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恋愛記録ファイル(学生時代編)

中途半端な恋

作者: 涼

正月が明け、中学3年生の3学期が訪れた。いよいよ受験シーズンになった私だが、いつも学校のベランダから見える1年生の女の子が気になっていた。私の教室は3階で1年生の教室は1階になる。3階から眺めているといつものように高坂歩美と富井紗江子が校舎の庭でお弁当を食べていた。富井紗江子といえば、”春の噂”に登場した、噂の出所となった本人だ。今は高坂歩美と仲がいいらしい。高坂歩美は背丈が小さく、幼い感じで、目が大きくキュートで、どことなく強気な感じのする女の子だった。そう、私は高坂歩美のことが気になっていたのだ。


最初は熱をあげるほどのことではなかったが、卒業する前に一度でもいいから高坂歩美と話してみたいと思った。そこで、妹の友達で高坂歩美と同じクラスの井口敦子に「高坂歩美と遊んでみたい」とお願いをしてみた。私と遊ぶのではなく妹と遊ぶという理由で高坂歩美を家に連れてくることになった。もちろん井口敦子と富井紗江子も一緒に来ることになっている。


当日・・・


高坂歩美と富井紗江子が私の家に遊びに来た。最初、私は自分の部屋にいたが、1時間ほどしてリビングへ出た。私は軽く挨拶をして兄であるといった。”春の噂”で岡本早紀との噂があったせいか、二人とも私の存在は知っているようだ。早速、妹たちの輪に入って話をしてみると、高坂歩美は意外とクールで白黒ハッキリした性格のようだった。以前、噂の出所となった富井紗江子はごく普通の女の子という感じだが、あまりしゃべらないタイプで気の弱そうなタイプであった。たしかに高坂歩美は可愛らしくて気になっていたものの、少し話したくらいでは熱をあげるほど好きにならなかった。

その後、妹と気が合ったのか、高坂歩美と富井紗江子、井口敦子、妹の4人で遊ぶことが多くなり、家にも何度か来るようになった。その都度、短時間であったが、私もその4人の中に入って話す機会が増えていった。そうしていくうちにだんだん高坂歩美に惹かれていってるのがわかった。


そんなある日・・・


高坂歩美に惹かれていった私は一番仲の良かった富井紗江子にそのことを相談することにした。しかし、富井紗江子だけを呼び出すにはどうすればいいのか考えた。そこで定員2名だけど天井裏へ行ってみないかと高坂歩美と富井紗江子の二人を誘ってみた。当時、私の家はマンションだったが天井裏に入ることができた。そこに少し大きめのライトを持っていって私の隠し部屋としていたところだ。井口敦子と妹は天井裏に行くことを嫌がっていたので絶対に来ないことはわかっていた。二人は「面白そう」といって興味津々だった。最初は高坂歩美と天井裏に行くことになったのだが、天井裏に行くには上段の小さな押し入れまでのぼらないといけない。少しコツを掴めば簡単にのぼれるのだが、高坂歩美は背丈が小さいのでのぼるのに苦労していた。ようやく天井裏に行くと「別に何もないところ」と高坂歩美は興味なかったようですぐに降りていった。そしていよいよ富井紗江子と天井裏に行った。私は天井裏でライトをつけると富井紗江子に話しかけた。


「実は内緒で相談がある。絶対に誰にも言わないって約束してほしい」

「わかった。誰にも言わない」

「俺、実は歩美に惹かれていってるんだよ」

「やっぱりねえ。そうだと思ったよ」

「でもね、告白とかまだそこまでの感情ではないんだよ。だからこの先どうすればいいかわからないんだよね」


富井紗江子は困ったような表情をした。


「歩美の恋愛についてはわからないからなあ。どうすればいいかわからないと言われてもね・・・」


その後、富井紗江子は私の話をちゃんと聞いてくれていた。


2日後、4人は再び私の家で遊ぶことになった・・・


私はたしかに高坂歩美に惹かれているが、あと一歩の感情まで至らない。どうすればいいのか、この先どうしていけばいいのか本気で悩み始めた。そんな時、高坂歩美が「あの先輩カッコいい!」とか「あの先輩に憧れてる」などの話をしていた。それを聞いた私はあまりいい気分ではなかった。なぜならその先輩とは私の同級生だったからだ。悩む最中にそんな話を聞いた私は少しネガティブになり淋しい気持ちになった。そこで、また富井紗江子に相談しようと思ったのだ。どういうわけか富井紗江子は話しをよく聞いてくれるし話しやすいのだ。私は単刀直入に「ちょっと天井裏に来てくれないか」と富井紗江子に言った。他の3人は不思議そうだったが、再び富井紗江子と天井裏に行くことになった。


