最近冷たくなった幼馴染の本音が窓越しに聞こえてくる件について。 ~デレも惚気も全部聞こえてるから窓閉めた方が良いと思いますよ!?~
幼馴染は、隣の家だと尚良い。
「邪魔」
「あ、ごめん」
俺は幼馴染の琴音に言われて避ける。
「全く……。どういう神経してたらこんな邪魔なところに突っ立っていられるわけ? ほんと信じらんない」
「今度から気を付けるよ」
「ふんっ!」
険しい表情のまま琴音は、顔を逸らして自分の席へと戻っていった。
確かに、教室と廊下を繋ぐ扉の前で駄弁っていた俺も悪かったかもしれない。
だけどわざわざ席を立ってまで注意しに来なくても良いと思うのは俺だけでは無いはず。
そこまでするのは厳しめの風紀委員だけで良いと思う。
「……なぁ、翔ってあいつと幼馴染だったよな?」
「あいつって、琴音のことか?」
「ああ」
琴音の方に視線を向けてみれば、穏やかな表情で友達と雑談をしている。
あ、こっち向いた。
あ、顔が険しくなった。
「まぁ、幼馴染だな。家も隣同士だし、小さい頃はよく遊んだっけな。それがどうかした?」
最近は注意とか以外で話しかけてくれることが無くなったけれど。
「いや、お前にめちゃくちゃ厳しくね?」
「うーん、そうか?」
「いや、お前がそう思ってるなら良いんだけどさ……」
歯切れの悪い言い方をする。
確か、琴音が今みたいな態度になったのは高校に入学してからだったはず。
中学三年生の頃は普通に話をしていたし何なら一緒に登校することもあった。
そして毎日のようにどちらかの家に集まって勉強会を開いていたわけだから、うん、琴音の態度は高校になってからだな。
「こっちから見てても少しきついからさ、少し注意した方が良いんじゃないか?」
まぁ確かに普通なら注意が必要ないようなことで言われたりもする。
常にそのような言動を取っていたら琴音と関わろうとする人も減ってしまうだろう。
だけど。
「まぁ、琴音があんな言葉遣いするのって俺だけだろ? だから大丈夫だ」
「あー、まぁ確かにな。まぁお前がそう言うなら良いけど……。まぁ俺からすれば可愛い幼馴染を持ってるのに嫌われててざまぁ! って感じだけどな!」
確かに琴音は幼馴染の俺から見ても可愛い。
いや、高校に入って可愛くなった。髪を染めて、薄く化粧をすることで綺麗になった。
そのせいか入学してから六ヵ月近く経った今でも学年問わず告白が絶えないらしいけれど、全てその場でお断りしているようだ。だから。
「るせ。俺が嫌われてたとしてもお前に振り向くことはないから安心しろ」
「いやいやいや、可能性位あるじゃん? 少しくらい無いの?」
「なら告ってみればいいじゃん」
サッカー部のエースの元木も副生徒会長をしていた竹中も、どこかの御曹司らしい御剣も、この学校の猛者たちが全員打ち負けてきたのだ。
それでも挑む気概があるなら告ればいい。
そう言ったのだが。
「嫌だよ結果見えてるし!」
当然の如く挑まないと答えた。
「ま、行動しなければ結果なんて伴わないからな。お前にゃ無理だ、諦めろ」
「へーへー。どうせ俺は遠くから見てるだけのモブですよーだ」
丁度その時、昼休憩の終わりを告げるベルが鳴る。
次は、数学か。先生が来る前に静かに座らないと面倒なことになる。
俺は会話を辞めて席へと戻る。
数学の先生は、秒数を数えるのが大好きなのだ。
口癖は、皆さんが〇〇するまで〇秒かかりました。めんどくさいことこの上ない。
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「「あ」」
学校が終わった帰り道、家の前で偶然琴音と出くわした。
俺が文房具屋の方向からで琴音が学校の方向から。
琴音の委員会の終わり時間が俺の帰宅と偶然被ってしまったのだろう。
「何? そんなにじろじろと見ないでくれる?」
「あ、ああ。悪い」
俺はパッと目を逸らす。
「私の顔に何かついてたりしたわけ?」
「いや、まぁ……」
「何? はっきり言いなさいよ」
ついていたと言っちゃあついていたのだが、まぁ余計なものではない。
これを言った場合の展開が読めていたから敢えて言わないでおいたわけだが、琴音が言いなさいと言うなら遠慮なく言わせてもらおう。
「そのヘアピン、俺が高校の合格祝いにあげたやつだろ? 着けてるところ久しぶりに見たからつい長々と見ちまった」
全くオシャレなどに興味を持たない琴音に、まずはワンポイントからと上げたヘアピン。琴音の髪を綺麗に纏めていた。
「な、何よ! 何か文句あるわけ!?」
「いや、似合ってるぞ」
