1-3:ミラの受難
「マジですか……」
「僕はいつでも真面目だけど?」
「〜〜〜〜っ死ね!この外道!!」
「うるさいなぁ」
朝早くから見苦しいところを見せてゴメンナサイ。でもさぁ、いくらなんでも……
「黄昏の魔道書まで売ったってどういうこと!?」
「そういうこと」
「ふざけんなっ!あれは危険中の危険よ、ばれたらどうするの!?」
「逃げる」
「そーゆー問題じゃないっ」
疲れるんですけど……。っていうか、黄昏の魔道書って言ったら秘術満載の世界征服可能な、下手したら人類絶滅なんだけどっ!……まあ、後3人もあのバアさんみたいな熟女がいるから平気だとは思うけど。もしかしたらあのババアたちが………………いやいやそんな危険な妄想はやめよう。
「確かにあの人たちならやりかねないよねー」
「ぎゃあっ!?」
「……色気ないよ、その声」
ふってぶてしい!!
ああ。
「平穏が欲しい…………」
なんだか本格的にヤバくなっている状況を恨めしそうに嘆くミラであった。
事の始まりは数刻前。ミラの叫び声によって封切られる。
「ちょっと今何時――――――!!?」
それに答えたのは皆様もご存知、悪の権化こと弟・アレクである。
「8時。……もうちょと強く叩けば良かった」
最後の台詞に反応するミラ。ひくひくとこめかみが引きつっている。昨晩の弟の仕打ちを思い出したらしい。怒りで手のひらが拳の形になっていた。
「なんですって?」
「何が」
自分の姉の拳が震えだしているのを平然と見やるアレク。あまつさえ人の神経を逆なでするような返答で切り返す様は、既に老獪な貴族のそれである。
しかし相手は猪突猛進の直情型人間。貴族も国王もへったくれもないのだ。というわけで、姉が憤死する前に新たな爆弾でトドメを刺そうと企ててると言う何ともうるわしい弟愛。…………多少歪んでいる気がするのはこの際目を瞑ろうとしよう。
そういう次第で。
「黄昏の魔道書もついでに売っといたよ」
そして冒頭の騒ぎへと発展していったのだ。
どうやら姉の受難はまだ始まったばかりのようである――――――。