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無茶苦茶

「…………」


 目の前に広がる光景が現実のものだと、思いたくなかった。

 それほどまでに西明にとっては信じがたい光景だった。


「軸足下げろっつってんだろ? そんなの引っ掛けろっつってるようなもんじゃねぇか」

「これ以上後ろだとっ、前のめりになりません……!?」

「そこんとこはオマエが調整すんだよ。自分の身体だろうが」

「分かり、ました…………!」


 短いやり取りの間にも、桐葉の拳は休むことなく神堂を狙い続ける。

 叩きつけるように、突き上げるように、執拗に神堂を攻め立てる。


 神堂目掛けて突き出される拳撃は、西明の目から見ても重い一撃ばかり。

 骨を折ってしまうのではないかとすら感じる威力の一撃を何度も、何度も神堂へと叩きつける。


「オラ、どうした。ペース落ちてるじゃねぇか。もうへばってんのか?」

「んなわけ、ないでしょ…………っ!」


 だというのに、神堂はまるで動じていなかった。


 そよ風を浴びるように桐葉の攻撃を受け止め、時に後ろへと流す。

 乱暴な口調とは裏腹に、その動作には無駄というものがまるでなかった。


 ――そしてそれは、桐葉が蹴りを攻撃に混ぜても変わらなかった。


「遅えっつの。そんなんじゃあのヘボ犬しかやれねぇぞ?」

「あいつ仕留められるだけの威力は、必要だと思ったんで……っ!」


 回し蹴りは空振り、突き出された膝も神堂は受け止める。


 何より、それだけ攻撃を防がれながらも桐葉はまるで動じなかった。

 それが当然とばかりに次を、その更に次の一撃を放つ。


 その攻防には、水滴ほどの魔力も使われていない。

 桐葉は自身の身体能力を頼りに攻め立て、神堂も魔力に頼らずそれらを受け止めている。


 ――しかし、この日の模擬戦には一つだけいつもと異なるルールが採用されていた。


「っ…………?」


 突如、桐葉が半歩引いた。

 攻めの手を一度完全に止め、身体を軽く捻り、両の手を左の腰で一瞬止めた。


 そして。


「――《魔力剣》!」


 まさに剣を鞘から引き抜くように、魔力の剣を力いっぱいに振り切った。






「っはぁ――…………」


 もう疲れた。滅茶苦茶疲れた。シャワーも浴びたし、しばらく動きたくない。


 組織も、どうせならシャワーの魔法でも作ればいいのに。演習が終わったらその場で浴びられるように。

 シャンプーとか着替えとか、色々何とかしなきゃいけない部分もありそうだけど。


「……いつも、あのようなことをされているんですか?」


 ……そういえば、今日は西明さんも見てたんだっけ。

 何故かドン引きしていらっしゃる。……まさか考えが顔に出てたわけじゃないよな?


「あのようなって? どのような?」

「先程の模擬戦闘全てです。天条先輩、かなり容赦なく攻撃されていたようですけど……いいんですか? あんなことをして」

「ああ、あれ? いいんだよ。いつものことだから」

「そんなあっさりと……」


 なんだ、てっきり師匠のデタラメ具合に驚かされて言葉が出ないのかと。


 あの人の身体は本当にどうなってるんだか。今でも相変わらずわからない。

 あれだけ派手にやりあったのに汗もかいてないなんて。


 ……やめた。俺の攻撃が遅いからとか言いそう。というか、言う。師匠なら平気で言う。


「あっさりって言われても。あれが師匠流のトレーニング。篝さんに訊いても多分同じこと言うと思う」

「それはそれで問題だと思いますが……」

「でも、あんな感じでやって来たし。今まで。今更変えるっていうのもちょっと」

「……参考にすべきでないことは分かりました」

「ははは、確かに」


 安心していい。組織の全員が全員あんな無茶苦茶な指導をするわけじゃないから。

 多分、師匠一人だけ。探せば似たようなのは他にいるのかもしれないけど、そういうのは多分時代遅れの体育系。


「あの人相手ならあれでも足りないんだって。見なかった? 最後の斬撃」

「……その、途中で妨害されるところでしたら」

「いいって。気なんて遣わなくても。砕かれるのは今に始まったことじゃないし」


 剣のイメージを少しでも強められるようにと思って、色々試してみた。


 その中で特に上手くいったのが、居合斬り。

 構えて、鞘から引き抜くように一気に振り切る。今はあれが一番安定する。


「……天条先輩、悔しくないんですか? あんな風に防がれて」

「え、悔しいに決まってるじゃん。目にもの見せてやるっていつも思ってるけど」


 西明さんってば、なにを言ってるんだろう。またおかしなことをおっしゃる。


「…………はい?」

「だから、悔しいって話。『なんで膝で砕けるんだよあの野郎』とか、思い出せば思い出すほど腹が立つし」

「い、いえ、そこまでぶっちゃけてほしいわけではなくて……」

「そう? とにかく、悔しいのも本当だよ」


 悔しがってるだけでどうにかなるなら、俺だってそうしてる。けどそうじゃない。


「……でも、今は他にやることがあるから」


 完全に攻撃の手を止めなきゃいけないこととか、居合斬りもまだ改善点は山のようにある。

 今はその辺りを直しつつ、全体的な技術の向上を目指す。それが最善。


「そういえば……次の三月には、移動される予定だとか」

「そうそう、それ。そのためにも今はできる事をやっておきたくて」

「……あれも、その一環ということですか?」

「まあ、そんな感じ。本当はここを出るまで二あのデタラメスペックをギャフンと言わせたかったけど」


 なんか納得してなさそうだけど、仕方ない。

 師匠とのトレーニングだけは今でも篝さんにドン引きされるし。


 何度かやった高速飛行のトレーニングだって、物騒なのはやられた自分が一番よく分かってる。

 …………本当、生きた心地がしなかった。


「と、ところで西明さんの方はどう? そろそろ慣れた?」

「どう、と言われても……発光魔法が安定してきたので、少しずつ種類を増やしているところで。まだまだです」

「え、めちゃくちゃ早い……」

「……えっ」


 正確な日数は覚えてないけど、まだ二か月も経ってない。


 その頃なんて記録を伸ばすのに必死だった。師匠に会うまでは。

 いきなり空から降って来るなんて衝撃的な出会い方、できればもう二度としたくない。


「天条先輩こそ、気を遣われていませんか? 問題ないペースと聞きましたが……」

「問題ないっていうか、早い。絶対に。というか誰だ、そんな言い方したやつ」

「先日臨時で来てくれた……確か、橘さんという方です。天条先輩も時々お話されていますよね?」


 ……あいつか。じゃなかった。あの人か。


 あの人なら納得。

 思考過程はちょっと分からないけど、とりあえず嫉妬じゃないのは間違いない。


 むしろ橘さんにしては柔らかい方。普段を見てると。


「橘さんがそう言うってことは、よくできてるんだよ、西明さん。まだまだなんて言わずに」

「ですが、あれを見せられた後では……」

「あれは参考にしなくていいから。本当」


 参考にしちゃ駄目なんだって。さっき自分で言ってたじゃん。



 ――正直、ほっとした。西明さんが変な方向に思いつめたりしていなくて。


 教団の襲われていたところだったとはいえ、西明さんを組織に連れてきたのは俺だ。


 あんな戦いだって知った上で。

 仕方の無いこと、なんて言って正当化できるものじゃない。



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