14 ~転機~
マキネ村の依頼は円満に解決したが・・・
辺境の村にデーモン現るとの情報は、近隣地域に、少なからぬ影響を及ぼした。
リンゴールからの定期巡回は倍の頻度となり、街道には拠点ごとに冒険者が常駐することになった。
そして、デーモン配下の魔物たちを殲滅せしめた冒険者パーティは・・・
「取り合えず、今回の報酬だ。」
ゴドーが、テーブルの上に、大き目の皮袋を一つ置いた。
ゴトンとテーブルを震わせる重量感から、中身の多さを想像させた。
「元々の調査依頼は二パーティ分で小金貨十枚だった。
しかし、それに魔物の討伐が加わって、合計二百六十枚だ。
依頼を受けたのは俺だから、分配方法は俺に一任されているわけなんだが・・・」
「デーモンが小金貨百枚、スケルトンロードが小金貨五十枚、スケルトンは全部まとめて小金貨百枚って感じかな?」
エンゲの想像通りだったらしく、ゴドーは軽く頷いた。
「僕はゴドーさんにお任せしていいと思っているけど、みなさんはどうです?」
ギルガの問いかけに、
「わたしはそれで構いませんよ。」
と、リーリア。
「わたしも、いい。」
と、これはシャーナ。
「報酬は多いに越したことはないけど、身の丈に合わない富は、身を滅ぼすと言うしね。
ボクもゴドーさんに任せるよ。」
「あたしは、うまい飯が食えて、屋根のある場所で眠れれば、それで全然構わないさ。」
「お前ら、本当に欲がないな。」
エンゲとニナの返答を聞いて、苦笑いのゴドー。
今でこそ上級冒険者として、それ相応の生活ができているゴドーだったが、駆け出し冒険者の頃から中級に上がるまでは、決して余裕のある経済状態ではなかった。
そういう意味では、金払いが良く、いろいろ便宜を図ってくれるリンゴールの冒険者組合は、ありがたい存在だった。
だからこそゴドーは、敢えてパーティを組まず、経験の浅い冒険者の補佐をしたり、普通の冒険者は受けたがらない(面倒で安い)依頼を受けるなどしてきたのだった。
律儀に冒険者組合への恩返しを続けるゴドーを、冒険者仲間は変わり者と称していたが、実情を知って蔑むような者は、ほとんどいなかった。
上級を超えていると言われているゴドーが、背後を守っていてくれるという安心感。
仕事をえり好みしないため、ゴドーの知識は幅広く、大概の状況に適切に対処し得る。
それ故に仕事は途切れず、大怪我をするようなこともなく、これまで無事にやってこれたのだ。
『鉄壁』パーティの面々の、信頼に満ちた視線を受けつつ、ゴドーは皮袋の中から小さな皮袋を取り出すと、一人に一つずつ配分してゆく。
『鉄壁』メンバー五名に続いて自分の前に一つ、そして・・・
「えっ?
わたしも?」
びっくり眼のクーナに、
「報酬は、七人で山分けだ。
それで、構わないよな?」
『鉄壁』メンバの中に、不満顔の者が一人もいないことを見て取って、クーナもようやく皮袋を手に取った。
ポンポンと、お手玉するようにして、その重さを確認する。
「それじゃ、半端な一枚は、ここの支払いに使わせて貰おう。
足りなければ俺が出すから、何を頼んでも構わないぞ!」
もちろん、ゴドーのその言葉に、遠慮する者は一人もいなかった。
「実はもう一つ、皆に伝えることがあるんだが・・・」
食欲を満たすことに集中した喧騒が一頻り過ぎ去った後、年長組はアルコールの入った飲み物を、年少組は果物を手に取り、まったりした時間を過ごしていた。
「?」
六対の視線を受けつつ、
「遥かに格上の魔物を討伐した実績を見込まれて、全員、昇格が検討されているそうだ。」
「ということは、僕らが上級冒険者で、ゴドーさんが特級冒険者ということに?」
「ああ。
それに加えて、特例で、クーナも特級冒険者の資格ありとのことだ。」
「えっ?クーナも?」
びっくり顔のエンゲに、
「まぁ、あれだけの技量の持ち主を、遊ばせておく理由はないわな。」
相当杯を重ねているニナだが、その表情は普段とあまり変わりない。
「でも、検討ってことは・・・」
「ああ、今の時点では、昇格の可能性があるというだけだ。
昇格を実現するためには、条件を一つ、クリアする必要がある。」
「条件?」
「程なく開催される武闘大会にて、相応の力を示すこと・・・だそうだ。」
「武闘大会?」
「相応の力を示す・・・ふむふむ。」
怪訝げなエンゲに対して、ニナは随分と興味深げだ。
「えっと、それは、わたしもですか?」
手を挙げて問いかけたのは、リーリア。
「確かに。
相手は魔物ではなく、人間だからな。
依頼案件とは、勝手が違う。
とは言え、魔法攻撃はともかく、棒術とかも、それなりに鍛錬を積んではいるんだろう?」
「まぁ、それはそうですけど・・・」
「武闘大会は、三つの部門に分かれていたはずです。
無手の拳闘部門、武具ありの剣術部門、魔法主体の魔法部門。
ニナさんが拳闘部門、シャーナさんが魔法部門で、他は全員剣術部門ということになりますかね。」
「わたしが、剣術・・・」
呆然とするリーリアの肩を、ポンと叩いたニナが、
「別に、殺し合いをするわけじゃないんだからさ。
ヤバそうなら、降参しても構わないんだから。
それに・・・」
ニナは、自分の胸をドンと叩いて、
「全員が上級に昇格する必要もないだろうさ。
そもそも、ウチらは昇格するのが目的で、冒険者稼業をやってるわけじゃないだろう?」
「それはそうなんですけど、みんなが上級に上がってしまったら、自分だけ中級のままなんて、なんか癪じゃないですか。」
「リーリアって、意外と負けず嫌い。」
「負けず嫌いは、いい戦士の条件さ。」
「試合の勝ち負けはともかく、客観的に実力を計る、いい機会です。
魔物との戦いでは分からない、弱点や改善点に気がつくことができるかもしれません。
幸い、懐具合も悪くありませんから、当面はあまり依頼を受けないで、武闘大会のための鍛錬に注力してみませんか?」
「うん、まぁ、ギルガさんがそう言うんでしたら。」
仕方ないなという感じで、リーリアはようやく承諾したのだった。
パートⅣはこれで完了し、すぐにパートⅤを開始の予定です。
ただ、パートⅤはまだ書き終わっていないので、もしかすると少し間が空くかも。
⇒という予定でしたが、ⅣとⅤは連続した話なので統合します。