1-8:セルドの災難
その話を待ってきたのは自分の上司でもあり、尊敬する人でもある人だった。レーランス王国騎士団団長――――――もし自分に拒否権があったとしても彼に逆らうなんて到底できそうにない。だからその依頼の真相を知っていたとしても、おそらく断ることはできなかっただろう。
『北の魔女、ラスティーナ・ファセント邸の護衛』
人嫌いで通っている彼女が何をいまさら護衛など頼むのか。
彼――セルド・ライアンはやっと解った気がした。
すぐに気配はわかった。藪の中で自分よりも低い背丈の二人組みがこちらを窺っているのは。どうしてここが北の魔女の家だと嗅ぎ付けたのかは知らないが、敵意らしいものは微塵にも感じられなかったから、おそらくは好奇心で覗きに来ただけだろう。そう思ってたのだが。
一時間。
一時間しても一向に立ち去る様子がない。それどころかがさごそと動いている。
まさか
(家ごと爆発させる気か・・・・・・!?)
すぐさま銃を抜き出して脅してみる。今の時世、レーランスでもなければ抜き身の銃なんてお目にかかったことすらないだろう。慌てて騒いでいるのが判った。そして前に出るように指示する。
藪を掻き分けて出てきた二人の姿は
(なっ……まさかこんなに小さいとは…………)
十五ほどの黒目黒髪の少女と、それより二つか三つ幼い少年。爆発物を持っている様子もなく、いたって普通である。
一体何をしにやってきたのか。
「え?あのババアを一発殴り」
「あ、なんでもないですー。あはは」
……なんだか聞き捨てならないことを聞いてしまった気がしたが、それよりも。
「なぜ、判った?」
俺の考えていることをどうやって読み取った。
金髪碧眼の整った顔立ちの少年に警戒心を抱く。小首を傾げる少年。しばらく考えて
「読心術を習得してるから?」
なぜに疑問系。
「ってかさー、早く出してくんない?」
「何を」
「ババア」
「アレクッ」
慌ててアレクという少年の口を塞ぐ少女。
その様子を見て、
「姉弟か?」
苦労しそうな姉だ。
「あ、そうなんですー。あはは」
ワンパターンだな、オイ。
危うく突っ込みかけてすぐさま呑み込む。
任務に就いてる最中に私語は禁物だ。
「ババア、とは?」
冷静に、冷静に。
「北の魔女のことだけど?」
「……は?」
開いた口が塞がらない。
今、何て?
「だから、ラスティーナ・ファセントを出せって」
また思考を読みやがったな…………ってそんなことはもはやどうでも良い。
「ラスティーナ様を、ババア?」
「あっちゃー」
少年の姉が額に手をやっている。
んなことしてる前に弟のしつけを何とかしろっ!
「……」
少女がなぜか押し黙る。
「あーあ。ミラ姉怒らせちゃった。知らないよ、僕」
「何の話だ」
「声、出ちゃってんの」
「?」
「だーかーらー」
めんどくさそうに彼は口を開く。
「しつけを何とかしろって」
ピキッ。
なんだか聞きなれない音がした瞬間。
若き王国騎士、セルドの意識はブラックアウトした。