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第12話 (ジン)

 宿屋に戻って、傷の手当てをしたり血のついた服を着替えたりしながら、一息つく。

 ミライはどうやら疲れたらしくて、部屋に帰り着くなり倒れるように寝てしまった。あれだけ大量に血が出たら、そりゃあそうだ。

「ジン。ちょっといいかな」

 レンはテーブルについて、あたしに自分の向かい側に座るよう促した。どうやら記憶を取り戻したらしい。くそ、ムカつく。

「お父さんを殺さなかったね」

「だったらなんだよ」

「君には帰る家がある。帰りなさい」

「ぜってーやだ」

「そう言うとは思ったけど」

 やれやれと肩をすくめて、呆れたようにレンは息をつく。呆れてるのはこっちだっつーのに。

「だいたい、お前が父さんに飲ませたのは妖精よけの薬じゃないだろ。いつかそれに気づかれたら、また元どおりだ」

 父さんが吐き戻した吐瀉物から漂ってきた薬の匂いは、昔あたしが飲まされたものとは違っていた。

「あっ、バレた? もらった薬に色々混ぜたんだ」

「なに混ぜたんだよ」

「なんだっけ。手元にあったものを適当に突っ込んだんだ。えーと、ホウ酸と石灰と硝酸と……、塩酸……はさすがにやめたんだっけ。他にも色々。是が非でも吐いてもらわなきゃいけなかったから。どうやら、大人なら耐えられる程度の毒性みたいだし」

 そういえばこいつ、マントのポケットに色々入れて持ち歩いてたっけ。

「引くわー」

「なんでだ。君のためにやったのに。そっちこそ、僕に忘れ薬盛ったの君だろ」

「げっ、なんでバレてんだよ」

「どうやら君はミライが好きなようだから。彼女を守ろうとしたんだろう?」

「……なんでバレてんだよ」

「見てればわかる。多分ミライは気づいてないけど」

 うわ。最悪だ。

 そんなに分かりやすかったつもりはないんだけど。慌ててミライの寝ているベッドを見たけれど、幸いぐっすり眠っていている。

「ともかく、帰れる家があるのなら、僕らに付き合って放浪する必要はないよ。知っての通り、僕とミライは大手を振って往来を歩けるような存在ではないからね」

 ここで自分たちとは別れなさいと、こいつは言っている。なんだ、もっともらしいこと言いやがって。

「なんだよ、これ以上厄介者の面倒見るのは嫌だってか?」

「そうは言ってないだろ」

「あたしを追っ払ってから、またミライに妙なもん飲ませるんじゃないだろうな」

「やらないよ。もう懲りた。心配することはないから、帰りなさい。しばらくはぎくしゃくするかもしれないが、時間が解決してくれる。おそらく彼は牢屋にでも繋がれることになるだろう。この国の法律はよく知らないけど、子供に手を挙げた挙句周囲も巻き込んだんだ」

「怖いんだよ」

 弱音を吐くのは好きじゃないが、もう正直に言わなきゃしょうがない。そうでなければ、こいつは納得しないだろう。

「あいつの近くに行くって考えただけで足が震える。あいつは力も強いし、声も大きいし、その日の気分であたしをどうとでもできる」

「もう反省してる。君は、妻の忘れ形見だ。それがわかった今は、無下には扱わないだろう」

「そういう問題じゃねえんだよ。あいつは妖精だからってあたしを怖がったが、あたしは父親だからあいつが怖い。絶対に顔を合わせなくても済むくらい遠くに行かなきゃ、安心できない。できることなら、今すぐにでもあの世に行って欲しいくらいだ」

 レンは、うーんと首を傾げて考え始めた。今なら、説得の余地がありそうだ。

 よし、今だ。

「それにさ、あたしとミライがくっついた方が、お前としても都合がいいだろ」

「確かに。君があの子とずっと一緒にいてくれるのなら、嬉しいね」

 こいつは、どうあれミライのことを優先するんだ。わかってる。そこにつけこめば問題ない。

「よし、わかった。それじゃあ、ミライが起きたら街に買い物に行こう」

「なに買いに行くんだよ」

「君の剣。好きなのを選ぶといい」

「はあ?」

「体を鍛えなさい。ミライをひどい目に合わせようとする奴が来ても、追い払えるくらい。それくらい強くなる頃には、きっとお父さんも怖くなくなってる」

 確かに、あの万屋の店主のようにミライを狙う奴は他にもたくさんいるだろう。一緒にいたいのなら、力が必要だ。

「ついてっていいのか?」

「ああ。歓迎するよ。ミライも喜ぶだろう」

 なんだか、ずっと感じていた息苦しさが消えた気がする。


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