「~~~~~~!」
似合うと思って選んだのだから当然だろう。
そして今ではすっかりおしゃれをするようになった琴音が似合わないものを付けるはずはないのだ。
「ま、間違って付けてきただけよ! こんなもの、もうつけないわ!」
「似合ってるのにもったいない」
「セ、セクハラよ! そういう言動直しなさいよ!」
あー、確かに無差別に言っていたらセクハラとされる時がくるかもしれない。
だけど。
「琴音にしか言ってないから大丈夫だ」
琴音が俺にしかそういう態度を取らないように、俺も琴音にしか可愛いとか似合ってるとかいうことはないのだ。
「か、帰るから!」
そう言って、琴音は家へと入っていってしまった。
予想通りの反応だ。
多分もう、あのヘアピンを俺の前で着けることはなくなるだろう。それは少しだけ勿体なく感じた。
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さて、琴音の言動は俺にだけ冷たく当たり強い。
それも、高校に入ってオシャレを始めてから突然そうなった。
自分は綺麗になったのだからザ・普通みたいな容姿の俺とは居たくない、そんな風に捉えられる可能性もあった。
そうでなくてもここまで冷たくされれば、普通なら嫌になって関わり合いを避けるようになるだろう。だけど、俺はそうならない。
いや、正確に言うとそうなれないのかもしれない。
俺と琴音の家は隣同士。
もっと言うと、俺と琴音の部屋も隣同士。昔は窓を伝って出入りするような仲だったのだ。
何が言いたいのかというと、俺たち2人の間にプライバシーという言葉は殆ど仕事をしてくれないという事。
家に入り、夕食を済ませ風呂も上がって午後九時過ぎ。
自室にいた俺の耳に、声が聞こえてきた。
「あーもう! 私のバカバカバカ! なんで翔君にあんな態度取っちゃうのかなぁ……」
琴音の声だ。
「このままじゃ翔君に嫌われちゃうよぉ……。ねぇベアくん、私どうすれば素直になれるのかなぁ……」
午後九時過ぎ、琴音は一人反省会を始めるのだ。
ちなみに、話し相手は昔ゲーセンで取ってあげたクマのぬいぐるみ。断捨離した時に捨てたと聞いたはずが随分と大事にされているようで。
この一人反省会が初めて聞こえたのは約半年前。つまり、琴音が俺に冷たい態度を取り始めた直後から。
聞こえた理由は単純に窓の開けっ放し。
むしろ、窓と窓で通れる距離なのにその窓が開けっぱなしの状態で聞こえないはずがなかった。
俺はこの一人反省会を毎日のように聞いているからこそ、琴音を嫌いになることはない。
「朝家を出たら偶然翔君と会ってね、おはようって言おうとしたのに時間合わせないでって言っちゃったの。時間合わせたのは私なのに、酷いこと言っちゃったの」
「なるほど、だから今日はばったり会ったのか」
琴音が所属するのは風紀委員。
朝の挨拶当番とかいう謎の制度があるため、当番の時は早めに学校についていなければいけない。しかし、当番の日だけ早く行くのも面倒だからと常に早めに学校に行っているのだ。
今日は風紀委員の当番じゃなかったから狙ってみたら上手くいったといったところだろう。
「その後も昼休み、頑張ってご飯に誘おうと思ったら友達と仲良く話してる翔君に嫉妬して邪魔って言っちゃったの。翔君が好きなハンバーグ作ったのになぁ……」
「くぅ……! それは食べたかった……」
琴音は、めちゃくちゃ料理が上手い。
いつの間にか聞き出した俺の好物を作ってくれることが多かったのだが、それが本当に美味しい。
勉強会の目的は琴音が作る弁当だったと言っても過言ではないかもしれない。
しかしここ半年は琴音の手料理を食べることができていない。深刻な状況。
そんな状況で手料理チャンスを逃すなど、俺のツンデレ琴音読解レベルが足りていなかったという事。
まだまだ精進が必要だ。
「——それでねそれでね! 今日は何と帰り道でも翔君にばったり会ったの! そこでこのヘアピン、褒められちゃった。えへへへへへへ」
でれっでれになった琴音の声が聞こえる。
そして、先ほど俺が言った予想通りの結果を迎える。
「あ、忘れないうちに仕舞っておかなくちゃ! 褒められたボックスはっと……」
ヘアピンは、褒められたボックス? に仕舞われるのだ。
要は俺が褒めたものが入っていく箱らしいのだが、この箱に入ったものを琴音が再び付けているところを俺は見た事がない。
褒めたら再びそれを付けた琴音を見ることができなくなる。だが、俺は思わず褒めてしまう。だって、好きな子がおしゃれしていたら褒めたくなるだろ?
