9 ~想い~
デーモンの出現に、鉄壁メンバは・・・
(この気配はッ?)
教会の中から膨れ上がる、強大な二つの魔力。
それは、魔力感知を得意としないギルガでさえ、圧倒的と感じられる程に。
「クーナさんと・・・デーモン?」
声を震わせながらの、エンゲの呟き。
「なんだい、そりゃ。
災害級の魔物じゃないか!」
さしものニナも、竦んでいるのかと思いきや、
「相手にとって、不足なしってね!」
両の手甲を打ち付け、しっかりと装着し直している。
その瞳の輝きには、一欠けらの迷いもない。
一方、あからさまに怯え顔のエンゲではあったが、その手は矢筒から矢を抜き、いつでも射ち出せる体勢だ。
改めて臨戦態勢を整えた二人を左右に確認し、ギルガは振り向きもせず、
「リーリア、シャーナ、準備はできてますね?」
「ええ、いつでも大丈夫です!」
「フィノ!」
全身の毛を逆立てたままのフィノが、シャーナの頭上に浮いている。
時おり溢れた魔力が、火花になって周囲に弾けるが、火炎魔法使いのシャーナにとっては、炎は身体の一部であった。
「あっちちッ!」
種族的に炎魔法を不得手とするエンゲが過敏に反応するものの、実質的な被害は皆無な筈だ。
「フゥーーーッッッ!」
身体を膨らませ、周囲に炎を巡らせるフィノ。
フィノと絆を結んでいるシャーナもまた、その煽りを受けて魂を高ぶらせている。
萎縮とは真反対の状況に、ギルガはリーリアに振り返り、
「申し訳ありませんが、シャーナのこと、よろしくお願いします。」
「まぁ、そういう立ち位置ですしね。
何とか、やってみます。」
苦笑交じりのリーリアだが、恐らく任せて大丈夫だろう。
自分たちの非力を痛感したあの日から、粛々と積み上げられてきたリーリアへの信頼感は、たとえ圧倒的に格上の魔物を前にしても、揺るぎない。
もっとも、常日頃、リザやウルガ、アルフと言った面々に鍛錬の相手をしてもらっているギルガたちにしてみれば、強さの限界が見えるという意味では、デーモンの方がまだ、分かりやすい。
同じ人族のアルフはさておき、亜竜の化身たるリザなどは、ギルガ達を相手に、本気の片鱗を見せたことすら、ほとんどないのだから。
(亜竜は天候を操作し、地形を変え、大国を丸ごと滅ぼす程の力を持つと言う。
そんな亜竜に師事を受けている僕らが、何もしないで逃げ出すことなど、できない。)
相手の強さを冷静に推し量る一方で、ギルガの裡には、そんな強者を相手にして、自分の力がどこまで通用するのか、試してみたいとも思っている。
ニナなどに言わせれば、『強い相手とやりあいたいってのは、冒険者の性みたいなもんさ。』ということになるだろうか。
そんな、自分の中の、野生的、あるいは暴力的一面があることを、今のギルガは否定しない。
そもそも、パーティメンバは、一人残らずやる気満々という面持ちなのだ。
まぁ、長弓の得意なエルフだけは、例外かもしれないのだが、少なくともニナの闘志が失われていないうちは、エンゲだけ尻尾を巻いて逃げ出すことはないだろう。
エルフのクセに人当たりが良く、積極的に他種族(主に女性)と関わりを持とうとする、エンゲ。
ドワーフでありながら、武具ではなく、自身の拳に信頼を重くし、正々堂々とした闘いを好む、ニナ。
火炎魔法に熟達し、『鉄壁』パーティ随一の攻撃力を発揮するシャーナは、火炎ゴーレムであるフィノとは、息の合ったいいコンビだ。
そして、リーリア。
冒険者として、初めて依頼を受けた時から、彼女は供にいた。
信頼のおける仲間であり、パーティの中では守りの要だ。
そう言えば以前、ギルガがリーリアをどう思っているのか、シャーナに訊かれたことがあった。
結局、返事は有耶無耶になってしまったけれども、正直言って、言葉には現わし難い。
敢えて言うなら、友達以上、家族未満というところか。
恋愛感情は・・・特に抱いていないように思える。
女性としての魅力は、それなりにあるとは思うが・・・
(!)
一瞬、深みに入りかけた思念が、瞬時に現実に立ち戻る。
ゴゥンと重い音と供に、教会の正面扉がはじけ飛ぶ。
その中から飛び出したのは・・・
「クーナ!」
教会の中から叫ぶゴドーの声が、ギルガの耳に痛く響いた。
主役をさらうギルガ:鉄壁ガードがあるので、リーリアさんには近づけないんですよ。
毒舌魔法使いのシャーナ:がるるる~
天然神官のリーリア:一応、神官でも結婚はできるんですよ。
主役をさらうギルガ:そうなんですか。でも、僕にはまだ、結婚なんてピンと来ませんね。それに・・・
天然神官のリーリア:それに?
主役をさらうギルガ:なんか、今の状況と、あまり変わり映えしないような・・・
天然神官のリーリア:いつも一緒にいますしね。