29 ~炎撃~
武闘大会六日目、本戦に進んだシャーナの相手は・・・
わぁッと、会場全体が揺れるような声援の中、武闘台の上に立つ人影が二つ。
一つは、平均的なヒト族男性より頭一つ分ほど長身で、ヒト族で言えば二十歳前後の若い女性の姿を持つ者。
今一つは、小柄で痩せぎすのヒト族の少女。
「見違えたぞ、シャーナ。」
「わたし、そんなに変わって見える?」
自分の身体を見下ろす、シャーナ。
あと数年もすれば、ぼちぼち家庭に入る者もいるだろう年頃ではあるが、遺伝的な体質のためか、起伏に乏しい、貧相な体つきだ。
「わたしにとっては、見た目なぞ意味はない。
デラの気まぐれは、随分と役にたったようじゃな。」
「思い出したくないから言わないで!」
明確な言葉を放つシャーナに、リザの口元に笑みが浮かぶ。
シャーナとは対照的に、こちらは世の男性どもを惹き付けるのみならず、同性でさえも嘆息をもたらす程に優美な曲線を有している。
リザの周囲に、仄かに炎が揺らめき始めると、
「フィノ!」
シャーナの呼びかけに瞬時に現れたのは、今や相棒としてかけがえのない存在となった炎猫だ。
「遠慮は無用じゃ。
そちらから来ぬならば、こちらから参るぞ!」
足を踏み出すリザの目前で、シャーナの姿が揺らぐ。
「何ッ?」
リザの後頭部の髪が、ザワッと逆立つ。
振り向くこと無しに、リザはフィノの体当たりをかわしたが、ほとんど遅滞なく放たれた火炎弾が、リザの背中で爆裂する。
「くッ!」
痛みもダメージもないが、体勢が崩れたリザの足元に、シャーナの痩身が滑り込み、
「炎獄弾!」
リザの胸元に向かって叩き込まれたのは、物理重量さえ感じさせる、炎の礫。
「むんッ!」
構わず踏みつけたリザの足元には、すでにシャーナの姿はない。
(まさか、ここまでヤれるようになっていたとはな。)
初めて会った時、ヒトの形をしたリザに向かって魔法を放つことさえ躊躇した内気な少女の面影は、もはや皆無だ。
(男子三日会わざれば刮目して見よと言うが、やはりヒト族の成長の速さは侮れんな。)
リザの纏う魔力が、瞬時に色を増す。
つまり、リザが少し本気を出してきたということだ。
(フィノ!
このまま畳み掛ける!)
リザから距離を取って立つシャーナと、その頭上に浮かぶフィノ。
(身体強化、火炎防御、感覚強化・・・)
すでに行使されていた魔法を、さらに上書き強化する。
鍛錬を積んだデラと違い、シャーナの身体能力は、普通より少しマシな程度だ。
だから、魔法の重ねがけで対処する。
音に敏感な相手にも勘付かれないよう、無音詠唱はすっかり手馴れたものだ。
「さて、それからどうするのかの?」
シャーナの首の後ろに、ゾクリと冷たい汗が滲む。
紅く燃えるリザの瞳が、目前にあった。
リザの右手が、シャーナの首を絞めている。
迫ってくるリザの、気配も魔力も感じなかった。
(やっぱり、何もかも相手が一枚も二枚も上手だ。
でも・・・)
シャーナの心臓はまだ、鼓動を続けている。
体力も魔力も、尽きてはいない。
今のシャーナの全力をもってしても、リザにかすり傷をつけることさえ叶わないかもしれないけれども。
せっかく、成長を認めてくれた相手に対して、無力のまま終わるのは口惜しいから。
(フィノ!
極炎装身!)
フィノの輪郭が朧に揺らぎ、シャーナの身体の表面を奔る。
まるでそれは、炎蛇のように。
シャーナを、リザを、炎の大蛇はすべてを呑みこみ、渦を巻いて吹き上げる。
最後の魔力が放たれるのと同時に、シャーナの意識は混濁に沈んでいった。
火龍リグザールことリザ:なかなか、良い鍛錬を積んだようじゃな。
毒舌魔法使いのシャーナ:・・・(赤面)
火龍リグザールことリザ:フィノとの呼吸も、ようおうておる。
炎猫のフィノ:みぁう~
火龍リグザールことリザ:これからの成長が、ますます楽しみと言うものじゃ。




