「何も感じ取れずとも、君を感じたい」の没ネタ集
※「何も感じ取れずとも、君のことを感じたい」の番外編です。事前に前作を読むことを推奨します。
前作→https://ncode.syosetu.com/n3100fe/
また、世界観が若干崩壊しています。
それでもよろしい方はどうぞ
「──もちろん!」
「──はい、カット!」
「どうだ?中々良いんじゃないか?」
「そうですねちょっと確認しましょうか。……ヒューイ、どうです?」
「……バッチリ」
「「よっしゃ!」」
「それでは以上を持ちまして、『光の翼~Sランクへの道~』の撮影を終了します。お疲れ様でした!」
ここは俺の家。先程までの緊張感は欠片もなく、皆が騒いでいた。
当然だ。ここ何ヵ月をかけて作っていた映画(ドラマ?そう言えば何なのか聞いてなかったな)の撮影が遂に、終に幕を閉じたのだから。ちなみにほぼノンフィクションである。何故ほぼなのかと言えば、大まかな流れは伝えたものの、台本は外部の奴に依頼したからだ。多少ドラマチックにするために改変されている場所がある。
俺達がSランクになった記念として始まったこの企画がこんなに大変だとは思わなかった。……未来を視なかったのかって?未来なんて分からない方が面白いじゃないか。だからあの時以来、一日より先は視ていない。
「編集に関してはネイス役の子に任せるとして、アタシ達は帰ろうか!」
終盤に出番が全く無かったマレリアがヒューイの腕を掴む。
……結構力入ってるな、あれ。やっぱり暇だったんだろうか。
「あ、マリー。ちょっと待って」
「うん?どうしたの?」
もう帰るのかと思いきや、ヒューイにはまだやることがあったらしい。マーケスに録画記録のコピーを取れるか訊いていた。
「そりゃ勿論出来ますけど……どうするんです?」
「ちょっと、見たいものがある……ほら、ボツになった奴」
「ああ、あれですか」
撮影の中で幾つか没になったシーンがある。純粋にカッコ悪いとか、後から設定が矛盾したとかで発生した物だ。
……大体のシーンが俺のだからあまり掘っくり返して欲しく無いんだが。
「そんなのもあったねぇ……」
「そうだ、良いこと思い付いた!これから皆で没シーンの鑑賞会しましょうよ!」
「……良いかも。何で没なのか、よく分からないのもある」
「そうですね……皆さんこの後に予定は?」
「「「「無い(わ)」」」」
まだ撮影が長引く可能性もあったしな。とは言え、この流れはまさか……
「それでは反省会を兼ねて、没シーン鑑賞を始めます!」
「イエーイ!」
何が「イエーイ!」だ。俺の公開処刑じゃねぇか。……まさかここまでマレリアの計画通りなのか?
「それではまず──出会いの所ですね」
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──ちょっと待て、近づいて来てる。
俺ごと動く鎧を焼くつもりか!?
「ちょ、おま、《魔力強化》!ふんぐぁぁっ!!」
咄嗟に魔力を強化し、魔法の位置を認識する。他の感覚を思い浮かべている暇は無い。
魔法が当たらない場所へ向かって思いっきりジャンプした。
……最後に叫んだのは自分が聞こえてないから意味無かったかもな。
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「さっそく俺じゃねぇか!」
「アンドさん目線の物語ですし、しょうがないんじゃないですか?」
「……で、どこがダメだったの?」
「ここはまず魔法の感覚ってどんなの?って言うのを表現したくて作ったシーンなんです。でもそれをやってるとどうしても説明口調になってしまい、この緊迫したシーンがもったいない終わり方となります。それが嫌だったんで一言、ちょっとした笑いに繋げれるような物に変えました」
「へぇ~、そうだったんだぁ。それで二回も燃やさないといけなかったんだねぇ」
「動く鎧の調達と言い、中々撮るのが大変でしたね」
「……おい、俺が燃やされそうになるのはどうでも良いのかよ」
「どうせ避けれるわよね」
全員が頷く。
「それは共通認識なのか……」
「それじゃ次、いきましょ」
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「あの、えっと、マー君が謝らなくてもぉ……」
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「そう言やこんなのもあったっけか」
「ええ。台本で途中まで僕とヒューイの名前が逆になってたんですよ」
「なあミリー。流石にこの間違いは気付こうぜ」
「言われた通りにやっただけなのにぃ……」
「まあ悪いのは途中まで間違えてた作者ですし。あまり責めるのは止めましょうか」
「次、行くよ?」
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魔王。人類の強大な敵であり、不滅。
何度倒そうとも、周期的に蘇る。しかも記憶を引き継いでいるせいで同じ殺し方が二度と通用しないのだ。
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「ガッツリ変わってるわね」
「実はこの時はまだ魔王が未来観測能力を持っていることになっていなくて、後から撮り直したんですよね」
「あれ……そう、だっけ?」
「色々と撮影で忙しかったからな。撮った順番なんて覚えてなくてもしょうがないだろう」
「と言うかこの時点で台本が完成してないってこの作者は舐めてるんですかね?」
「確かに。クライマックス直前じゃねぇか。」
「話を聞けば『運命』はこの時に閃いて、慌てて伏線の聖女を入れたらしいですよ」
「殆どアポ無しで聖女に出演依頼することになった私の気持ち分かる?」
「おつかれぇ……」
「気持ちが籠ってない!やり直し!」
「えぇ~……」
「喧嘩、ダメ」
「それじゃ、次行くぞー」
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──勘が良い、では済まない話だ。
