28 ~強さ~
揃って負けたクーナとゴドーは・・・
「くっそ~。
全然、歯が立たなかった~。」
治療台の上で胡坐をかき、腕組みをしつつ、クーナは呻いた。
すぐ隣の治療台に腰掛けていたゴドーが、
「そっちはまだいいさ。
アルフのヤツ、中途半端に手加減しやがって・・・」
いたたた・・・と、自分の胸を押さえている。
ゼルムンドの拳は、クーナの意識を刈り取ったものの、後に残る傷はなかったようだ。
それは即ち、ゼルムンド側には十二分に余裕があったことを証明している。
「あと数合は打ち合えると思っていたんだがな~。」
ぼやきつつ、無意識に爪を噛むクーナ。
リンゴールに来てから、ほとんど消えつつあった悪癖が、ぶり返している。
「それは俺も同様だ。
アルフめ、寸分違わず急所を突いてやがる。」
上半身裸のゴドーが、ほとんど贅肉のない自分の胸から腹にかけて目を落とす。
心臓、鳩尾、喉のすべてに青い痣が浮かび上がっている。
いずれも防具で保護されていたはずだったが、アルフの高速連撃が穿った印だ。
いや、普通に剣で突かれたのなら、ゴドーがここで息をしていられるわけがない。
アルフは、ずいぶんと鈍らを使ったようだ。
「まったく、こっちは本気で勝負を挑んだ積もりだったんだがなぁ。」
「子供相手に、大人気ないな。」
「子供って・・・アルフは、ゼルムンド氏に勝ったことがあるらしいぞ。」
「ゼルムンド殿に?
剣でか?」
「あの二人が、剣以外での勝負があり得るかよ。」
「それはまぁ、そうだな。」
ふぅと、ため息をついたクーナが立ち上がり、ゴドーの隣にストンと腰を落とした。
「・・・もっと、強くなりたいな。」
思わずつぶやいたゴドーの言葉に、
「ああ。」
真っ直ぐに、前を見つめたまま、応えるクーナ。
その揺らぎない瞳の力を、ゴドーはこの上もなく美しいと思った。
「ん?なんだ?」
「・・・いや、なんでもない。」
「そうか。」
足元に目を落としたゴドーが、ふたたびクーナに顔を向けると、クーナの端正な顔立ちが、目前にあった。
「!?」
「人は、一人では強くなれない。
何か、守るものがあるからこそ、強くなれる。」
「それは・・・」
クーナの、蒼空の瞳の奥に、いったい、どんな感情が込められているのだろう?
「以前、騎士団長に言われた言葉だ。」
何を思い出したのか、クーナはクスリと笑って、
「今思えば、あれは求婚だったのかもしれないな。」
感慨深げなクーナの眼差しから、ゴドーは知らず目を逸らした。
「どうして、受け入れなかったんだ?」
「自信が、なかったのかもな。
強さも、志の高さも、人として、何もかも負けてた。
・・・いや、負けてると思い込んでた。」
「・・・。」
「でも、人はみな、同じじゃない。
素質も、境遇も、努力の方法も、その結果、至る場所も・・・」
「そうだな。
だから強さも・・・クーナの求める強さと、俺の求める強さは違うんだろう。」
「ゴドーの求める強さとは?」
「・・・折れない、心かな?
クーナは?」
「わたしは・・・守りたかった。
それは、王国であり、民衆であり、騎士の仲間だった。
でも、わたしは王国から追放された・・・」
心の中の言葉を探るクーナを、ゴドーは静かに見守っている。
「騎士でなくなったわたしにはもう、何かを守る資格なんて、ないと思ってた。
守るべきものを失ったわたしには、生きる意味なんてないと思った。
でも・・・」
自分を見返すクーナの眼差しは、ひどく優しげに、ゴドーには思えた。
「裏方に徹して、若い冒険者を補佐する貴方を見ていたら、そういう生き方もあるんだなと思った。
仲間を失っても、立ち直り、また仲間を集め、誰かを守るために戦い続ける鉄壁のみんなを見ていたら、こんなわたしにもまだ、できることがあるような気がして・・・」
「気持ちがあれば、何だって出来るさ。
いつでも、どこにいても。
それに・・・」
真剣にクーナの語りを聞いていたゴドーが、表情を緩め、
「もう、進む道は決めてるんだろう?」
「わたしって、そんなに分かりやすい顔してる?」
顔をしかめるクーナでさえ、可愛らしいと思う、ゴドーだった。
男前ドワーフのニナ:じれったいな!そのまま押し倒しちまえよ!
残念エルフのエンゲ:クーナは、前の男が忘れられないんだね。
男前ドワーフのニナ:今はいない男よりも、目の前の男の方が大事だよ!
残念エルフのエンゲ:そういう君は、目の前の男を大事にしてるのかな?
男前ドワーフのニナ:四の五の言わず、剥いちまえ!
残念エルフのエンゲ:そんな、ご無体な・・・




