復元しました
[真っ暗で、なにも・・・ない・・・そうか・・・死んだんだ、俺、、]
俺は液体の中で自我を取り戻した。まだ朦朧とする中でしかしここが天国では無い事だけは理解した。体の感覚はあるが伸びきって動かせそうにない。
[なんで今更になって自我が芽生えるんだ・・・俺はとうの昔に肉体も魂も消えて骨になっているはずだが・・・]
元号が変わる日に俺は死んだ。当時は流行病で亡くなる人が多かったがそれが理由じゃない。生きているときはひたすらに外界との接触を避けてひっそりと家の中にこもっていた、世間で流行している文化なんてこれっぽっちも興味が無くて、何なら社会なんてもっと興味が無くて、そんなやつは流行病にもかからなかったわけで、ひっそりと死ぬ理由を探していた。
死んだ理由は簡単。元号が変わったからだ。世間は新しい時代の到来に胸を膨らませていたんだろう。そこに俺の居場所は無い。わかりやすく高いビルから飛び降りた。死んだ、死ねたはずだった、それなのに、なんで生き返っちまったんだ・・・
「stkr.seiko。成功してくれ成功してくれ成功してくれ」
裏返った女の声が聞こえる。俺はうっすらと目を開けてみた。
「セット完了。実験は滞り無く成功。復元した肉体は安全が確認され次第回収し保存に努めてください」
「はい」
「はい」
黒の形相に身を包んだ如何にも怪しい奴らが女の指示を皮切りに淡々と部屋から出て行った。用途不明の機械に沢山のコードが絡み合いそのどれもがカプセルを中心に伸びていて、この部屋まるごとが俺をどうにかするための物だとわかる。
あまりにも異様な光景だ。気持ちの良いものではない。
全員が部屋から去った後、女は独り言をこぼし始めた。
「はぁ、、よかったぁうまくいった・・・・しかし◇和から回収できたのは君だけか・・・最近は復元が上手くいかない、、それも近世に近付く程に・・・私達からさかのぼっても人間の構造はさほど変わっていないはずなのに、空白の時代にいったい何があったのかしら・・・」
◇和。。俺が生きた時代。。生きるはずだった時代、、捨てた時代でもある。。空白ってなんだ?
分からない事だらけすぎる、どうなってんだココは!今頼れるのはそこのヒョロいのしかいない、不本意すぎる
[何がどうだか全然わかんねえ・・・実験?肉体の復元?回収?SFかなにかか?おい!何がどうなってるか説明してくれよ!おい!そこのヒョロいの!!]
ぴーーぴーーぴーーーーー
心の中で癇癪を起した瞬間、周りの機械が一斉に作動しノイズを流し始めた。
「え、な!なに!?まさか、意思が芽生えたの!!」
女は世紀の発見とばかりに俺に駆け寄ってしがみつこうとするがガラス越しの俺には届かない。まるで動物園の動物になった気分だ。こっちの言う事聞こえてなさそうだし・・・
ああ、なんかめんどくさくなってきた。もういいよ、早く永い眠りに戻してくれ、元々もう起きる予定なんてないんだ・・・
どうでもよくなるに連れて機械のノイズも小さくなる。
ぴぴぴぴぴpppppppp^-------------------
「まっまって!話が通じるならもう少しだけ!私と、、ああ・・・」
機械が発するノイズが消えると、俺はそのまま深い眠りについた。
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願いも空しく永劫の眠りに落ちれずにいた俺は次に目を覚ました時にはパッチリだった。視界にうつる限りの情報を整理して、やはりココは研究室である事だけは理解できた。未知の技術が詰め込まれた機械達、暗い部屋の中で無機質な空調の音が鳴り響く。かつて映像の中だけのものが今目の前に並んでいた。
そんな男の子が興奮しそうなシチュエーションに水を差す奴がいる。
もちろんあの女だ。目に極太のクマを従えて気持ちよさそうに寝てやがる。。。
[おい、そろそろ起きろよ、もう朝だぜ? 多分]
心の中で軽快に語り掛けてやると、恐ろしい程のイケボで再生された。
というか語り掛けた事が再生されてる。。俺が眠る前はノイズだったはずだが、もしかしてこの女が作ったのか?
「ん・・・ん~~」
安らかな寝顔が少しニヤけ顔に変わった。コッチは突然起こされて右も左もわかんねえのに眠られたままじゃ困る。
[早く起きろブス! てめぇの都合で起こされてんだいい加減にしてくれ!]
強めに念じると、イケボにあるまじき音量で部屋中キンキン鳴った。
「あああうるさい!!良い声なのに怒鳴らないで!!」
女は飛び起きて耳をふさぎながらキンキン鳴る部屋の音量を下げると不満そうな顔をこちらに向けた。
そんな顔されてもなぁ・・・起きないやつが悪いし仕方ない仕方ない
「はぁ・・・せっかくいい声にチューニングできたし快適に意思疎通できるとおもったのに中身がこれじゃあ本末転倒じゃない・・・」
[勝手な事を言うな! お前が全部やったことだろうが。 いいから何がどうなってるか説明しろ]
「口わっる・・・」
[お前もたいがいだろ]
「お前じゃない!私にも名前があるの!健全な意思疎通のためにこれからは名前で呼んでよね!」
[はよ名乗れ]
「イチイチ腹立つわね・・・私の名前はアルマ。アルマ・リリーよ」
[俺は 佐藤 智也 ]
「サトウとモヤ?変な名前ね」
「トモヤだ! 俺の名前なんてどうでもいいんだ アルマさんは俺を目覚めさせて一体何の用なんだ」
「そうね、そこの説明が先だったわ・・・理解できないと思うけれど率直に言うわね、トモヤ、ココはあなたが生きていた時代から二千万年後の世界よ。あなたは復元されたわ」
[二千万 ha?]
「人類はね、一度滅んだの。そしてあらゆる文明が失われた。そしてまた人類が生まれて文明を取り戻すのに二千万年かかったの!今はあなたたち旧世代の化石を復元しながら当時の文明を取り戻そうとしているわ。トモヤの存在は私達考古学の人間にとって生き字引なの!期待しているわ」
ぶっ飛んでる。。人類が一度滅んだ??俺が化石から復元された存在で、二千万年後の世界、だと??
驚くほど冷静だった。言われたこと自体はぶっ飛んでいるがその内容が理解できないわけじゃなかった。
人類が滅ぶって予言はいくつもあった、そのどれかが当たったんだろう、そしてまた同じように人類が生まれて、俺の生きていた時代の事を調べまくってると・・・つまり彼女らにとって俺は言葉が通じる恐竜みたいな物であり復元するほどの興味の対象というわけだ。
[わかった 強力はしよう ただ俺も人だ 少なからず自由が欲しい このカプセルからは出られないのか?]
「善処してみるけどしばらくは無理ね、完成するまでは私とお話することになるわ」
[俺もせっかく復元してもらったんだ 第二の生としてこの時代を満喫したい 教えてくれるか?]
「ええ、もちろんよ」
こうして一度死んだはずの俺は異世界転生するでも狭い部屋で黒い球体に出会うわけでもなく、未来で復元されたのだった。
続いたらいいなぁ・・・