるなよ。そんな大事なこと。
零の目覚ましでも本当に用意してやろうか、こいつ。
一度、東雲先生にちゃんと相談した方がいいのかもしれない。
こんなことなら、ここのメンバーの誰かと相部屋にしておけばよかったのに。
……前途多難とは、まさにこのことを刺すのでしょうね。
今日の行事に限らず、おそらく当面はこの調子でしょう。
本格始動とやらももうしばらく先のことになるかもしれません。
まさかここまでとは……さすがに私も予想できませんでした。
能力面に関して言えば、あれが本来の平均に近いのでしょう。
それに関して文句を言うつもりはありません。どの道、あれもそういう前提で予定を立てているでしょう。
……あんな状況、そう経験できるものではありません。
本来、経験する必要のない者なんですから。
そういう意味では、この賑やかな雰囲気も悪いものとは言えません。
秘密を共有できる同年代の相手というのは、貴重な存在でしょうから。
……それにどうやら、他にも考えていることがあるようですね、桐葉?




