010
「鬼ぃ……」
「悪魔ー」
「このド外道が……」
「揃いも揃って好き放題言ってくれるなお前ら」
期末が近い時期だっていうのに遊び惚けたツケだろなに言ってるんだ。
むしろ付き合ってやってるこの優しさに感謝してほしい。
……若干師匠っぽいな。やめ。
「なんなんだよこの鬼ムズテスト意味わかんねぇ……こんなもん解いてどうなるってんだ……」
「それ、教科書の例題弄っただけだけどな?」
「数字が変わるだけで別問題に見えるんじゃない? 答え丸暗記してるから」
「おいヤメロ。暗記科目得意なお前が言うと説得力上がるからヤメロ」
「ははは、やだなぁ。今はやってないよ?」
「そりゃ教員連中もそんなすっとぼけばっかりじゃないからな」
やってやがったのかよこの野郎。
損した。あんなこと思って損した。
そりゃ確かに点数取るだけならそれでもいいだろうけどさあ?
なんなら一部科目はそれが正解だけどさ?
この前の中間、らしくもなく妙に点数が低いと思ったら。
彼女とのデートの話は嘘かあの野郎。
「この性悪野郎……人苦しめてたらロクなことになんねぇんだぞ覚えとけよ……」
「あー? いいのかそんなこと言って。これ美咲様が作ったテストなのに」
「「マジで!?」」
「あ、やっぱり? 天条にしては字が綺麗だと思ったんだよね。パソコンかと思ったけどノートのマス目があったし」
「そんな観察する暇あったら解けよお前は」
さっきからシャーペンほとんど動いてないじゃん。
完全に固定されて絵みたいになってたのに悠長だなこいつ。
課題は終わってるみたいだけどそのせいか?
あとうるさい。一言余計。
ちゃんと相手が読めるならそれでいいんだよ。
美咲みたいに硬筆コンクールで賞をもらうレベルじゃなくても。なんであいつ普段からあんなに字が綺麗なんだか。
「ど、どこだ!? 綾河さんいるんだろ会わせろよ卑怯者!」
「何がだよ。そのためだけに美咲呼べっていうのかよお前らは。恐れ多い」
「お、嫉妬かー? まぁそうだよなぁ? この問題、綾河さんが俺達のために作ったんだもんなぁ?」
……は?
嫉妬? こいつらに? なんでそんなことしなきゃいけないんだ。
「何思い上がってんだこいつら。美咲が友達の勉強会で使うやつ分けて貰っただけなのに」
「「はぁあああっ!!?」」
うるさい。少し黙ってろ。
そもそも美咲がそこまでするわけない。いくらお人好しだからって限度がある。
頼めば休み時間に教えてくれるくらいはあるだろうけど。
にしてもマジか。マジかこいつら。本気でそんなこと考えてたのか。キモ。
そんなこと俺が頼むわけないだろ自作するわ問題くらい。
「ご、ごめん……まさかそんな、本気にしてたなんて……」
「今更そんなわざとらしい態度とられても悲しくなるだけなんだよバーカバーカ! 爆発しろ!」
「純情無垢な男心弄んで楽しいのかコノヤロー!!」
「純情無垢(笑)。止めろよ笑わせるのは……くくっ」
「「喧嘩売ってんのか! あ゛あ゛!!?」」
事実じゃん。下心丸出しだったじゃん。
こんなのが純真無垢だったら美咲なんてどうなるんだよ。
もう一周して仙人とかその辺の領域じゃん。どっちにしろ気軽に会っていいお方じゃないじゃん。
「分かりきってることなのになんで自爆するんだろうね。この二人」
「知らぬが仏ってことわざ、本当だったんだな」
「分かってて夢を壊すなんて酷なことするよねぇ天条も」
「誰かが現実を教えてやる役になる必要があるだろ」
「さすが。今三秒で思いついたような理由をよくそんなそれっぽく話せるね」
「残念、一分かかった。さすがにそんな短い時間じゃ無理」
赤の他人のフリしてこの席離れようかな。
頼んできたのは向こうなんだけど。わざわざ教材まで用意したんだけど。
なんでこんな文句言われてるんだかまったく。これだからモテない男ってやつは。
「……それはどうでもいいんだけど、図書館で騒がない方がいいと思うよ? 司書の先生見てるし」
「そうだぞツートップ。静かにすることくらい覚えろ」
「きっくんもだからね。煽らないでね」
あーあーとうとう美咲警察が来ちゃった。
こんな状況だし余り来てほしくなかったんだけど。
「どう? あの問題、役に立った?」
「そりゃ美咲が作ったんだから効果あるに決まってるだろ。本人が怠けない限り」
「誰かさんは作った人に向かって、性わr――」
「黙れ黙れ黙れ! 楽しいか? 人を貶めて楽しいか!?」
「暴露罪ってか。無茶苦茶だなこいつら」
「私、騒がないでって注意しに来たんだけどなぁ……」
知ってる。俺もこいつら猿轡噛ませて黙らせたい。
「無理でしょ。そこの四人いつもそんな感じじゃん」
「おい待て深山。巻き込むな。『やかましい』カテゴリに俺まで巻き込むな」
「え、筆頭が何言ってんの」
「俺何もしてないよな。お前に嫌われるようなこと、何もしてないよな」
「俺達が入れられるのはいいのかよ、なぁ?」
「まあ二人はさっき実際に大声出してたからね」
「マジお前どっちの味方だよコラ」
味方してもらえるとおもってんのかこいつら。
なら黙れ。せめてあと一〇音量を下げろ。リモコンはどこだ。
「まぁ実際してないよね。何も」
「そりゃ確かにテスト作ったのは美咲だけどな? これでも一応交換条件提示したからな?」
「小テスト作成の協力でしょ知ってる。あ、本当は代理でやるつもりだったんだっけ?」
「そこまで知ってるならボロクソ言う必要ないよな深山さんよ」
いつにもましてキレッキレだなこいつ。
そりゃ首輪とか言い出すわ。なんなのマジで。
「だって天条、私の話全然理解してないし」
「一番大事な部分省かれてるのに無茶言うなっての。分かるか」
「本っ当に変わらないわね。最近雰囲気変わったって噂あったけど、これのどこがって感じ」
……は?
