31 ~連撃~
鉄壁メンバで最後に残ったギルガだが・・・
(残ったのは、僕だけですか・・・)
防具の確認を終えたギルガが、ゆるりと立ち上がる。
一日の終わりには手入れを欠かしてはいないギルガだが、まとった軽甲冑からは、汗と油と革の入り混じった匂いがする。
正直言って、好ましい匂いとは言い難いのだが、身体に馴染んだ感覚に包まれているという状況は、決して悪いものではない。
愛用の盾と剣は、デーモン戦の後、欠損部などの修繕でアルフに預かってもらって以降は、特に手を入れていない。
こだわりという程のものはないが、我が身を守る防具、武具には、それなりの愛着を感じてはいる。
武闘大会への参加にあたり、アルフや他の鉄壁メンバとも相談をしてみたのだが、特に目新しいアイデアなどは出ず、愚直に努力を続けるという結論に至ったギルガだった。
(僕には、クーナさんのような剣技も、シャーナのような魔力もない。
エンゲさんのような魔力感知もできないし、ニナさんのような重い攻撃もできない。
でも・・・)
親父譲りの頑強な身体を魔法で強化しつつ、限界まで追い込むことは数知れず。
魔法無しの鍛錬による底上げも作用し、同格の冒険者の剣戟や魔法程度であれば、苦もなく防御を可能としている。
もちろん、特級超えとの呼び声も高いクーナの剣技や、対リザ戦で見せたシャーナの極炎魔法、エンゲの正確無比な弓術や、ニナの魔法拳を受ければ、無傷と言うわけにはいかないと思うが、そういう時のためにこそ、アルフ謹製の盾が、威力を発揮するのだ。
ちなみに、ギルガの持つ盾を台座のようなものに固定し、前述のような攻撃を仕掛ければ、それは容易く盾を破損せしめるだろう。
ギルガが魔力を通じ、それぞれ対応した動作や構えを取ることによって、相手の攻撃が無効化されたり、受け流したりすることができる。
ギルガの技は、恐ろしく地味で、決して脚光を浴びることはないけれども、彼の広い背中を見る者には、安心と平穏をもたらすのだ。
弛まず、恐れず、逃げ出さず、害を為す、すべてのものから、大切なものを守り抜く。
それが、ギルガの目指すもの。
戦いの舞台に向けて、ギルガはゆっくりと歩き出す。
(さてさてさてさて~、アルフの盾をどう攻略するか、それが問題だ。)
腕を組み、考え込むデラだが、すぐに考えることを止めた。
試合開始の合図と同時に、
「極炎弾!」
シャーナの炎獄弾より遥かに速く、威力のある炎弾が、ギルガの盾に叩きつけられる。
続けて数撃放たれた炎も同様に、盾の表面を焼いてゆく。
普通の相手であれば、すべてを受けきった後に反撃に転じるところだったが、ギルガは敢えて前に進んだ。
(そう来たかッ!)
行動自体は想定内だが、ほぼ無傷かつ、恐れ気もなく飛び込んでくるギルガに、デラは相手の強さ想定を、瞬時に一段格上げした。
デラの身体が、ほとんど地面スレスレまで沈みこむのを、ギルガは地面に剣を突き立てて牽制、回避するデラ自身を、盾を前面に全体重をかけるようにして弾き飛ばす。
(うほッ!いい一撃!)
飛び退りつつ、空中で一回転したデラの目前に、ギルガの剣の切っ先が迫る。
(南無三!)
デラの両手が、ギルガの剣を挟みこみ、捻りながら引き落とす。
(マジかッ!)
持ち主のいない剣と、デラの背面から迫る盾。
地を蹴り、さらに盾を蹴り、デラの小さな身体が飛び上がる。
くるくると回転し、十分速さを稼いだデラの踵が、真下で待ち受けるギルガの盾を蹴り落とす。
デラの無防備な背中に向かって、ギルガの、指を組んだ丸太のような腕が振り下ろされる。
(くぅ~ッ!)
盾の上で、四つんばいの格好で衝撃を受け止めたデラが、素早く前に転がって、ギルガと距離を取る。
デラが構えを取りきる前に、ギルガの盾が迫る。
(いや、盾は囮だッ!)
盾の後ろから、ギルガの剣の連撃が放たれる。
威力は比べるべくもないが、自身に仕掛けた多重の身体強化により、アルフに匹敵する高速連撃を、瞬きも忘れたデラの両腕が、弾く、落とす、叩き上げる。
(!)
不意に、動きを止めるギルガ。
つい先まで高められていたギルガの裡の魔力が、霧散してゆく。
「まだまだ・・・」
残された力のすべてを込めて、剣を振りかぶるギルガ。
もはや、その剣に力はない。
前方に倒れこむギルガの身体を、デラは頭と両手で受け止めた。
湧き上がる歓声の中、意識を手放したギルガの表情は、ひどく穏やかなものに、デラには思えた。
天真爛漫のデラ:一瞬だったけど、アルフと同じくらいの連撃だったよ~。
主役になりきれないギルガ:思ったより、魔力切れが早かったですね。
天真爛漫のデラ:また、勝負しようね。
主役になりきれないギルガ:こちらこそ、よろしくお願いします。