ああ、言い忘れていたが俺は琴音が好きだ。
いつもちょこちょこと俺の周りをついてきて、何をするにも一緒だった琴音を意識し始めるのにそう時間はかからなかった。
そしてそれは琴音も同じ——だと思っていた。
「なぁ琴音、俺のことってどう思う?」
「どうって……親友かな!」
思い出すのは受験勉強中にしたさりげない質問。
その答えによって判明したのは、琴音が俺を友達としか思っていないということ。
俺は愕然とした。
これほど好意を伝えているはずなのに、伝わらないという現実に。
ならばもっと好意を前面に出すのみと行動した結果——琴音は高校デビューと同時に綺麗になり、初めて告白を受けたことで俺に対する好意を漸く自覚した。
それで晴れて結ばれてハッピーエンドとなるのか、そう聞かれれば違う。
琴音は、好意を自覚しすぎてしまった。
つまり、俺が近づくと照れて何もできなくなってしまうようになったのだ。
それを回避しようと琴音が努力した結果——
「翔君にセクハラって言っちゃったの。もう褒めてくれなくなったらどうしよう! あ、でも他の女の子を褒めたりはしてないんだって。もしかして、翔君も私のこと……」
この琴音が出来上がってしまったのだ。
完全なる両想い。
それなのに結ばれない。
今の琴音に告白でもしようものなら反射的に罵詈雑言が出てきて振られること間違いなしだろう。
そして一人反省会で琴音がめちゃくちゃ後悔するという結末を迎えるのだ。
「片思いの時は振られるのが怖くてできなかったし、今は両想いなのに振られるから告白ができないとは……」
他の人にその気持ちが向かわないという事を確認できているからこんな悠長な行動を取っていられるが、夏が終われば秋が過ぎて冬が来る。
冬が来るとどうなるか。
簡単な話、窓が閉められて声が聞こえなくなるのだ。
その前に本格的な夏がやってくればエアコンを付けるために窓を閉めるかもしれない。それまでに、俺は琴音への告白を成功させたい。
「明日も翔君にばったり会いますように、明日も翔君と話をできますように、明日こそは翔君と素直に話せますように……! 今日も話聞いてくれてありがとね、ベアくん。翔君、大好き……」
ボスンッ!
