序 ~邂逅~
『鉄壁のギルガⅢ』の続きのお話です。
『デラとアルフのドラゴン退治』の裏話でもあります。
とりあえず、全15回の連載予定です。
毎日昼頃の登録予定です。
今回はプロローグなので、少し短めです。
電流が、脳髄を貫いた。
長年、冒険者稼業に関わっているが、実際に電撃魔法の直撃を受けたことはないゴドーであった。
後のことは、まるで夢の中の出来事のようで、細かい事は覚えていない。
まったく現実味がない一方で、普段通りの行動はできていたようだ。
夕刻過ぎ、冒険者組合から常宿への道すがら、不意に我に返った。
瞬時に意識が明瞭になる一方で、気だるい疲労感が、木枷のように、両の手足にまとわり付いている。
若い頃なら、金貨を握り締めて色気のある通りにでも繰り出したところだろうが、今はむしろ、落ち着ける場所でゆったりくつろぎたい。
そういう意味では、賑やかな通りから少し引っ込んだところにある今の宿は、まぁまぁ及第点というところだった。
(クーナと言ったか、いい名前だ。)
脳裏に、黄金の髪と、大きな蒼い瞳が浮かんでくる。
見かけは二十歳そこそこという感じだが、落ち着いた物腰からすると、二十代後半と言うところだろうか。
小柄だが、二の腕の肉付き、腰周りの張り具合などから察するところ、元から事務職志望だったわけではなさそうだ。
冒険者組合が素性の怪しい者を雇うとも思えないが、何やら事情を抱えてリンゴールに流れてきたというところだろうか。
立ち居振る舞いに感じられる気品からすると、貴族か、あるいはその雇い人だったろうか。
小ぶりな紅い唇と、透きとおった白い肌。
小造りな指先が、存外の素早さで羊皮紙の上を奔り、優美な文字を描くのを、魅入られたように見つめてしまっていたゴドーだった。
(よもや色恋沙汰まで至ることはなかろうが、あの姿をひと目見るためだけでも、組合に出入りする理由としては、悪くはないか。)
決して品の良いとは言えない笑みを浮かべつつ、ゴドーは顎の下を、親指の背で掻いた。
心なしか、足取りが軽くなっている。
見慣れた宿の灯りが、ゆるりと視界の中に入ってきていた。
残念エルフのエンゲ:なるほど、これが馴れ初めですか。
毒舌魔法使いのシャーナ:意外と純情。
恋する中年のゴドー:コホン。大人をからかうもんじゃない。