11 ~決着~
クーナvsアークデーモンの戦いの結果は・・・
クーナが握った長剣が、深々とアークデーモンの胸を穿ってゆく。
内側から黄金色の光を放ちつつ、輪郭を朧にしてゆくアークデーモンが、クーナの手を吐き出すと、
「ふむ。残念ながら、時間切れか。
しかし、お前の血肉の味は覚えた。
程なく、あい見える時が来よう。
その折はまた、思う存分に殺し合おうぞ・・・」
愉悦と邪心に満ちた笑みを浮かべつつ、幻のように、アークデーモンは大気に溶けていった。
「・・・ふぅ。」
剣を地面に突き立て、膝を付くクーナ。
すぐに振り返り、ゴドーの姿を探す・・・と、
「まったく、なんて威力だ。」
掲げた小ぶりの盾に空いた穴から、ゴドーのはしばみ色の瞳が覗いていた。
「怪我はない?」
「他人の心配よりも、自分の方を気にかけろよって、言いたいね。」
存外に真顔のゴドーが、アークデーモンに齧られていた方の手を取る。
魔力で身体強化はされていたものの、手首から先は、流れ出る自分の血で、紅く染まっている。
触れているゴドーの手を伝って、穏やかな魔力が流れ込んでくる。
「血止め程度しかできないが、痛みも少しは緩和される筈だ。」
「そうだ!教会は?」
頭を巡らせるクーナの瞳に、『鉄壁』パーティ一行と、隠し部屋に潜んでいた子供たちが、扉を失った教会の入り口から出てくる姿が映し出される。
「周囲には、魔物の気配は感じられませんね。」
一番小さい子を肩車しながら歩いてくるのは、長身で細身のエルフの青年=エンゲだ。
長耳の一族の特徴に倣って、際立った美貌の持ち主であるけれども、クーナにしてみれば、同じパーティに属するドワーフと懇ろであるらしいということが印象的だ。
「あの消え具合からすると、どうやら本召喚されたわけじゃ、ないようだね。
悪魔族特有の嫌な匂いも残ってないし。」
両の腕に一人ずつ子供をぶら下げているドワーフ女性=ニナだが、子供らの重さはまったく意に介していないようだ。
「嫌な匂い?フィノはどう?
デーモン以外の、魔物もいない?」
二人の後からトコトコと小走りについてくるのは、魔術師の少女=シャーナだ。
フィノと呼ばれている猫型の魔物は補助要員と認識していたクーナだが、シャーナと連携して強力な魔法を行使できるらしい。
シャーナ一人だと中級の上位程度の魔力しかないはずだが、フィノとコンビを組んだ時の魔力は、もしかすると上級以上かもしれない。
ふみゃぁと、呑気な返事を返すフィノに、
「村全体に広げた結界内には、魔物は検知されていませんね。
まぁ、もしもまた、魔物が現れたとしても、フィノさんが退治してくれるでしょう、ね?」
声をかけたのは、神官服の少女=リーリアだ。
返答の代わりにフィノはリーリアの肩に駆け上り、リーリアの耳元で、にゃおんと鳴いた。
「うふふっ。
少し、くすぐったいですよ、フィノさん。」
リーリアはそう言いつつ、クーナに歩み寄る。
「ふむふむ。
ゴドーさんって、治癒魔法も使えるんですね。」
「いやいや、本職には敵わないさ。」
「でも、出血も止まってるし、応急処置なら、これでもう、十分だと思いますよ。」
「あ、あぁ、そうだな。」
名残惜しげに手を離すゴドーに、クーナも少し残念と感じていた。
ゴドーから受け取っていた、温かみのある魔力の流れは、クーナにとっては、嫌な感じがするものではなかったから。
(また、生き延びてしまったのか・・・)
見た目は生々しいが、血も固まり、痛みもだいぶ緩和されている自分の手の平に目を落としつつ、クーナは一人ごちる。
(こんなわたしでも、まだ生きて、何事かを為せと言うことなのか・・・)
見上げた空に輝く星々は、何も応えてはくれなかった。
残念エルフのエンゲ:組合の受付嬢がみんな強かったら・・・
毒舌魔法使いのシャーナ:強かったら?
残念エルフのエンゲ:それはそれで悪くはないかな。ふふッ。
毒舌魔法使いのシャーナ:うわぁ。(ドン引き)