一人反省会の締めの言葉。
あ、後半は俺がベッドに飛び込んだ音だ。
この言葉を聞くたびにうおおおおお! と叫びながら町内を一周したくなるが、そんな奇人になるわけにもいかずベッドに飛び込んで悶えることしかできないのだ。
できることなら俺も好きだ―! と窓から叫び返したい。
今すぐ琴音の部屋に飛び込んで俺の積もり積もった思いを伝えたい。
だけど、そこまで行動することは俺にはできなかった。
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「あちぃ……」
「もうすぐ夏休みだから我慢だな」
「翔は随分と平気そうじゃんかよ。俺なんてもう、見ての通りだらっだらよ」
確かに俺は比較的汗をかいていない方なのかもしれない。しかし。
「全く平気じゃない」
「そうかぁ? まぁこの暑さで平気な方が変な話か!」
「いや、そうじゃないんだ。そうなんだけどさ」
「何言ってるか分かんねぇ! 暑さで頭までやられたかー」
別に暑さなどどうってことはないのだ。
諸事情により窓を開けておく必要があるのだから、エアコンとの寒暖差で苦しむ奴らとは違いそこまで厳しくはない。
夏休みがもうすぐに迫った今も、俺は琴音に告白どころかまともな会話すらできていない。
クッキーを焼いてみたけど渡せなかった話も、俺が好きなアイスを思わず買ってしまった話も、冷やし中華を作ってみた話も全て聞いているのに一つも食べることはできない。
暑さで食欲がなくなってきて琴音の料理しか受け付けたくない。
だけどそれが不可能な現実が平気じゃないのだ。
「あー、もうどうすればいいんだよ……」
もうすぐ、夏休みがやってくる。
夏休みがやってくると、窓が閉まる。
早く、決着を付けなければいけないのに俺は琴音の一人反省会を聞くことしかできない。
琴音の方をちらりと見ると、夏服に変えた制服がものすごく、似合っていた。
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「よし、これで完璧だ……」
俺は琴音と付き合うべく、俺は徹夜で計画を立てた。
といってもなんてことはない。
夏祭りで偶然を装って遭遇して告白する、それだけだ。
一緒に回る予定だという琴音の両親には既に許可を取ってある。
ご両親は、やっとかと言いながら笑って許可を出してくださった。
明日で一学期は終わり夏休みが終わる。そうすれば、夏祭りまではあっという間だ。
さて、一学期最後の学校に行こう。
「悪いねぇ、翔くん」
「いえいえ、別に大丈夫ですよ。今日の俺はやる気に満ち溢れてますので」
「明日から夏休みだからねぇ。だからやる気に満ち溢れてるのかい?」
「まぁ、そんなところですね」
修了式が終わり、帰ろうとした俺に仕事を代わってくれと言ってきたのはいつも話をする『あいつ』。
深夜テンションのまま学校を過ごしたせいでハイだった俺はそのまま引き受け今に至る。
ああ見えて『奴』はクラス委員。
何も聞かずに仕事を代わった結果、生徒会長とオープンスクールの準備を手伝う羽目になった。
「にしても、運ぶものが多いったらありゃしないよ。私が嫌いなもの第一位が運動だっていうのに、私の運動のできなさは翔くんも知っているだろう?」
「ええ、まぁ……」
女性で年上という、一番関りが少なそうな組み合わせな生徒会長だが、俺たちは知り合いだった。
どのようなきっかけで知り合いになったとかいう話は省くが、中学が同じで、ステータスがあるなら頭脳極振り。何がどうしたらそんな失敗をするのかと思う程、身体を動かすことが苦手なのだ。
そんなことを思っていたら。
「よし、これで最後の道具だねっと、と——あ」
「危ないっ!」
登っていた椅子を踏み外して会長が倒れてきた。
咄嗟に受け止め足がつくように降ろしてやる。
本当に、ハラハラさせられる行動が多すぎる。
「全く、気を付けてくださいよ」
「ごめんごめん。今度から気を付けるよ——おや?」
「うん? ——なっ……」
会長の見ていた方向に目を向けると、琴音が立っていた。
「あ……」
「ちょ、ちょっと待て琴音! これは違う……!」
そのまま琴音は走り去ってしまった。
「嘘だろ……? え、誤解された?」
「琴音くんが目撃したのは私と翔くんが抱き合ってたところだからねぇ。私と翔くんが交際関係にあるという見方をした可能性が最も高いだろう」
「何でそんなに冷静に分析してるんだよ……」
終わった。
俺の計画も全てがぱぁになった。
計画を立てただけで満足してしまっていた。
俺が琴音の気持ちを知っていたとしても琴音は俺の気持ちなど知らないというのに。
さよならリア充、おかえり独り身。
独り身共をバカにしていたさっきの俺に言ってやりたいぜ。詰めが甘い、と。
「こんなところでゆっくりとしていて良いのかい?」
「何がですか?」
「彼女を追いかけなくていいのかい? 勘違いで君の恋も琴音くんの恋も終わってしまうのは私としても嫌なのだが」
「そう、ですね。会長、途中ですけど仕事抜けます。次に会う時、俺はリア充です」
計画まで練ったんだ。
こんなつまらないことで諦めてたまるか。
「女心と秋の空。女は切り替えようとしたら一瞬だから、急ぐんだぞ!」
「はい! 大丈夫です! 琴音は俺のことが大好きですから!」
驕りでも何でもなく、琴音は俺のことが大好きだ。
そして俺は、琴音が俺を想う以上に琴音が大好きなのだ。長く深く想い続けたこの思いは、誰にも負けない。
校門を抜け、大通りを走り、漸く琴音の背中を捉える。
徹夜明けの俺の身体では無我夢中で走る琴音に追いつくことができない。
少し間をあけて走る男女。
何事かとギョッとした目で見てくる人たちを無視して走り続ける。
走って走って走り続け、漸く追いついたのが家の前。
「琴音、待て、って!」
「嫌! 放して!」
掴んだ腕を、振り払われた。
「琴音! 誤解なんだ! 会長が転びそうになったところを支えただけなんだ!」
琴音の手が、ピクリと反応した。
誤解は解けた、そう思ったのもつかの間。
「ダメ……」
「あ……」
そのまま家の中へと入ってしまった。鍵まで閉まる音がした。
終わった。
間に合わなかった。
俺の恋は終わりを告げた——で納得できるはずがないだろ!
