016
「…………えっと、なんて?」
聞き間違いか? ……聞き間違いか。
人通りも多いから、誰かの話し声に紛れてしまったんだと思う。
きっとそうに違いない。むしろそれ以外あり得ない。あっていい筈がない。
昨日、最終確認をしたときにはあれだけ自信満々な態度だったんだから。
そこまで言うんだから大丈夫だと思った。
こっちに来たばかりだから、むしろ積極的に調べたものだとばかり思ってた。
日程を調整した時もそう。
小城にはそもそも、親睦会のアイデアを貰った。
だから当日のプランは俺達も考えるって、当然言った。
それなのに、小城は『任せとけ』と言いきった。
それはもう自信たっぷりに。大船に乗った気でいてくれていいとまで言ってのけた。
ところがどうだ。この有様だ。
どこからどう見ても泥船。沈みかけどころか出航してすらいない。したくてもできない。
「お、小城くん……その、今日の予定って……」
東雲さんがおそるおそる聞き返したくなる気持ちも分かる。痛いほどによく分かる。
今この状況が現実のものだと受け入れられない自分がいる。
イリアに至っては表情が消えた。完膚なきまでに消え去った。
「あり? もしかして東雲、聞こえてなかったか?」
「う、ううん。それはその、聞こえてたんだけど……ほ、本当に?」
「本当だって。聞こえてたならいいじゃねーか。そんなに心配することないって」
心配事しかないんだよ。今回ばっかりは東雲さんの意見に全面的に同意だよ。
東雲さんもそんな遠慮しなくていいのに。むしろもっと容赦なく言ってやる方がいい。
そのくらいしなきゃ直らない。きっと。
「…………やっぱり小城にリーダーを任せないのは正解なのかも」
「おい待てよ。この状況でそれはどーなんだよ。天条がやってくれるってーなら俺は大歓迎だけどよ」
「むしろ、こんな状況だから言ってるんだけどな?」
どうしてそんな不満そうな顔をしてるんだ、この野郎。
不貞腐れたいのは俺達の方だよ。こんな場所じゃなかったら本気で頭を抱えていたくらいには。
まさか『もっと問い詰めておけばよかった』なんて思うことになるなんて。
せっかく提案してくれた親睦会。
もちろん小城には感謝してる。でも今は、それ以外の気持ちも負けず劣らず。
「小城……念のため、確認のために、もう一度聞かせてもらうけど……今日の予定は?」
「どうしたんだよ。天条まで。オメーそんな心配症だったっけ?」
「いいから。もう一回」
「ったく、しょうがねーな……」
集合場所は、町の中心とも言える駅。
あちこちを走る路線バスも集まる場所。人通りもそれなりのもの。
ここからなら大体の場所には行ける。車もないし、四人で出かけるなら好都合。
俺が羽織ったシャツとは対照的に、ラフな格好の小城。
イリアが着ているワンピースとはまた違って、落ち着いた感じの服装の東雲さん。
「とりあえずどこか行くって言ったろ? その辺」
「しょうがないのはお前の方だよこの野郎」
――そう、思っていた。小城の話を聞くまでは。
「おいおい、そりゃないだろ。オメーそんなこと言ってたら友達失くすぜ?」
「ご心配どうも。お礼にその言葉はそのまま返す」
「? どーいうこった。俺何も変なこと言ってねーよ?」
……自覚なしかよ。いや、あったらこんなことにはならないから当然だけど。
変なことしか言ってない。どうしてあんなこと言えるのか本気で分からない。
少なくともあの計画でここまで言い切れるのはヤバい。絶対に。
「俺も東雲さんも、言ったよな? 一緒に考えるって。候補も出さなかったっけ?」
「覚えてるって。けど、大丈夫っつって断ったろ? ちゃんと」
「……これのどこに大丈夫な要素があるのか聞きたいものですね」
相談も大丈夫だからって断って、当日まさかのノープラン。
せめて、せめて『行先の候補を考えておいてくれ』の一言が欲しかった。
俺達の時間を取らないようにとか、そういう気遣いはいいから。……本当に、いいから。
「ふ、二人とも、そこまで言わなくても……」
「だ、だよな東雲! オメーなら味方になってくれるって――」
「い、いくら小城くんが無計画だったからって、そこまで言わなくても……!」
「うぉおおおいっ!?」
……これはまたえげつない。
上げてから落とすとはまさにこのこと。しかも全力スマッシュで。
東雲さんのことだから、狙ってやったわけじゃないんだろう。だから余計に恐ろしい。
「……何あれ、会心の一撃?」
「どちらかと言えば止めの一撃でしょう。……随分と的確に急所を突きましたね」
「勝手に殺してんじゃねーよ!?」
知ってるよ。そんなこと。そのくらいだってことだよ。
あの東雲さんがあそこまで言った意味を一度しっかり考えてほしい。
無計画なんて言葉が出てくるとは思わなかった。少なくとも、ちょっとはフォローすると思ってた。
「ち、違うの。私、そんなつもりじゃ……!」
「大丈夫、分かってる。分かってるよ、東雲さん。……小城、お前……」
「おいコラその目止めろ! そこまでやるか!?」
やるよ。やりたくもなるんだよ。
「ど、どーしたんだよ揃いも揃って。そんなに嫌だったのか? ここ?」
「嫌って言うか、えっと……」
「小城が思ってるような場所なんてないんだよ。この辺り」
言ったら悪いけど、駅前はそこまで店が多いわけじゃない。
ビルはあるけど、ほとんどはオフィスかホテル。
たまに見える飲食店らしき看板も、多分居酒屋。
営業時間的にその可能性が高い。あの赤い看板なんか得に分かりやすい。
他にあるのはコンビニくらい。アパートの近くにあるコンビニの系列店。
「………………やっぱり?」
……この野郎。
「まあ、全くないとは言わないけど。交番とか」
「おい待てさすがにお世話になるようなことしてねーぞ!」
「? そんなに焦らなくても。俺はただ話を聞きに行こうと思っただけなのに」
「嘘つけ絶対別の目的だろ!」
「め、迷惑になると思う……」
勿論そのくらい分かってる。
ほんの冗談。……今のところは。
「大丈夫だと思ったんだって! まさかここまで何もないとは思わねーだろ!?」
「念のため誰かに確認してくれればいいのに……」
……もっとしっかり言っておくんだった。
こればっかりはやらかした。弁明のしようもない。
……自信満々の小城を疑うことになっただろうけど、それでもやるべきだった。
こっちに来て間もない小城でも、知ってるものだと思ってた。
駅の中にはあっても土産屋。
高校生四人が立ち寄ってあれこれするには、さすがに微妙。
バスの時間くらいは調べてあるのかと思いきや、そうでもない。
……さては流れに任せるつもりだったな。
「ご、ごめんなさい。私がもっとちゃんと伝えておけば……」
「「いや東雲(さん)は悪くないから」」
確かに、全員の責任ではある。色々な意味で。
……一体どうしてくれようか。これ。




