彼は想う
赤紙が届いたその日、僕は想い人に告白をした。
いや、想い人であると気付いてはいなかった。
戦争に向かう事になって、初めて気付いたのだ。
幼いころは仲が良かった。
いつの間にか男子は男子で、女子は女子で遊ぶようになり。
偶に見かけると、その都度美しく変わっていった。
唯一人、僕の愛する人。
ようやく気付いた、唯一人の人。
「ごめんなさい、私は、あなたを好きではないの」
次の日、僕は戦地へ向かった。
丁寧な作りの、立派なコートを支給された。
僕はそれを着て、戦友たちと集合写真を撮る。
思えばあの日の服装はいつも着てた服だった。
僕はこの立派なコートを着てであればと、あの人と話す事を夢想する。
酒の味を覚えた。
食糧はまるで食えたものじゃないのに、酒だけは切れることがない。
あの人を忘れるように、酒を飲む。
あの人を忘れないように、酒を飲む。
唯一人の人。
もう何発撃ったか分からない。
幸運な事に誰かに当たったのか
幸運な事に誰にも当たっていないのか
突撃のラッパが鳴り響く。
僕は塹壕を飛び出し、銃剣を手に持って突撃する。
銃剣の先が敵兵の体に吸い込まれる。
別の敵兵の銃剣が僕の体に吸い込まれる。
僕は彼女を抱きしめるように、敵兵を抱く。
瞼の裏に浮かぶのはあの日のきみ。
水色のワンピースに、麦わら帽子。
最期に想うのはあの日のきみ。
水色のワンピースに、麦わら帽子。
僕の唯一人の人。