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鉄壁のギルガⅣ ~リンゴール戦記Ⅱ~  作者: 金剛マエストロ
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1 ~鉄壁~

お久しぶりの鉄壁メンバ登場です(ただし、ビスト先生除く)。

冒険者パーティとしては、かなりバランスが良くなってきました。

(なるほど、構成としては悪くない。)

 前衛は、盾持ちの戦士と無手の闘士。

 その後ろに、援護の弓士と魔法使い。

 最後尾の神官が、戦況全体を眺めつつ、適宜防御と治癒を行う。

(しかし、乱戦になった場合はどうかな?)

 机上の想定なぞ、現実はいとも簡単に(くつがえ)し得る。

 前面に戦力を集中して先手を取っても、敵がいつも同じ方向からやってくるとは限らない。

 案の定(あんのじょう)、後方から不意に出現した黒い影を、神官は慌てもせずに錫杖(しゃくじょう)で受け流す。

 ヒュンと、空を裂くような風切り音とともに、黒い影に矢が突き刺さる。

 程なく、戦士の盾が神官の姿を隠していた。

(さすがはエルフと言うところか。

 前衛の引きも速い。)

 戦士が下がった一方で、弓士が少し前に出ている。

(挟撃に持ち込まれたという意味では悪手だが・・・)

