8 ~悪魔~
教会内に新たに出現した魔物の気配が・・・
「ふむ。
あれを容易く屠るとは、市井の冒険者とやらも、なかなかに侮れぬ。」
それは、不意に背後に現れた。
いや、正しくは、それまで認識外にあったものが、突然、視覚と聴覚に介入した。
「エニナ・・・ちゃん?」
クーナは、少し前まで隣に眠っていたはずの少女の名を呼んだ。
確かに、それは少女の姿を纏ってはいた。
しかし、その周囲を包み込む魔力の揺らめきが、その幼げな外観を裏切っていた。
「闇より出で、闇の裡に潜むもの・・・デーモンか?
いや、アークデーモン?」
「ほう・・・我が正体を見抜くとは、一介の冒険者にしては、なかなかのものだな。」
「エニナを、どうしたの?」
震える声で、たずねるクーナ。
「力なき者の血肉は、力ある者の糧となる。
それこそが、世の理であろう?」
少女の顔が、残忍な笑みを浮かべる。
「喰った・・・のか?」
喉の奥から搾り出された、ゴドーの呻き。
獣や魔物に食い散らかされた遺骸を、幾度となく目にした経験のあるゴドーにしてみても、目の前にいる幼な子の死に様を想像することは、心に痛みを強いられた。
それが、普通の女性の身であれば、なおさらだ。
クーナの心情を思いやって、彼女に目を向けたゴドーだが・・・
「クーナ?」
彼女の、華奢な肩が震えている。
握られた拳の裡から、紅い血が一筋滑り落ちてゆく。
ギリ・・・と、クーナの奥歯が軋む。
俯いたままの彼女の表情は、ゴドーには見えていない。
だが、まごう事なき怒りの思念が、大気を震わせてゴドーに届く。
「武具を・・・」
自分に向かって突き出されたクーナの左手に、一瞬、息を呑んだゴドーだったが、すぐに腰に下げていた蛮刀を手渡した。
「特別上等なモノじゃないが、それなりに頑丈だ。」
ゴドーの言葉を聞いているのかいないのか、何度か握りなおすクーナ。
長年、数多の冒険者の姿を見てきたゴドーの鑑定眼で判断する限り、クーナは冒険者と言うよりも、もっと規律のある剣技を習得しているようだ。
そんな彼女が、どうして冒険者たちの面倒をみるようになったのか?
ふと、そんな疑念を抱いたものの、賢明にもそれを口に出す事はしないゴドーだった。
(武具を手にするのは、久方ぶりか・・・)
持ち慣れてはいない蛮刀だが、使い込まれ、充分に手入れされた武具の感触は、かつてクーナが馴染んだものだ。
「さて、一人ずつ相手をすれば良かろうか?
あるいは、二人同時でも構わないが?」
クーナとゴドーのやり取りを、黙って眺めていたアークデーモンの質問に、口を閉じたまま、クーナが一歩足を踏み出した。
背後のゴドーが、体内で魔力を練り上げているのが感じられる。
(さすがは実質特級。
背中は、気にしなくて良いか。)
さらに一歩前に進みつつ、クーナは魔力を全身に行き渡らせる。
(身体強化、魔力循環、防御強化・・・)
クーナの思念の奥底で、長らく沈めたまま練りに練られてきた魔力が開放され、細胞の一つ一つを賦活化してゆく。
(こいつは・・・)
その圧倒的なまでの魔力の高まりに、目を剥くゴドー。
(俺は、余計なことはしない方が良さそうだ。)
方針変更し、魔力のほとんどを防御に回しつつ、感覚を強化する。
「ほほぅ・・・」
アークデーモンが、目を細めた。
「これは存外、掘り出し物かもしれぬ。」
幼子の姿のまま、舌なめずりをするアークデーモンと、怒気さえ魔力に昇華して対峙するクーナと。
どちらが強いのか、いや、どちらが生き延びることができるのか、もはやゴドーには予測がつかなかった。
残念エルフのエンゲ:クーナさん、大丈夫かな?
男前ドワーフのニナ:ああいう感じの子も、エンゲの好みかい?
残念エルフのエンゲ:馬鹿言わないでくれよ。ボクはすべての女性に対して平等に接しているよ。
男前ドワーフのニナ:あたしも、その一人ってわけかい?
残念エルフのエンゲ:もちろん、君だけは特別さ。ニコニコ