3 ~戦端~
敵の数は二十倍。
絶対絶命の窮地・・・なのかもしれない?
「全員、起きてるな?」
ゴドーは、背後に展開している仲間たちの気配を感じつつ、振り向かずに言った。
「なんだいなんだい、せっかく、いい夢見てたのにさ。」
右後方から聞こえてくるのは、ニナのぼやき声だ。
「フィノ!敵の数は?」
左後方の声の主は、シャーナ。
「百二十と二・・・か。」
「なんで、近くに来るまで気がつかなかったんだ?」
頭上から降ってくるエンゲの質問に、
「どうやら、魔力隠蔽結界を使われたようです。」
応えたのは、リーリア。
「光輝の術が効いている間は、何とか接近を止められていますが、どうします?」
スケルトンは、ハイオークや魔狼と並び、上級に位置する魔物だ。
対するゴドーたちはと言うと、上級冒険者はゴドーのみ。
『鉄壁』の五名は、すべて中級冒険者だ。
通常、上級の魔物に対しては、上級以上の冒険者が複数で対応する。
普通に考えればここは、逃げの一手だ。
いや、そもそもここから脱出できればの話なのだ、が、
(光属性魔法使いと、火属性魔法使いか・・・)
「スケルトン以外の魔物は?」
「フィノの感知範囲内には、いないみたい。
召喚主はまだ確認できてないけど、相性は悪くないと思う。」
スケルトンは闇属性の魔物で、光や火は弱点となる。
また、スケルトンが複数発生した場合、互いに潰し合ってしまうので、今回のように多数の個体が共存している場合には、全体を統率することのできる、強力な魔物が存在するはずだ。
(スケルトンより上位で、知能の高い魔物か・・・俺たちだけでやれるのか?)
数日の道行きで、『鉄壁』パーティの個々の能力は上級冒険者に准ずることは分かっている。
しかし、そうだとしても、同格以上の魔物が相手で、しかも数は二十倍。
その上、スケルトンを統率する、未知の上位魔物が存在する。
ついでに、敢えて口に出してはいないが、スケルトン以外の魔物の存在が隠蔽されている可能性も、なくはない。
と、なれば・・・
「召喚主が近くにいないのは幸いだ。
まずはこの場から離脱、出直して再戦だ。」
「えっ?それでいいの?」
「?」
思わず振り向くゴドーに、シャーナのしかめ顔。
「せめて、クーナの無事を確かめないの?」
「クーナの?いや、それは・・・」
動揺するゴドーの肩に、背伸びしたシャーナの手が置かれ、
「大丈夫、年の差なんて、大した問題じゃないわ。」
真顔のシャーナのまっすぐな瞳に、ゴドーの胸の奥が、ズキリと痛んだ。
「方針決定のようですね。
申し訳ありませんが、リーリアさんは現状維持。
シャーナさん、フィノさん、よろしくお願いします。」
ゴドーたちの背後を守っていたギルガの声に、
「こっちはいつでも大丈夫ですよ!」
リーリアが応え、
「フィノ!魔力同調!」
フィノの小さな体が、重さを感じさせずに、ふわりとシャーナの頭上に降り立つ。
フィノの瞳とシャーナの瞳が一瞬、眩い程の輝きを放ち、シャーナはすっかり手に馴染んだ杖を地面に水平に、両手に握って前方に翳す。
「魔力集中、圧縮・・・」
シャーナを中心に、パーティの外周を炎が舞い、渦を巻く。
「防御結界を追加します。
対応できる方は、念のため、各自展開お願いしますね。」
リーリアの呼びかけに、ギルガの盾が、淡い蒼の光を纏う。
「守りの呪いは苦手なんだがねぇ。」
ぼやき声のニナに、
「細かい制御は、ボクがやるから大丈夫。
リーリア、まだ、余裕はあるよね?」
尋ねるエンゲに、リーリアは頷きつつ、
「しばらくはこのまま維持できますけど、後のことを考えると、できれば早めに決着してもらった方がいいです。」
「それもそうか。いけるよ、シャーナ!」
「了解!
爆炎散華ッ!」
その瞬間、シャーナを中心に、炎が爆散した。
衝撃が、大気を震わせる。
防御結界に守られているはずなのに、内部に漏れた熱気が肌を炙る。
「フィノ!
防御結界を継続して!
いけるよね?」
シャーナの鋭い口調とは真逆に、フィノは、まったりした声音でニャアと応えた。
天然神官のリーリア:火炎魔法って、派手でいいですよね。
毒舌魔法使いのシャーナ:リーリアが、守ってくれるから・・・ポッ
天然神官のリーリア:それは・・・大事な仲間ですもの。ニコッ