 杞憂の念は、闘士の拳によって打ち砕かれた。

 圧倒的なまでの打撃により、程なく戦いは終息した。

 勝利の余韻に浸ることもなく、油断なく周囲をうかがう冒険者パーティ一行と、大地に転がるオークの(むくろ)が十体余り。

 長耳に片手を添えて、しばし耳を澄ませるような仕草をしていた弓士のエルフが、長弓を皮鎧の背中の定位置に戻した。

「うん、敵意を持っている生き物は、周囲にはいないようだ。」

 耳障りの良い、穏やかな声音(こわね)のエルフに、

「逃げる足音も聞こえないし、どうやら、流れオークだったようだね。」

 地面に耳をつけていた闘士のドワーフが、起き上がって髪に付いた土を払う。

「強い魔力を持つ生き物もいないようです。」

 神官の少女が、錫杖の表面を神官服の裾で磨きながら近づいてくる。

「結局、出番なしね。」

 魔法使いの少女が、ボソリと呟くように言った。

「目的地に着く前から総力戦に至らなかったことを、まずは喜びましょう。」

 盾士の少年が穏やかな笑みを向けると、

「そりゃそうね。

 今回は、ビスト先生もいないことだし。」

 闘士の言葉に肩を竦める魔法使いの少女の足元で、ニャアと、のんびりした返事があった。



 パチパチと、薪が爆ぜる。

 それとともに、じゅうじゅうといい音をたてつつ、香ばしい匂いが立ち上る。

 ともすれば嗅覚に集中しがちな気持ちをグッと堪えつつ、ゴドーは焚き火を囲む面々に意識を向けた。

「なんだいシャーナ、全然食が進まないようだね。

 そんなことじゃ、いい女にはなれないよ!」

 焼き具合には無頓着に、次から次へと串刺し肉を口に運ぶのは、闘士のニナだ。

「仕方ないですよ、ニナさん。

 オーク退治の後なんですもの。

 いくら猪肉だって言っても、オークの顔がチラついてしまうのは、無理もありません。」

 神官のリーリアは、手つきこそニナよりは上品だが、食欲は負けず劣らずというところのようだ。

「無理強いはしませんが、空腹では動きが鈍ります。

 スープぐらいは、しっかり飲んでおいた方がいいと思いますよ。」

 そう言って小ぶりな椀を魔法使いのシャーナに手渡したのは、盾士のギルガだ。

「そんなこと、言われなくてもわかってる。」

 文句を言いつつ、素直に椀を受け取るシャーナに、

「魔法使いって言っても、結局、冒険者は体力勝負だからね。

 食べられる時には、ちゃんと食べておかないと。」

 弓士のエンゲは、肉食の女性達よりもずっと優雅な仕草で肉を口に運んでいる。

 しばしシャーナがスープを口に運ぶ様子を見守っていたギルガが、ようやく自分の肉に手を付け始めた。

「ゴドーさんは、肉よりもお酒って感じですか?」

 不意にリーリアに話しかけられ、ゴドーは慌てて口の中の肉を、喉の奥に飲み込んだ。

「あ、いや、まぁ、街にいる時はそうだが、こんな森の中ではな。」

 そう言って見上げるゴドーの瞳には、無数の星の輝きが映っている。

「フィノは、ここに危険はないって言ってるわ。」

 シャーナの背中で丸まっていた炎猫のフィノが、うーんと伸びをしてから、ニャーオと声を上げた。

「君の相棒のことを信頼していないわけではないが、まぁ、自分自身の、冒険者としての気構えとでも言うところかな。」

 ともすれば失念しがちなことではあるが、少なくとも倍以上の年齢のニナとエンゲの前で語る言葉としては、少し気恥ずかしいゴドーだった。

「確かに。

 森の中だと、何が起こるかわかりませんものね。」

 うんうんと、頷くリーリア。

「この辺って、強い魔物とか、いたっけ?」

 小首を傾げるシャーナだが、

「敢えて言えば、魔狼族のなわばりではあるけどね。」

 そう言いいつつ、エンゲは腰に下げていた小さな麻の袋を持ち上げつつ、

「ウルガからもらったお守りだけど・・・」

「それって、本当に効き目ある?」

「確かに。

 現に、オークには効果はなかったみたいだしね。」

「中身はなんなの?」

 胡散臭(うさんくさ)げな表情をしてみせるシャーナだが、そう言う彼女の杖にも、同じものが結わえ付けられている。

「少し前に、ウルガの抜け毛取りを手伝ったんだ。

 その時出た毛を丸めて、中に詰め込んでいるのさ。」

「えっ?そうなの?

 気持ち悪くない?」

 あからさまに嫌な顔をするシャーナだが、

「エルフにとって、狼は森の友さ。

 それに魔狼の場合、匂いそのものは大したことはなくて、強い魔力を帯びているのが特徴なんだ。」

「その割には、フィノは全然嫌がらないよね。」

「犬と猫って、あまり仲が良い印象はないけど、(たま)さか相性の問題なのかな?」

 そう言って差し出したエンゲの指先を、フィノは小さな舌でペロリと舐めた。

 シャーナの記憶の中の猫の姿を模したフィノだったが、ざらついた舌の感触までも忠実に再現されていた。

「この子って、オス?メス?」

 ニナが、焚き火の燃えさしをフィノの頭上でクルクル廻す。

「そういう言い方、好きじゃないけど・・・」

 他意がないことは分かりきっているから、シャーナはニナをひと睨みするだけで、腕を組んで考え込む。

(大元はおばあちゃん猫だったと思うんだけど・・・そう言えば、敢えて確認したことはなかったな。)

 フィノと同じように、何となく寂しい時には、いつの間にか近くにいてくれて、程よく落ち着いた頃には姿を消しているという具合だった。

 添い寝してくれた時もあったけれども、シャーナが起きた時には、いつもどこかに行ってしまっていた。

(もうちょっと、撫でたりしてあげとけば良かったな。)

 思い出に沈んだ表情のシャーナを気遣っているのか、ニナのちょっかいには一瞥をくれただけで、フィノはシャーナの懐に丸くなって、ゴロゴロと喉を鳴らした。

残念エルフのエンゲ:ウルガの名前が出てますけど、このお話では出番なしです。

天然神官のリーリア:ウルガさんのお話が読みたい方は、『デラとアルフのドラゴン退治』をどうぞ。

残念エルフのエンゲ:(うわぁ、あからさまな宣伝だぁ。)

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