「さっき、歩美が先輩の話とかしてたけど、そういうのを聞くとせつないというか淋しいんだよね」

「その気持ちはわかるけど難しいなあ。歩美、平気でそういうこと言うからね」


しばらく沈黙が続いた。そして、私は何を思ったのか富井紗江子に抱きつき押し倒した。


「え!?」


富井紗江子は驚いた表情をしていたが無口であった。私は強く抱きしめていた。そして顔を少しあげて富井紗江子と目が合った瞬間、そのままキスをしてしまった。しばらく唇が合わさったまま時が過ぎていく。その後、二人とも起き上がって向かい合った。富井紗江子はわけがわからない表情だったが、私自身もわけがわかっていない。しばらく無言の状態が続いた。富井紗江子は何も言わず聞いてもこない。私も何を話せばいいのかわからない。そんな時、リビングから富井紗江子を呼ぶ声がしたので、二人とも天井裏から降りていった。富井紗江子は何事もなかったかのように普通にふるまっていた。私は自分が一体何をしているのかと悩んでいた。その日はこれで終わるのだが、帰り際に富井紗江子が「別に気にしてないから」と私に小声でつぶやいた。気にしてないとはどういう意味なのか。私は高坂歩美に惹かれてるはずなのに、どうしてあんなことをしたのか、自分でも全くわけがわからなかった。


それから数日後・・・


4人は再び私の家で遊ぶことになった。私は富井紗江子とちゃんと話がしたかったため、再び天井裏へ呼び出した。


「歩美ってやっぱり他に好きな人がいるのかなあ」

「それはワタシにはわからないけど、ただの憧れじゃない?」

「でも、あの先輩に憧れてるとか、そんな話ばかりしてるよね」

「歩美の口癖って思えばいいんじゃない」

「でもなあ・・・」


私は話をしているうちにせつなく淋しい気持ちになっていった。あんなことがあったのに、富井紗江子は親身になって話を聞いてくれている。そう感じた私は、また彼女に抱きつき押し倒してしまった。富井紗江子は相変わらず何も言わない。そしてまたキスをしてしまったのだ。今度は一度キスが終わってからもう一度キスをした。しばらくして起き上がった。


「紗江子の優しさがたまらなくて・・・」

「それは・・・わかってる・・・」


何がわかってるのかわからなかったが、これがきっかけになり私の家に来るたび、天井裏で富井紗江子とわけのわからない関係が続いた。


3月に入ったある日・・・


今度は富井紗江子から「話がある」と言われ天井裏に呼び出された。


「あのね、もう歩美に告白してほしいの」

「突然、どうして告白してほしいなんて言うの?」

「それは・・・その・・・もう耐えられないでしょ?」

「うーん。告白することは構わないんだけどね。ちょっと考えさせてほしいかも」

「わかった。でも早く告白してほしいな」

「少し考えるね」


今の私はどちらかといえば富井紗江子との関係と気持ちがわからないことが問題だった。


私は高坂歩美に惹かれているが、本当は知らず知らずのうちに富井紗江子に惹かれていってるのだろうか!?いや甘えているだけなのだろうか!?しかし富井紗江子に対して恋愛感情があるとは言えない。それに高坂歩美に対する気持ちも中途半端なものでしかない。告白して全てを終わりにしようということなんだろうか。私は悩みに悩んだ。もう終わりにしたほうがよさそうだと思い始めた。私の中途半端な気持ちもあるが、富井紗江子をかなり悩まさせてるに違いない。


次に4人が再び私の家で遊ぶことになった日、私は高坂歩美を外に呼び出した。


「実は俺、歩美のことが好きなんだ。だから付き合ってほしい」


高坂歩美は驚いた表情をした。


「それは・・・いきなりだし、少し考えさせてほしい」


しかし、この結果は見えていた。まだ私は高坂歩美とそこまで仲良くなったわけではないし、お互いのことを知らない。3日後、予想通りフラれてしまった。そして、その後はこの4人が私の家で遊ぶことはなくなった。


結局、富井紗江子との関係は何だったのか数年間わからないでいたが、おそらく私の心の救いだったのだろう。今の私なら間違いなく富井紗江子と付き合ってるかもしれない。そして、後で気づかされることになるのだが、高坂歩美への感情があと一歩に至らない理由は中学2年生の時好きだった笹倉佳奈のことが引きずっていたことがわかった。

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