2 ~依頼~
冒険者組合から受けた依頼。
現地に向かう、ゴドー&鉄壁メンバの一行。
彼らを待ち受けるものとは・・・
事の発端は、調査依頼だった。
依頼元は、冒険者組合。
依頼内容は、マキネ村からの定期便が途絶えたことの原因調査だ。
辺境の小村は、リンゴールと定期便を往復することにより、互いの無事を確認している。
すべての費用を負担している組合側からしてみれば、持ち出しばかり多くて得るものは少ないように見えるものの、リンゴール周辺の安全確認と、比較的経験の少ない冒険者たちにあまり危険ではない依頼を受けさせることにより、経験値を高められるという意味では、決して損しているばかりではなかった。
冒険者側にしても、そこそこ安全で、組合からの信頼も得られるので、必ずしも割りの悪い仕事ではないと言えた。
マキネ村は、リンゴールから西の隣国へつながる街道から少し北に入ったところにある小さな村で、周囲を山に囲まれたくぼ地を拓いた、百戸余りの集落で構成されている。
特段に名産と呼べるような作物はないけれども、砂漠に近く、農産物全般が常に不足気味なリンゴールにしてみれば、重要な取引相手の一つだった。
通常、リンゴールからマキネ村への道程は街道沿いの宿場町で二泊、三日目の夕方前には村に到着という日程になるのだが、ゴドー達一行は、最後の宿場町をゆっくりと出発して、三日目の夜は村と街道の、ちょうど中間地点で野宿することになった。
焚き火のパチパチと言う音を聞きながら、ゴドーの瞳はゆらめく炎に向けられていたが、その心中には、別なものが映っている。
ふと頭を巡らせると、パーティの仲間たちの穏やかな寝息が聞こえてくる。
焚き火の近くには、女性達。
それを丸く囲むように位置する、男性陣。
もっとも、ギルガは盾を地面に突き刺し、それに背中を預けつつ片膝を立てていて、いつでも立ち上がれる体勢だし、女性達も旅装を解いていない。
だらしない格好で眠りこけているのは、エンゲだけのようだ。
不意に、足元に温かみを感じて目をやると、フィノが身体を擦り付けながら、ゴドーの膝に上がってきた。
火炎ゴーレムの一種ということはギルガから聞いているものの、見掛けは普通の猫と大差ない。
ただ、暗い場所にいる時には、身体の表面を、時たまうっすらと赤い陽炎のようなものが巡っていることから、強い魔力を内在していることが見て取れた。
魔力の供給源がシャーナであるため、内在する魔力の総量ではシャーナに劣るものの、それでも中級冒険者並みの魔法が使えるとなれば、立派な戦力だ。
人生の八割がたを冒険者として過ごしてきたゴドーであっても、こんな生き物?と、どう付き合っていけば良いものか、悩ましい。
(シャーナ嬢ちゃんのあしらい方は、普通の猫と同じだった。
猫のように振舞う相手なら、普通の猫だと思って扱えばいいということなのかな?)
ゴドー自身は、どちらかと言うと犬派なのだが、だからと言って猫が嫌いというわけではない。
(取り合えず、喉の辺りでも撫でてみるか?)
しっとりした毛並みの感触は、普通の猫と変わらないようだ。
何かの呪いで化かされているのでは・・・とも思ってしまう程だったが、こんなにも容易く心の安寧をもたらしてくれる呪いであれば、むしろ自分から進んで虜になってしまいたいくらいだ。
(経験豊かな上級冒険者を気取っておきながら、存外に俺も切羽詰っていたのかもな。)
長期休暇を取ったクーナがマキネ村にいると聞いた時には、一瞬、目の前が真っ暗になったゴドーだった。
だが、それもまばたき程の時間で、すぐさまマキネ村の調査依頼を受け、たまさか居合わせた『鉄壁』パーティを誘い、準備もそこそこにリンゴールを出立して、今に至っている。
ともすれば、遮二無二マキネ村に向かって駆け出したい心を宥めつつ、経路上で遭遇する魔物どもの由来や種別を確認、情報整理しつつの道行だ。
とりあえず、今までの道のりでは、特に異変はないようだった。
街道を外れてすぐに遭遇したオークどもは数も多くはなく、恐らく逸れの一団であろう。
昼過ぎに見つけた猪たちは、すでにパーティ一行の腹の中に収まっている。
敢えて野宿を選択したのも、何者かが潜んでいるのであれば、相手の出方を見たかったからなのだが・・・
(大規模な異変なら、この辺りまで影響があってもおかしくない。
と、なると・・・)
リンゴール以外から持ち込まれた流行り病か、あるいは単独、または少数の強い魔物でも出現したか。
いずれにせよ、事前情報なしに、いきなり村に入るのは考え物だ。
万が一、ゴドーたちが戻らなければ、一週間後には追加の調査隊が派遣される予定ではあるものの、それでは後手に廻り過ぎる。
可能であれば、ゴドー自身が問題を解決し、クーナのいる村を救えれば・・・
不意に、ンナァーォと、フィノの緊迫の声音が、思念に沈みかけていたゴドーの頭上で炸裂した。
(!)
考えるよりも先に火のついた薪の一本を掴み、ゴドーは立ち上がる。
森の深い闇に、次第に視力が慣れてゆき・・・
「聖燐光輝!」
リーリアの、凛とした声が、背後から耳を打った。
瞬間、視界は光に包まれた。
反射的に目をかばうゴドーに、
「魔力の輝きです。
すぐに慣れます!」
聞こえてきたのは、ギルガの声だ。
「うわーっ、全方位囲まれてるよー。」
頭上から降ってくる情けない声音は、エンゲのものだ。
木の上から、周囲を見回している様だ。
「囲まれているって、何が?・・・」
ゴドーの問いに返答したのは、ゴドー自身の視覚だった。
遥か頭上で今だ輝く聖なる光に映し出されるのは、ゆらゆらと蠢く骸骨たち。
「スケルトン・・・」
愛用の蛮刀の柄を握るゴドーの手の平に、じっとりと嫌な汗が滲んできた。
残念エルフのエンゲ:絶対絶命だよ~(泣)
男前ドワーフのニナ:男だろ、しっかりしなよ。
残念エルフのエンゲ:ニナは頼りになるなぁ。コソコソ
男前ドワーフのニナ:そう言いながら、あたしの後ろに隠れるんじゃない!