「ちょっと待った。その噂自体、俺初耳なんだけど」
「きっくんがそういうアンテナ張ってないせいでしょ」
「え? お前らは? ……あ、ごめん。やっぱりなんでもない。忘れて」
「オイちょっと待てやコラ」
「それどういう意味だよ? なぁ」
「答えが出ない辺りでお察しと思ってくれて大丈夫だよ」
だよな。知ってる。
「あれじゃね? 最近ランニングの記録いいみたいだし」
「裏切ったもんな俺達のこと」
「人聞きの悪い言い方するな。……そういう約束なんだよ」
守らなかったら〆られるの目に見えてるし。
バレなきゃいいけどいつどこで俺のこと見てるか分からないし。
あのデタラメスペックのことだから、空の上から見るくらい余裕だよなぁどうせ。
またこの前みたいに落ちなきゃいいけど。
「もしかしてあの人? 前に言ってた凄く速いお兄さん」
「そうそれ。なんかこの前急にそんなこと言われてさ、それでそのまま」
「律儀に守ってるんだね。そんなの」
会えば分かるよ守らなきゃ命がないって。
メニュー倍増のペナルティなんてちらつかされたら嫌でも従うしかない。
「誰それ超会ってみたい」
「やめとけやめとけ。筋肉痛じゃ済まないから」
「かもねー。前は小鹿みたいな歩き方だったのに、最近はすっかり平気そうな顔で帰ってくるし。走る距離、短くした?」
「いいやまったく。あの人がそんな手心加えてくれるわけない」
欠片も。絶対に。
「……ん?」
「なんか今、おかしなところがあったような……」
また二人変なこと言ってるやつがいる。
気付いても言うものじゃないんだよ。分かってて何も言わない鈴木を見習えっての。
「なんで美咲は天条の表情まで分かるわけ? あの部屋、家の中でも奥の方だった筈だけど」
「「それだ!」」
……お前もかよ、深山。
「だってそれは……うーん、見えるから?」
美咲のこれなんて今に始まったことじゃないのに。
「……天条さ、そろそろちゃんとしなよ? 美咲が呼び出されるのも時間の問題よ、このままじゃ」
「待って静乃ちゃん。何の話。それ何の話?」
「真面目ちゃんは黙ってて」
「ひどっ!? どうしたのそんなきっくんみたいなこと言い出して!?」
そこまで嫌な顔しなくていいだろ深山も。
嫌なのか。そんなに嫌なのか俺と少しでも似通ってることが。
完全な同類扱いされたならまあ分かるけど。いやそれも駄目だわ。
「あの、もしもーし? 今日ぼくたちの勉強会だったと思うんですけどー?」
「違和感ヤバいからヤメロその一人称。……うぷっ」
「ひっでぇなお前」
なんだよ僕って。お前今まで一度も使ったことないだろ佐藤。
「っていうか解き終わったんだろ。大人しく家で寝て記憶定着させろ」
「帰るまでに忘れるんじゃないかなこの二人」
「じゃあここで眠らせろって? その方が迷惑だろ」
「もうとっくに大迷惑よ。ここの集団」
「仕方ないやっぱりさっさと元凶まとめて黙らせるか」
「天条の口塞いだ方が早そうだけどね」
んだとこの野郎。
「静乃ちゃん、きっくんのノリにあわせないでね? どんどん調子乗るから」
「合わせてないんだけど。全く。微塵も」
それにしてもいいのかね。こんなところで油売ったりして。
他の参加者とかいそうなのに。
 




