1-9:喧嘩勃発
「それで?」
「はあ」
「何しに来た」
「一発、殴」
「ちょっと相談を。あははー」
ども。
なんか記憶がぶっ飛んで只今北のババアの邸宅にいます。
何があったんだとアレクに問い詰めてみても「はあ……」と溜息をつくばかり。
非常にムカつく。すっげぇムカつく。
「話をまとめると、だ」
「ん」
「お前達は相談をしに来たのだろう?」
「ん」
「それでなぜか私が依頼した騎士を気絶させたというわけか」
「それは僕じゃなくてミラ姉のほうだよー。僕がそんな物騒なことするわけないじゃん」
「最後のほうは同意できないが、まあいい」
え?え?なんか話し進んじゃってるんですけど。
あたし誰かを気絶させた覚えないんですけど。
「ちょちょっと待て!……ください」
あたしがレーランスの騎士を気絶させたのだという平和主義の自分には似つかわしくない誤解を解くべく、勇気を振り絞って会話に参戦。
「何?」
「何だね」
いっせいに二人の目がこちらに向いてきた。
うわぁ、なんか怖い…………。
いきなりたじたじになってしまったあたし。だってなんか怖いし!怖い人に声をかけられたら逃げろってのは常識だし!いや、声をかけたのはあたしだけど、こんな状況は予知してないし!
「あ、あのさあ……」
「うん」
「あたし、何もしてないよね」
「…………」
なんなんだ、この沈黙は。
「ミラ姉」
「は、はい」
厳かな声を出すアレクに声が裏返ったあたし。何、何なの!?
「そんなことはどうでもいい」
いきなり横槍入れてきたバアさん。今大事なとこなんだよ、邪魔すんな!
ギッとばかりに睨みつけると、誉れ高い北の魔女は眼を細くした。
「ほう……あたしに喧嘩を売るってのかい?」
ああ、売ってやりますとも。
なんか最近ストレス溜まりっぱなしなもんだからここらで発散させるのも悪くはない。原因はアレクとかアレクとか。
立ち上がったバアさんに続いて構える。
「あ――――――――!!」
臨戦状態のあたし達を破ったのはストレスの根源、アレクだった。
「ああっ、もうなんなのこの人たち、僕ら探しに行くんでしょ!で、入国許可とるためにこのババアに会いに着たんでしょ!!だったらとっとと話し始めろよ、このとんま!!」
「なっ」
「おい」
酷い言われように怒りが隠せないのは普通だと思う。つーかあんたのせいでストレス溜まってんだし。
なのにアレクはにっこり笑って
「このボロ家、燃やしちゃってもいいんだよ?」
なんて恐ろしいことを抜かしやがったのでひとまず休戦。
私達はしぶしぶ席に着いたのだった。