感覚のスペシャリストたる俺が言うんだから間違いない。
ボードゲームに例えてみようか。『直感』は自分が今打つべき一手が解る。では魔王やっている……そうだな、『未来予知』とでも呼ぶか。『未来予知』では恐らく、次に相手が打つ一手が解るのだろう。もしかしたら二手、三手かも知れない。
とにかく、直感以外の何らかの方法で奴は俺達の動きを読んでいるのだ。
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「うん?どこがダメだったんだ?」
「理由は二つありまして……一つは、相手の能力をここまで正確に予測しているのは不自然と言うこと。」
「成る程。もう一つは?」
「そもそもボードゲームに例える必要が無くなったんですよね。後で糸を使って説明しましたから。と言う訳で、この部分は完全にカットされました」
「何だかもったいないわね」
「それよりも作品をコンパクトに収めたかったってことだろうな」
「ふぅん、色々考えてるんだねぇ……」
「何も考えてないお前と違ってな」
「もぉう、またイジワル言う……もう良いや。次行っちゃお~」
「あっ、誤魔化したな?」
「……静かに」
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俺の直感が言う。読まれていた、と。
俺の目が見る。魔法が暴発するのを。
俺の耳が聞く。大きな爆発音を。
俺の肌が受ける。熱い、熱い爆風を。
他は何も感じない。何かが焼ける臭いも、粘っこい唾の味も、──ミリーが死ぬかもしれない恐怖も。
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「……あれ、どこが変わったの?」
「ああ、これですか。感覚が一つ足りてないんですよ」
「そうだな」
「うん?……あ、魔力か」
「そうそう。作者が忘れてたんだとさ」
「ショーもないミスね」
「そうですね。さっさと次行きましょう」
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「これからも、ね。なら魔王の倒しかたまで分かってるんだよな?」
「ええ。しかし彼の者は我々に近い存在。『感情』を捨て、信託を受けています」
「信託、か」
「信託です。今話している内容すらも信託の通り。私の一挙一動は全て信託のままに……信託には従わなくてはなりません」
俺には目の前にいる聖女が人間だと思えなかった。『感情』を捨てたのはお前の方じゃ無いのか。神の木偶人形にでも成っている様にしか見えない。
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「……ああ、これね」
「これか」
「……あったね」
「そうだっけぇ?」
「結構皆さん覚えてますね」
「いや、だって聖女に散々喋らせておいて没になったしな」
「しかも聖女に対して謎の恐怖が生まれてるしね」
「没になった理由はマレリアさんが言ったのが一つと、聖女を何か思わせ振りにしたは良いもののその後どうするのか閃かなかったからです」
「そんな理由も在ったのか」
「作者からしたら『運命』の感覚を伝える為に丁度良かったから連れてきただけなんですよ」
「はぁ……本物の聖女を呼ぶ必要あったかしら?」
「本当の盲目であの演技が出来る人は中々居ませんからね」
「ああー!もう!」
「マリー、次行くから落ち着いて」
「はい……」
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扉の前に立ち、腕を前に伸ばしてノックする。
「はぁい。って、アル君!?」
家の中にはミュリーネが居た。
良かった、元気そうだ。今まで運命を視て無事を確かめる勇気が無かった。
「……ただいま」
「うん、お帰り!」
何も聞こえないし、見えないけれど。ミリーの返事も笑顔も分かる。
「……皆も無事か?」
「ケガしたのは私くらいで、みぃんな元気だよ」
まるで硝子越しのようだけど。
「……また会えて、良かった……!」
今の運命を視れば色も、音も、感触も、魔力も、香りも、味だって、何でも分かる。
……でも、一つだけ。
「色々失ったけど、今、こうして、俺はお前と話してる。……そうだよな」
「なぁに?当たり前だよぉ」
自分のことは視えない。
俺目線の運命だからな。この溢れ出す想いをきちんと伝えられているか、分からない。
──だから、訊こう
「なあ、ミリー。俺は笑えているか?」
「もちろん!」
ああ、神とやらが居るのなら祈ろう。
──願わくばこの運命が偽物でありませんように。
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「あぁ~これねぇ。覚えてるぅ」
「そりゃ、さっき撮り直したばかりだからな」
「こっちではアンド目線なのよね」
「そうですね。それに加え、アンドさんが棄てた感覚が全て明言されています」
「これがダメだった理由は……まあ、想像つくな」
「一つは、さっきも言ったように棄てた感覚が固定化されてしまうからですね。読者に委ねられるように変更しました。」
「……もう一個、あるの?」
「最後が少しホラーになってしまったことですね。それはこの物語の本筋とは違います」
「ああ。言われてみれば、そうだな」
「一応『ハッピーエンド』を目標にしてましたから」
「そりゃこんなオチは無くなってもしょうがないか」
「ええ。……ところでこの作品、どうしても納得いかない部分があるんですけど」
「うん?何かな?」
「特にもう気になる点は無いが……」
「僕の、結婚は!?」
「いや、未婚なのは事実だろ」
「嘘はいけないんだぁ~」
「相手役になった子がかわいそうじゃない」
「結婚の演技、出来る?」
「ああもう!僕の味方は居ないんですか!?」
「居ないだろうよ」
「はぁ?そもそも──」
こうして夜は更けていく。
さあ、ここで物語は幕を閉じる。続きはもう、今度こそ描かれない。だって、その方が面白いのだから。