15 ~落下~
武闘大会出場のため、各自鍛錬を開始する鉄壁パーティ一行だが・・・
全部で十五回連載の予定でしたが、三十三回に変更します。
「いやぁああああああああああッ!」
十数年の人生の中で、こんなに喉を酷使した記憶のない、シャーナだった。
恐ろしい速度で、雲が後方に流れてゆく。
ゴーゴーという風切り音が、耳孔内を荒れ狂う。
手がかりになる物をまさぐる腕は空を切り。
踏みしめる大地を求める脚は、虚しく大気を掻き分ける。
心臓はバクバクと脈打ち、頭の中が真っ白になっている。
とめどなく噴き出す涙で、前も良く見えていない。
狭窄し、グルグルと廻る視界の端を、二つの影が過ぎってゆく。
理性はそれが、デラとジジの名を持つ者と認識していたが、感情がそれを受け付けない。
なぜなら・・・
「う~む。解せぬ。
なぜに、さかしまになるのだろう?」
頭を下に、空中で胡坐をかきつつ、落ちてゆくデラ。
もう一方のジジはと言うと、両手を広げ、まるで羽毛布団の上に寝そべっているかのように、穏やかな表情を浮かべている。
涙と鼻水と涎を盛大に撒き散らしながら、キリキリ舞いをしているシャーナ。
そして、幼き者たちが、急速に大地に向かって落ちてゆくのを遥か上空から見守る、優しい瞳。
(もうダメ。
わたし、ここで死ぬんだ。)
シャーナの脳裏に、懐かしい光景が浮かんでは消える。
(これって、もしかして走馬灯・・・)
輝く天使が、シャーナに向かって、そっと手を差し延べてきて・・・
「うわーっ!
すごい顔だねぇ。」
人懐っこい笑みを浮かべた天使が、シャーナの両手をしっかり掴む。
クルクル廻っていたシャーナの姿勢は安定し、広大な大地が視界の半分を占めていることに今さら気づく。
「防御魔法で、身体の廻りに薄い空気の膜をつくるんだよ!」
天使=デラがそう言うと、不意に呼吸が楽になった。
暴力的だった空気の流れが、今はそよ風の如く、シャーナを優しく包み込んでいる。
「これは、デラの力?」
「ううん、シャーナを守っているのは、自分自身の魔力だよ!」
確かに、言われてみれば、自分の身体から放たれた魔力が、シャーナの周囲を緩やかに巡っている。
「もう、自分で操作できるはずだよ!」
デラの手が離れても、魔力の流れは変わらない。
自分の思惑通り、魔力が働いていることが感じられる。
今までも防御魔法は使っていたが、魔力の制御の細やかさや出力が段違いだ。
その上、体表に触れながら魔力が循環しているため、維持のための魔力は極小で済むのがありがたい。
冷静に状況把握できるようになった一方で、すごい勢いで地面が近づいてくるのが目に入る。
「どうやって、地面に下りるの?」
尋ねるシャーナに、デラは邪気のない微笑を返し、
「このまま、ドーンって!」
「・・・えっ?」
「大丈夫。
えっと、まずは『身体強化』、それに『身体強化』を重ね掛けして・・・」
「え、いや、そうじゃなくて・・・」
「急がないと、間に合わなくなるよ!」
デラがそう言う間に、低い雲を一瞬で突き抜けた。
「『身体強化』って、どうすればいいの?」
「あ、もう、間に合わないかな?」
「え?う、ウソでしょ?」
「ウソなんかついてないよ!
ほら、馬が美味しそうに草を食べてるのが見えるよ!」
「あ、あ、あ、いやぁああああああああああああッ!」
シャーナの悲鳴が、ドーンという、地面が爆発するような音に呑み込まれた。
天真爛漫のデラ:すんごい顔だったね~。
毒舌魔法使いのシャーナ:・・・・・・
天真爛漫のデラ:空飛ぶのって、気持ちいいよね。