015
その日の放課後。
集合時間と場所だけを決めて、そのまま解散。
今朝のことがあるからか、小城も東雲さんもすぐに帰るよう指示されたらしい。
結果的に、拠点までやってきたのは俺とイリアだけ。
その理由も、今朝にのことについて改めての事情聴取を行うため。
話はひと通り信じてもらえたし、すぐに終わった。
飛んで行く信徒の姿が少しだけカメラに映っていたことには感謝してもし足りない。
「本当にいいところに来てくれたよ、天条君。天上さんには悪いけど、もう少しだけ付き合ってほしいんだ」
まさか、その後で東雲先生に捕まるなんて。
用件を聞いても『すぐに分かるから』の一点張り。
大事な話なんだろうけど、それなら先に教えてほしいのが本音。
「それはいいんですけど……本当に何なんですか? 見せたいものって。今朝の連中と関係があるとか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。そっちは今のところ、何も見つかっていないからね」
もうちょっと踏み込んでみても、やんわりと否定されておしまい。
おかげでイリアもすっかりご機嫌斜め。
どうして今この場で説明しようとしないのかと、はっきり顔に書いてある。
「とにかく、危険なものではないから肩の力は抜いていいよ」
東雲先生も、イリアのそういう雰囲気は感じ取ってる筈なのに。
あれか。アパートに初めて来た時みたいにわざとスルーしてるのか。……ありえそうだから困る。
下手に鈍感な人よりたちが悪い。それも分かってやってるんだろう。この人。
やっぱり、東雲さんとは大違い。
見た目以外そこまで似てないと思ってはいたけど、ここまでか。
「――うん。ここなら大丈夫だ」
その調子で歩いていた東雲先生が足を止めたのは、地下三階のC区画。
小規模のミーティングルームが並んでいる区画。
防音仕様だとか、いろいろ説明されたのをなんとなく覚えてる。
「二人とも、好きに座ってくれていいよ。なるべく手短に済ませるから」
拠点の中でも、他の人にはあまり見せられないもの。
俺達に関係あるものだってことはなんとなく分かった。じゃなきゃ見せたりしないだろうから。
「――これを見て、何か思うところはないかな?」
そう言って渡されたのは、A4サイズの冊子。
俺とイリア、小城と東雲さんについてしっかり記された報告書。
ご丁寧に今朝の事まで書き足されてある。
「……今朝の件も含めてまた師匠から何か課題が降って来そうだなぁ、とか」
「その時は私の方で止めさせてもらうよ。向こうがどう言う方針だったか分からないけど、今の君はこの2943の一員なんだから」
止められないと思いますよ、とは、言わなかった。
東雲先生が橘さんや師匠の知り合いだってことは分かる。
ただ、知り合いだからって手加減してくれるような人じゃない。
他の人を相手にするときより遠慮がなくなることもザラ。
「冗談はさておき、小城と東雲さんのことですよね? ……俺なんかの意見を聞いても、どうにもならないと思いますけど」
「そんなことはないよ。何度も言ったように、君達はこれから一つのチームとして活動することになる。……その上で、どうかな?」
それでも普通、見せるようなものじゃないと思うけど。
身長や体重の数値が伏せてあるのは多分、せめてもの配慮。
俺だってわざわざ知ろうとは思わない。
書いてあるのはこの前の測定と、以前のデータ。
特に魔法については所要時間にミスの回数、その他諸々記されてある。
「……一通り見せてもらいましたけど、昨日と大して変わりませんよ? 小城の魔法は二つの意味で『はやい』ですし、東雲さんは命中率が高いな、って」
「もう一つ大事な要素を見落としているよ。天条君。……破壊したターゲットの数と、魔法を当てた回数を比べてみれば分かる筈だ」
確かに、その二つの数字もバッチリ記録してあった。
魔法の回数の方が、比較的多い。一撃で壊していれば、そうはならない。
「……威力不足だと、そう言いたいわけですか。あなたは」
「その通り」
迷うそぶりも見せずに東雲先生は言い切った。
確かにそうだ。一撃で破壊できなかったら、破壊できるまで撃ち込まなきゃいけない。
「もちろん、訓練施設を壊さない程度には加減をしてもらわないと困る。だけど……今はまだ、二人がその心配をする必要はないだろうね」
そこまで言うか。
しかも妹さん相手にまで。
そんな考えも筒抜けみたいで、『妹だからこそだよ』なんて言われてしまった。
「遅くとも一学期中には、レベル2の強度のターゲットは一撃で壊せるようになっておく必要がある。……その意味は、君達なら分かるよね?」
「……防御特化の化け犬を確実に仕留められる、最低ライン」
東雲先生は、何も言わずに頷いた。
無駄にバリエーションが豊富な犬型の化け物の中でも、特に頑丈な個体。
動きが鈍い分、他の種類と比べても防御力は桁違い。
「実戦では練習のようには行かない。不安定な姿勢で魔法を放つこともある。そんな中で折角掴んだチャンスをふいにするなんて、あってはならないことだ」
「……確かに、そうですけど」
一発にありったけの魔力を込めさえすれば、誰でもできる。
昔の俺じゃないんだから、そのくらいの魔力は持っている。
それを安定して撃てること。本当の目標はそこ。
「できることなら、自分のことのように受け止めてほしい。……力に、なってあげてくれるかな?」
そんな提案、断ろうなんて思える筈がなかった。
「「り、リーダー?」」
「また妙なことを……」
まさか次の日に、そんな話を聞かされるとは思わなかったけど。
「そ、そうなの。書類上のものなんだけど、一応、決めておかないといけなくて……」
あんな話をされた後にこれだ。
狙ってたんじゃないかと疑いたくもなる。
東雲先生ならやる。そういうことを。
「ああ、だったら東雲さんは? ほら、俺達より長くこっちにいるんだし」
「ご、ごめんなさい。私、そういうのは……」
……そのつもりがあるならあんな聞き方しないか。
「どーしたんだよ天条。オメーがやりゃいいじゃねーかよ」
「いやいや、まさか。俺にはリーダーなんてとてもとても」
それに関しては本気でそう思う。
書類上のもの、なんて東雲さんは言ったけど、実際には何かしらの役目もあるんだろうし。
「東雲さんにその気がないなら、俺としては……親睦会を提案してくれた小城にお願いしたいな」
「ばっ……!?」
イリアには一瞬目を向けただけで拒否された。なんとなくそうだと思った。
チームメイトのことは受け入れようとしてくれてるんだろうけど、それとこれとは別問題。
「いやいやいや、待てよ。待てって。経験値で言ったらオメーが一番だろ? 中学の頃からやってたんだから。な?」
「いやいや、いやいや。本当に向いてないんだよ。悲しいくらいに。俺は切り込み役」
「遠慮すんなって。そっちは俺がやってやるから」
「いやいや」
「いやいやいや」
過去の行動を冷静に振り返れば振り替えるほど、リーダーとは程遠い。
そのくらいの自覚はある。
だからここは、小城に是非。
「俺がいいって言ってんだから、そこは引き受けよーぜ……!?」
「そういう器の大きさも含めて、お願いしたいな……!?」
是非とも。何が何でも。
「……何をしているんですか、あなた方は……」




