1-7:王国騎士と一般市民
『レーランス』
大陸の五大国、南の農業国セラクード、東の学問国家フィラウ、西の魔法大国セイシャル、そして中央の宗教国家サラフィアーナの一柱を成す軍事大国である。
その特徴はやはり騎士団、傭兵などの多さにある。レーランスの王国騎士といえば有名で、武力もさることながら智謀策謀にも長け、用兵に通じていると名高い。レーランスに攻められればどのような国にも勝機は無いとも言われている。
現在東のフィラウと同盟を結んでいる。
(大陸全史 五つの大国と島々の章から抜粋)
「…………で」
「人嫌いのはずなのにね」
ただいまレーランスの王国騎士を遠くから眺め中。
門前を見張る騎士に油断は無い。レーランスのブランドは伊達ではないということか。
「なんか、隙を窺うだけ無駄じゃない?」
もうかれこれ小一時間はこうして藪の中に身を潜めているのだ。じっとしているのも辛くなってきたし、何より見つかるのも時間の問題な気がしないでもない。
「……そうだね」
どうやらアレクも辛くなってきているようである。姉弟そろって体力が無いのは果たしていかがなものか。
などと自分達の老後を早くも懸念していた姉だが、
「ちょ、ちょっと何してんのよあんた!」
がさごそと藪の中を出ようとしている弟を見て吃驚する。声を潜めながら怒鳴るというのは何とも矛盾しているが、これがミラの必殺技だ。何とも頼りないのだが。
慌てて止めようとした姉に弟は一言。
「え?あのババアを一発殴るんじゃないの?」
老人愛護のかけらも無い言葉をのたまったのだ。
さてさて、そんな姉弟の騒ぎをうわさの王国騎士様が見逃すはずがない。
「おいっそこで何をしている!」
鋭く目を光らせながら誰何の声を上げる騎士。一般人ならばその威圧感溢れる声にすくみあがってしまうのだが。
「あーあ、ミラ姉のせいで見つかっちゃった」
「あたしのせいかよっ!」
あいにくこの姉弟は一般人とはかけ離れた人種だった。
さすがは西の魔女(変態とミラは評すが)に鍛えられているだけはある。肝っ玉ならそこらのチンピラどもにも負けないぐらいはあるのだろう(嬉しくないけど)。
が、しかし。
一介の王国騎士がそんなことを知っているわけはなく。
当然であるが、普通に不審者とみなすわけで。
そして不審者には武力を以って言うことを聞かせるのがレーランス流なわけで。
やっぱり武器をこちらに構えるんですよね。
だけど幸か不幸か平和なセイシャルで育った師弟にレーランスの常識はわからない。
つーわけで。
「さっさと出てこい!さもないと……」
カチリと硬質な音がした。ミラさんはその正体を認めてサーと青ざめる。
「え?え?え?う、うそっ!」
「さすが軍事大国っていわれるだけあるねー」
「感心してる場合かっ!!」
ここセイシャルでは珍しい銃がこちらに向けられていた。
黒々とした銃口に身の危険を覚えるミラ。
それに反して飄々とした態度を崩さないアレク。
ヤバイ。なんかもうグレちゃうよ。
「涙でてきそう…………」
苦労性の姉に未来はあるのか、否か。
早くも旅の危機が訪れようとしている一行である。
(どうしてあたしってこんなにツイてないの―――――――――!?)