「くそっ! まだ間に合う!」
俺は自分の家へとダッシュで駆け込む。
目指すは自室。
ただいまも言わずに階段を上る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ガチャリ、と扉が開く音。聞こえてくるのは窓の外から。
俺は、走り出す。
「ベアくん……私、」
「琴音ええええええっっ!」
そのまま窓を超えて、琴音の部屋に突入した。
「え? えええええっ!? 翔君!?」
驚いた様子の琴音の肩を掴む。
「琴音! 俺はお前のことが好きだ! 中学一年生ころから好きだった!」
「え! ええ! ええええ!?」
「素直なところが好きだし料理上手なところも好きだし、さりげなく気遣いができることも好きだし、時々甘えてくるところも大好きだなんだ!」
「ちょ、ちょっとま! ちょっとまって——」
「さっきのは本当に誤解なんだ! 夏休みに琴音に告白する計画を作って浮かれてただけなんだ! 夏祭りの時にさりげなく告白しようとか考えてたけど今言う! 琴音が俺は大好きだ! 会長は本当にただ転びそうになったところを助けただけなんだ! 俺は琴音のことを愛し——むぐっ!」
「ちょっと待ってお願いだからぁ……!」
突然、口元が塞がれた。
琴音が、涙目で、俺を見ていた。破壊力が、強すぎる。
「可愛い」
「~~~! だから~~!」
口から自然と漏れ出てしまった。
「か、勝手に入ってきていきなり何なの!」
「悪い、無我夢中で、怪我する可能性すら考えていなかった」
「そ、そもそも突然部屋に入ってくるなんて何を考えてるの!?」
「でも、片付けられていて綺麗だぞ。って、琴音の部屋自体久しぶりだな」
「ななな、なんで伝わってるのよ!?」
「好きだからに決まってんだろ!」
「なななななな」
琴音のツンデレ用語など、全て理解できるようになった。
全て対応できない状態で俺が告白しようとするはずもない。
「琴音、俺と付き合ってくれ!」
さあ言ったぞ!
夏祭りの時とか立てた予定が全部崩れたけど伝えたぞ!
「ちょっと待って!」
そう言うと琴音は、深呼吸をした。
そして。
「わ、私も! 翔君が、好き、です!」
そう言った。
罵詈雑言でも理不尽な文句でもなく、琴音の声で俺に気持ちを伝えてくれた。
それはつまり。
「じゃあ!」
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」
俺と琴音が結ばれたという確かな証拠だった。
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余談。
「あの、どうして私が翔君に酷いこと言っても伝わるの……?」
「そりゃあ、聞こえてたからな」
「え……?」
分からないと言った様子の琴音に教えてやる。
「窓、閉めておいた方がいいぞ」
「え」
聞こえていたということは、そういうこと。
「そっか。翔君の声が聞こえるなら私の声も聞こえて当然だった……」
当たり前のことを再確認する。
だけど、次に来た言葉は、でも。
「でも、翔君ならいいや」
「うん? 良いのか?」
意外な言葉。
「だって、開けておいた方が翔君との距離は近くなるでしょ?」
読んでくださりありがとうございます。
よろしければ評価の方をしていただくと嬉しいです。
ついでに別作品も読んでくださると大喜びします。