21 ~強敵~
本戦で一勝したニナの、次のお相手は・・・
武闘大会三日目を終了し、『鉄壁』パーティ全員が、予選を無事通過していた。
拳闘の部のニナ、剣術の部のクーナ、ゴドー、リーリア、エンゲ、そして魔法の部のギルガとシャーナだ。
その翌日の午後、武闘台上にはニナの姿があった。
「さて、もう一段、賞金を上乗せできるかな?」
武闘大会に参加するにあたって新調した・・・正確を言えばアルフが新しく準備してくれた手甲を、胸の前で打ちつけあわせる。
(さらに軽くなって、強度も向上か。
さっすがアルフ、いい仕事してくれるねぇ。)
『鉄壁』最年少のシャーナと同じくらいの年齢のはずだが、パーティ全員の信頼を勝ち得ているアルフだった。
今回の武闘大会参加にあたって、『鉄壁』パーティメンバの武具や装備はすべて、新調、あるいは改造されているはずだ。
ある程度付き合いの長いギルガやリーリアはともかく、本来であれば他人が触れることさえ忌諱するエンゲの長弓でさえ、アルフの手によって、初期の頃とは別物に仕上がっていた。
そもそも、武器の類は持たないニナだったから、他の『鉄壁』メンバがアルフの業を語る言葉に、若干の胡散臭さを感じていたりしたのだが、『鉄壁』パーティに加わってすぐ、アルフから何気なく手渡された手甲を使い始めると、程なくアルフの手腕の異常さに気がついていた。
(何だこれ!
おっそろしく、馴染みがいい。)
丹念になめされた革が丁寧に縫い合わされ、ニナの動作を阻害することがないのは序の口だった。
内部の緩衝材は少なめだが、肌の延長が防具の理想であるニナにしてみれば、それはむしろ具合が良い。
そして何より、
(びっくりするほど、魔力が馴染む。)
アルフが言うには、魔力を込め、使えば使うほど、使用者自身の魔力との親和性が高まるらしい。
(スケルトン戦で、完全に自分の身体の一部になった気がしてたけど・・・)
マキネ村に向かった時点で、ニナとしては十分満足していた装備だったが、提供元のアルフは、全然納得してはいなかったらしい。
もっとも、アルフとしては、あくまで防具を拵える練習だから・・・みたいなことを言っていたのだが、そんな上辺の言葉など、実際にニナが装着した手甲の仕上がり具合が、すべて弾き飛ばしていた。
(本戦の一戦目は、手甲の感触を確かめているうちに終わっちまったからな。
二戦目は、もう少し歯ごたえがある相手だといいんだが。)
そんなニナの願いは、十分以上にかなえられることになる。
(こいつ、できるッ!)
見かけはアルフと変わらないくらいの年頃の、獣人の少年だ。
ドワーフにしては長身のニナと正対しても、頭一つ分、余計に上背がある。
だが、いかにもやんちゃな見かけに反して、その物腰は落ち着きを有していた。
両の瞳を伏せるようにして、試合開始の合図を待っている。
(明らかに格上の相手を、どう攻略するか・・・)
近接戦闘担当ということもあり、猪突猛進の戦闘スタイルと思われがちなニナだが、存外にその思考は細やかだ。
(毛並みや顔つきからすると、虎人、あるいは派生種か。
速さも馬力もある上に、魔力も同等か、それ以上・・・ね。)
生き物としての基本性能は、相手から見れば歯牙にもかけぬ格差がある。
その一方で、ニナ側が有利な点は三つ。
アルフ謹製の装備の優秀さを、相手が知らないこと。
相手は若年、こちらもドワーフとしては若年だが、少なくとも数倍の年齢(経験)差があるということ。
女性が相手と言うことで、無意識に手加減してくれるかもしれないこと。
もっとも・・・
(獣人の血がいくばくか混ざっているとは言っても、基本はドワーフ族だからね。
変わり者のエンゲじゃあるまいし、三の線は期待できないか。)
エンゲの端正な顔立ちを思い浮かべていたら、何だか腹が立ってきた。
(別行動すると分かったら、妙にウキウキ顔になりやがって・・・)
少しは寂しげな表情をしてくれたら、可愛げがあるのだが。
そんな感傷も一瞬で、ニナは戦う女の顔つきに変化した。
厳しい戦いの予感が、ニナの魂を貫く。
我知らず獰猛な笑みを浮かべ、ニナは奔る。
「いやぁ、完全に負けた負けた。」
金貨入り皮袋を玩びながらニナの口調は、口惜しさとは無縁のものだった。
「相手のリーズド君と言うのは、ファングの従兄弟なんだって?」
酒盃を傾けつつ、尋ねるゴドー。
「ああ。
元々の素質は、俺なんかよりずっと上の筈なんだが、とにかくやる気のない奴でな。
叔父貴殿も、ずいぶんと心配していた。」
応えたのは、つい先刻までニナと戦っていたリーズトと似た姿の、獣人の若者だ。
ファンゲルドという名のその青年とは学園の闘技場で出会い、幾度となくニナは組み手の相手をしてもらっていた。
「ふむ。
そうすると、そのやる気なし君をその気にさせた、何かがあったということか。」
「何か・・・人か?経験か?
優秀な師匠に出会ったのは、確かなようだけどね。」
ニナが、自分の拳に目を落とす。
拳闘とは、拳と拳で語り合うこと。
リーズドとの一戦で、ニナは確かに、リーズドの決意を感じ取った。
もっと、強くなりたい。
いや、正しく語るなら、強くなろうとすることを止めない。
ニナから見たリーズドは、素質は上、現時点での戦闘能力は格上以上。
今から追いかけても、追いつくことは決して構わないのかもしれない。
だがそれは、ニナにとって、追いかけないことの理由にはならなかった。
(リーズド君の熱気が、こっちにも伝染したみたいだ。)
元々ニナは、強さに対する執着はさほど強くなかった。
冒険者になったのは、生まれに縛られず、自由に世界を歩きたいがためだった。
だから、他者の評価には無頓着に、長らく気楽な初級冒険者のままでいたのだ。
転機は、エンゲとの再会。
守り、守られるために、ニナは強さを欲した。
(もう、大事なものを失くすのは、イヤだからね・・・)
握り締めた自分の拳を見つめる瞳には、強い光が宿っていた。
純情獣人のリーズド:兄貴、強さってなんだろう?
従兄弟のファンゲルド:強くなれば、分かると思うよ(知らないよ、そんなもの)。
純情獣人のリーズド:さすが兄貴、深いぜ。




