1-6:不幸は続くよ、どこまでも
「ねぇ、ちょっと……」
「うん?」
「あれってどう見てもさあ…………」
「うん」
「レーランスの王国騎士じゃないのよ……!」
遭難しかかって数時間後。
うざったい木の枝やら鳥やら熊やら果てはゴブリン、イタズラ好きのピエロまでなんだか無駄に濃いメンバーが道を塞いで、とても難儀きわまりないものになった。
後半部分はもう堪忍袋の緒が悲鳴を出すほどまでになり、ピエロなんかは蹴飛ばし投げ飛ばし振り回し、棄てた。その後どうなったかは知らないが、くたばればいいと思う。
「聖職者のくせに物騒なことだねー」
「うっさいわね、あれは人なんかじゃないわよ。人間に化けた低俗な悪魔だったし」
なんていうか、アレクの読心術に慣れてきている自分が恐ろしい。
ブルリと身体を震わせるミラの横で、珍しくへえ、と感心したような声を出す弟。
「さすが悪魔祓いってとこかな?」
「精霊遣いのあんたに言われたかないわよ」
悪魔祓いと精霊遣い。
両者とも希少な存在で、この世に数多いる魔術師とは一線を画すものだ。
悪魔祓いは別名エクソシストともいわれ、神に仕える聖職者のごくごく一部のものが活躍している。そもそも聖職者自体が神学校のエリートでなければなれないため、絶対数があまり多くないのだ。悪魔祓いはその中の才能ある者たちである。悪魔祓いといってもその威力は普通の上級魔術師とそう変わりはない。
が、相手が悪魔など神に反するものだと俄然違ってくるのだ。ミラのように人や動物に化けている悪魔の姿も見えてくるし、素手で掴むこともできる。
精霊遣いはもっと数が少ない。神に仕えなくてもいいし特別な専門学校に通うこともしないが、精霊に好かれる体質でなくてはいけない。そのうえ、精霊がそばにいるという、圧倒的な力に押しつぶされない体力知力、心胆が必須となってくる。精霊の力に負けてしまえば下手すると死に至ることもある。いくら好かれようとも精霊の力を借りれないのだ。
しかし、アレクのように基準を満たしさえすれば精霊という人にはあらざる力を発揮できるようになる。魔術師は水や火、土に治癒など色々な系統に分かれその系統のみしか使えないが、精霊遣いは全て可能だ。その威力も普通の魔術師には到底及ばない。悪魔などの退治はさすがに悪魔祓いのほうが上だが。
というわけで最後のピエロ以外はアレクにちゃっちゃと片付けてもらった。悪魔祓いは長々と聖句を唱えなければならないのに対し、精霊は一言お願いして相手をどうするかを心で思い描けば済むからだ。
で、何とか迷いの森の最奥、北の魔女の館までたどり着いたのだが。
「何でレーランスが……」
「あのババアって人嫌いのはずじゃなかったけなあ」
なぜ北の軍事大国レーランスの王国騎士が館の門前を警備しているだろう。
なぜよりにもよってレーランス。
「神様って絶対いない…………」
悪魔祓いと精霊使いに幸せは訪れるのか。
甚だ疑問のミラであった。