25 ~武技~
戦いの前のひと時、ゴドーとクーナは・・・
武闘大会五日目の午後は、剣術の部の準々決勝だ。
誰と対戦するかは、直前にならないと分からないのだが、
「顔馴染みが多いと言うのは、喜ぶべきことなのかな?」
思わず口にしてしまうゴドーに、
「そうか、貴方と戦りあう可能性もあるのか。」
挑戦的な視線を送りつけてくるのは、クーナだった。
初めて会った頃、肩まであった黄金色の髪は、冒険者への転身を決めた後、顎の辺りぐらいの長さに切りそろえられている。
長めの方がゴドーの好みだったが、見慣れたせいか、活動的な今の髪型も悪くない。
「得物を考慮すれば、距離をとって少しずつ削るのが常道か。
しかし・・・」
クーナの傍らに立てかけてある長剣に、目をやるゴドー。
デーモンとの一戦以来、クーナは常に剣を身近に置いていた。
戦う時だけではない、食事の時も、沐浴の時も、そして、寝る時でさえも。
剣の重さと長さに早く慣れたかったということもあるが、設え主のアルフから、魔力を込めれば込める程に、付加魔法の威力も上がるということを聞いたからだった。
実際、その変化を体感したクーナだったので、自分の半分程の年齢の若造の指示を、愚直なまでに実践していた。
ゴドーの視線から、言いたいことに気がついたクーナが、
「魔法を介した斬撃の有効距離は、元から闘技場全体をカバーするのに十分だった。
付加する魔法の属性にもよるが、武闘台上なら、間違いなく端まで届くな。」
淡々と語る口調には、気負いも衒いもまったくない。
「それだけの武技がありながら、今は冒険者見習いか。
人の運命など、分からんものだよな。」
ため息がちなゴドーの言いように、クーナはわずかに笑みを浮かべ、
「どんな立ち位置にあっても、わたしはわたしだ。
武士の道を進むことには、変わりない。」
「揺らぎがないな。」
「生来、不器用な性質でな。
人の顔色を窺がうのも苦手で、騎士団ではいらぬ苦労もした。
もっとも、その経験のお陰で、冒険者組合ではそれなりに振舞うことができたがな。」
「それなり?」
「なんだ?その言い方は。」
「知らぬは本人ばかりなり・・・か。」
「言いたいことがあるなら、はっきり言え!」
「そうだな・・・いや、それは気の毒と言うものかな。
俺も、冷酷と言うわけではないからな。」
「そ、そこまで言うか!」
「意外に、自分のことは分からないと言うからな。」
「ぐぬぬぅッ!」
・・・と、嫌らしい笑みを浮かべていたゴドーが表情を緩め、
「済まん。」
「・・・えっ?」
「珍しく緊張していたようだったんでな、少し、おちょくり過ぎた。」
「緊張?」
「ああ、俺がな。」
確かに、そうなのかもしれないが、それは自分も同じだ・・・と、クーナは思った。
久しぶりの、強者との闘いの予感に気負っていた。
闘いから気を逸らされてようやく、高ぶりすぎていた自分の気持ちに気がついた。
だが、そんな心情などはおくびにも出さず、
「それは、良かった。」
ともすれば苦しく感じる呼吸を、無理やり整える。
剣の道に進むことを選んだ頃に身につけた呼吸法は、騎士の基本技の一つだ。
程なく、平常に戻ったクーナの耳に、ゴドーの名を呼ぶ声が届いた。
「おう。
俺の出番の方が先らしいな。」
「御武運を。」
「ああ、死なない程度にがんばってみるよ。」
片手を挙げつつ、存外に逞しいゴドーの背中が、ゆっくりと遠ざかっていった。
毒舌魔法使いのシャーナ:ちょくちょく口調が変わるのは、なぜ?
恋する中年のゴドー:剣を持つと豹変するようだな。
熱血剣士のクーナ:(自分のことなのに、知らなかったぁッ!)
毒舌魔法使いのシャーナ:真っ赤になってる。
恋する中年のゴドー:(そういうところが堪らないんだよな。)




