13 ~告白~
戦い済んで日が暮れて・・・
マキネ村の調査依頼は完了した。
何人かの村人が命を失ったものの、村を襲った魔物の大群は掃討された。
四百体を超えるスケルトンに、スケルトンロード、その召喚主であるデーモン。
スケルトンは上級、スケルトンロードは特級の魔物であり、デーモンは特級以上の分類となっている。
通常、冒険者組合で受ける依頼は特級までで、それ以上は都市や国が総力を挙げて対応する案件だ。
それを、ほとんど中級で構成され、上級冒険者をリーダーとした小規模のパーティで撃退した。
闇属性の魔物に対し、光属性、火属性魔力を有する魔法使いのいる冒険者パーティという相性の良さ、中級、上級ながら、実際にはその上位に匹敵する実力を持っていたこと、そして何より、製作者より託され、相応しい持ち主にめぐり合えた長剣の存在が為しえた結果と言えた。
クーナは穏やかな表情で、周囲の喧騒に耳を傾けていた。
午前中に死者の埋葬や破壊された建物の片づけを概ね終え、昼過ぎからは亡者の慰めと生者の祝いを兼ねた酒盛りが始まっていた。
「昨日の闘いが嘘みたいだな。」
独り言のように呟くと、ゴドーはクーナの傍らに腰を下ろした。
あぐらをかいた膝の上に、鞘に入った剣を乗せているクーナから、返事らしい返事はない。
「見張りはギルガに交代した。
村の周囲に巡らせた魔物避けの呪いは、一週間程度は効き目が続くらしい。」
ゴドーの言葉が聞こえているのか、いないのか。
「気が高ぶって眠れないのかもしれないが、休める時には、休んでおいた方がいい。」
ゴドーの落ち着いた言いようは、仲間に対する物言いと言うより、保護者のようだ。
「そうね。」
それだけ言って、クーナはその場で横になった。
長剣を懐に抱くようにして、体ごとゴドーの方に向いている。
ポンポンと、地面を叩くようにして、
「そういうゴドーさんこそ、ほとんど休憩してないでしょ。」
クーナの仕草が意味するところに気がついたゴドーが、一瞬、ビクリと体を震わせたが、
「そんなとこで覗いてないで、顔を見せたらどうだ?」
ガサリと音がして、草むらの中から立ち上がったのは、エルフ男とドワーフ女、そして魔法使い少女の三人組だった。
「だから言ったじゃないか、どうせ見つかるって!」
「何を言ってるんだい、ニナ。
そもそも、一番乗り気だったのは君じゃないか!」
「それじゃ、賭けは無効ね。」
「賭け?」
クーナの質問に、
「ゴドーさんがクーナを口説いて、モノにできるかどうかって。」
シャーナの言葉に、クーナは真顔で、
「それで、シャーナはどっちに賭けたの?」
「わたしは賭けてない。
二人の話を聞いてただけ。」
「いや、その・・・」
「えっと・・・」
言葉に詰まる、エンゲとニナ。
クーナはしばし、胡乱げな眼差しを二人に向けていたが、すぐに表情を和らげると、
「口説き落とされるかどうかはさておき、みんなが来てくれて、助かったのは事実ね。」
背筋を伸ばしたクーナが、エンゲ、ニナ、シャーナ、そしてゴドーの順に顔を向け、
「村を助けてくれてありがとう。
この恩は、一生忘れないわ。」
頭を下げる、クーナ。
「あ、いや、俺は組合からの依頼を受けただけだから・・・」
狼狽のゴドーに、ニナがあからさまなため息をついてみせて、
「ゴドーさん、悪いけど、そこはもうちょっと、格好つけてもいいところじゃないかい?
あんた、手本を見せてやりなよ。」
エンゲの方に顎をしゃくってみせると、ずいと前に出たエンゲが、クーナの前に跪き、クーナの存外に小作りな手を取りつつ、
「男は、愛する女性のためならば、すべてをかけるものです。
あなたをお救いするためならば、たとえ火の中水の中。
この命を散らしたとしても、決して後悔などいたしません。」
まっすぐに、クーナの瞳を見つめるエンゲ。
おおっと、感心げなニナ。
いつもはエンゲに冷淡なシャーナでさえ、ほんのり頬を紅く染めているようだ。
肝心なクーナはと言うと、
「たとえお芝居でも、そんな言われ方をされるのは悪くないわね。」
満更でもないようだ。
そして、ゴドーは。
「たとえ天と地がひっくり返っても、俺には無理だな。」
ひどく悔しげなその言いように、堪らずクーナは吹き出した。
あはははははは・・・と、ひとしきり朗らかな声を上げた後、すぐに真顔に戻ると、
「言葉にしなくても、大丈夫。
気持ちはありがたく受け取っておきます。」
そう言いつつ、極上の笑みを浮かべたクーナだった。
恋する中年のゴドー:どうしてあんな風に、自然に口説き文句が出るのかな?
残念エルフのエンゲ:すべての女性に、ボクは恋しているからね。
恋する中年のゴドー:(唖然)