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鉄壁のギルガⅣ ~リンゴール戦記Ⅱ~  作者: 金剛マエストロ
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16 ~決意~

シャーナ、デラ、ジジの三人娘が自由落下して・・・

(まだ、生きてる?)

 視界いっぱいに迫っていた地面が一転、青い空に変わっていた。

 ツンと、牧草の香りが鼻をつく。

 起き上がろうとして、自分の身体の後ろ半分が、地面にめり込んでいるのに気がついた。

 手をつこうとして、その柔らかい感触に思わず目をやると、

「ほら、全然、大丈夫だよ!」

 シャーナの下敷きになり、完全に土の中に埋まっていたデラが、

「ほいっとな!」

 シャーナを抱えた体勢のまま、次の瞬間には立ち上がっている。

「う~む。

 汚れちゃったねぇ。」

 シャーナの全身を()めるように見つめた後、

「仕方ない、水浴びしよう!」

「でも、ここには水なんて・・・」

「落ちてくる時に、川が見えたわ。

 さぁ!早く行こう!」

 シャーナを地面に下ろすとすぐ、駆け出すデラ。

「あ、えっと・・・ジジは?」

 問いかけながら、デラの背中を追いかけるシャーナに、

「ジジはまだ、上にいるよ!」

 デラが指差す方向に視線を向けると、ふわふわと空を漂うジジの、小さな背中が見えた。

「放っておいても、そのうち降りてくるよ!」

 確信に満ちたデラの言いようから、確かにそうなのだろうと思うシャーナだが、それにしても・・・

(二人とも、どこまでも我が道を行くんだ。)

 出掛けに見た、アルフの心配そうな表情は、この状況を懸念(けねん)してのものだったろうか。

 素足のまま、下生えを踏みつけてずんずんと進むデラを、必死に追いかけるシャーナ。

 少しだけ年上のシャーナの方が背が高く、手足も長いはずなのだが、一歩で進む距離がデラの方が長い。

 それでも何とか追いつけているのは、シャーナの足の速さに合わせてくれているからだろう。

 冒険者稼業の中で鍛えられ、同世代の少年少女たちよりはずっと体力のある筈のシャーナではあるが、年少のデラの背中に追いつけない。

 口惜しいと思う一方で、そんなデラが、今までどんな人生を歩んできたのか気になるシャーナだった。



「やぁ~~~ッ!」

 掛け声一閃、崖の上から身を躍らせる、デラ。

「えっ?」

 ほんの数瞬の滞空時間の中で、クルクルと廻ったデラの身体が、まっすぐに水面に突き刺さり、ほとんど川面を荒らすことなく、少し遅れて道ずれになった空気が、泡となって浮かんでくる。

「・・・デラ?」

 不安になって声をかけるシャーナの見つめる水面の遥か下流に、デラは顔を出した。

「おーーい!

 冷たくて、いい気持ちだよーーーッ!」

 快活に手を振るデラだが、シャーナは為す術もなく、オロオロするばかり。

「大丈夫。」

 不意に(ささや)きが耳たぶをくすぐり、トンと、シャーナの背中を、小さな手が押した。

「えっ?」

 宙に浮く、感覚。

 前のめりに回転する途中で、シャーナは、背中を押した手の主の姿を見た。

(ジジ?)

 慈愛に満ちた幼子の眼差しに、悪戯(いたずら)っぽい光が宿っていた。

 ジジに悪気はない筈だが、何しろシャーナは、生まれてこの方、泳いだことはないのだ。

 湯浴(ゆあ)みどころか、行水(ぎょうずい)すら滅多にしないシャーナだった。

 ドボンと音をたてて沈んだ瞬間、水が入り込んだ鼻が、ツンと痛んだ。

 思わず口を開けたら、ゴボゴボと音がして水を飲み込んでしまう。

 視界は不明瞭で、どっちが水面か分からない。

 手足は虚しく水を掻き、意識が急速に混濁を深め・・・

「げほッ、ごはッ!」

 喉の奥から勢い良く水を吐き出すと同時に、混濁は霧散した。

 逆さまに抱えられ、上下に振られているのだと認識した次の瞬間には、川原に横たえられていた。

「大丈夫だよ、ジジ。

 そんなに簡単に、死にはしないよ。」

 デラの話し声が、すぐ間近に聞こえてくる。

 目蓋(まぶた)を上げると、心配そうなジジの瞳が、自分を見つめていた。

「ほら、目を覚ましたよ。」

 頬に何か、温かいものが触れている。

 それがデラの両手で、頭の下にあるのがデラの膝枕だということに気がつくまでに数瞬。

 とてもとても心地よい温もりが、シャーナの喉や鼻の痛みを和らげてゆく。

 ああ、このまま、いつまでも身を委ねていたいような・・・

 背中に当たる川原の石はゴツゴツして堅かったけど、陽光で程よく暖められている。

 心地よい疲労もあって、シャーナの意識は、心地いいまどろみの中へ沈みかけ・・・

 きゅるる~と鳴ったのは、シャーナのお腹だったのか、あるいは他の誰かなのか。

「おっ!

 お腹が空いたの合図だッ!」

 勢い良くデラが立ち上がったので、シャーナが吹き飛ばされる。

 それを柔らかく受け止めてくれたのは、ジジだった。

「あ、ありがとう。」

 お礼を口にした後で、そう言えば水の中に突き落としたのが目前の幼い子供だったことを思い出す。

 おそらく、いやまったく、シャーナを害しようとする意図はなかったのだろう。

 そして、もしもシャーナが命に関わる怪我などすれば、瞬時にデラが直してくれただろう。

 とは言え、死にそうになる程の苦痛は、これ以上は味わいたくはない。

 見上げると、ついさっきまで見えていたリザ・・・いや、リグザールの姿はない。

 つまり、リンゴールに戻るための帰り道は、デラ次第ということだ。

 と、言うことは。

 自分の身は、自分の力で守るしかない。

 年下の少女の誘いに、ちょっとした散歩に付き合っただけの筈だったのに、いったい何が悪くて、こんな事態に陥ったのか。

 いや、後悔するのは、生き延びて、リンゴールの街に戻ってからでいいだろう。

 とにかく今は、どんな手段を使っても、生きて帰らねばならない。

 シャーナの悲壮な決意とは裏腹に、見上げる青空は、どこまでも澄み渡っていた。

毒舌魔法使いのシャーナ:踏んだり蹴ったり、いいところなしだわッ!

天真爛漫のデラ:誰も、踏んだり蹴ったりしてないよ!むしろ、下敷きになったのはわたしだよッ!

毒舌魔法使いのシャーナ:それは・・・言葉の綾ってものよッ!

天真爛漫のデラ:あんまり怒るとお腹すくよ!

毒舌魔法使いのシャーナ:むっきーッ!

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