12 ~魔剣~
戦い終わって・・・
わぁっと、耳を打つ声に、クーナは我に返った。
音源の方向に頭を巡らせると、村人たちが教会の前に集まってきていた。
「えっ?ええっ?」
状況が分からず、あたふたするクーナに、
「村の人たちの多くは、自分の家の地下の、隠し部屋に篭っていたようですね。
残念ながら、逃げ遅れて魔物の餌食になった方も、少数いらっしゃったようですが。」
落ち着いた声で話しかけてきたのは、『鉄壁』リーダーの少年=ギルガだった。
もっとも、年齢的には少年であっても、鍛えられた体躯や穏やかな物腰は、未熟さとは無縁に思えた。
クーナにしても、冒険者組合の依頼窓口担当であるが故に、出入りの冒険者の個人情報を一通り記憶しているからこそ、ギルガが冒険者になって日が浅いということを認識しているのであって、何の予備知識もなければ、ある程度経験を積んだ冒険者パーティのリーダーにしか思えなかったろう。
改めて村人たちの表情を眺めてみると、長年の隣人を失った悲しみと、あれ程大量の魔物の発生にも関わらず生き延びたことを喜ぶのとが、半々という感じだ。
あっけない程に命が消えてゆく一方で、辺境の地に住む人々の、生き延びることへの執念は強烈だ。
「隠し部屋って・・・そんなこと、聞いてなかったわ。」
ため息がちなクーナの物言いに、
「おおかた、教会の造りを参考にしたんだろう。
確かに最近、魔物の発生の頻度が増えているような気がするしな。
身近に手本があるのなら、難しい工事ではないだろうし。」
そう言いながらクーナを見やったゴドーの視線が、座り込んでいるクーナの傍らに突き立てられている剣に落ちた。
「デーモンが本性を現した時には、ここが年貢の納め時かなと思ったが・・・」
「クーナさんとの相性が良くて助かりました。
デーモンは、魔力耐性が高いと聞いてますから、ウチのメンバーだけだったら、どうしようもなかったかもしれません。」
「確かに。
シャーナ嬢ちゃんやリーリア嬢ちゃんでは、扱いきれんだろうしな。」
「??」
不審げな表情のクーナに、
「その剣は、ある方から、僕が預かっていたものではありますが、まだ、所有者が決まってないんです。
その方の話によると、上級以上の魔術士でギリギリ、できれば特級レベルの魔力持ちでないと扱いきれないということでした。」
「その上、剣を振り回すには、剣士としての技量も必要だしな。」
「ええ。
でも、これでようやく、この剣の持ち主は決まったようです。」
そう言うとギルガは、素晴らしく晴れやかな表情をクーナに向けた。
一瞬、話の流れを見失いかけたクーナだったが、
「持ち主って、わたしのこと?」
胡乱げな顔つきのクーナの心情を分かっているのかいないのか、
「製作者自身が、じゃじゃ馬と称した代物です。
まさか、女性に引き渡すことになるとは思っていませんでしたが、結果的には、落ち着くべきところに収まったというところですかね。」
「あの・・・なんか、わたしの預かり知らぬところで、いろいろ決まってるみたいなんだけど・・・」
「あ、いいえ。
決して、強制するわけではありません。
自分では持て余すからと言って、どこかの誰かに押し付けてしまおうと思ってたなんて、口が裂けても言いませんとも。
ただ・・・」
「ただ?」
「恐らく、剣に馴染めば馴染む程、手放せなくはなるでしょうね。」
そう言ったギルガの笑みが、諦観の気配を帯びていたことに、果たしてクーナは気がついていただろうか?
熱血剣士のクーナ:まさかまた、剣を手に取ることになるとはな。
毒舌魔法使いのシャーナ:・・・
熱血剣士のクーナ:?
毒舌魔法使いのシャーナ:(寝床にまで持ち込むのは、なんか違うと思う。)