圧倒
俺は見ているだけだった。
俺が出るまでも無くセルファが御自慢の低身長を活かしてシールダーから蹂躙。
メギア先輩のフォローもあり全く危なげが無い。
そして、リューザス。
リューザスは天賦の才があるようだった。
即ち、風を読む才能。
リューザスは最初はミスをしたが徐々に慣れて牽制にアシストと中々の奮戦…いや、無双を見せ付けていた。
一方、俺はただベンチで見ているだけ。
情けない。
俺にあるのは望まないシールダーの才能だけ。
それをありありと見せ付けられたようで…。
「ありがとうございましたッ!!」
試合後にベンチに皆んなが集まって来た。
「いやぁ、楽しかったわぁ」
何が楽しい?
俺は楽しめないのに。
いや、これは我儘か。…でも、勝手に入りたくもない部活に入れられて、憎む人が側にいて、そいつがいつも評価される。
少しの我儘位、許されるだろう?
『また間違いを重ねるのか?自分を正当化しながらセルファをまた貶めるのか?お前は最低な人間だな』
良心が俺を嬲る。
もう黙ってくれよ!!
「ってーアスレイ?それ、どうしたん?」
「…うっす」
何を言われたか分からなくて曖昧に返事した。
「レイちゃん!?血が出てるよ!?大丈夫!?」
口元に手をやると紅い液体が付着していた。勿論血だ。
どうやら無意識のうちに唇を噛み締めていたらしい。
思考がジンジンと鼓動と共に鈍麻していく。
「すんません。…顔洗って来ます」
小さくなりながらコソコソと手洗い場に向かう。
惨めだ。
ゴシゴシと流水で顔を洗うといつも見たクズの顔がそこにはあった。
髪は短く切りそろえられていて運動部風に見えなくもないが、剛毛の所為で鴉の羽根の様な薄幸さを醸し出していた。
髪色が黒髪だから尚更なのだろう。
クマの出来た三白眼、口元は引き攣ったような薄気味悪い笑みを楽しくも無いのに浮かべている。
「…クソっ、何で…俺ばっかり…」
目頭が熱くなった。
どうやら我儘なだけでは無く泣き虫にもなってしまったらしい。
「ナイツ・ゲームなんだろ…たかがゲームじゃねえかよ。何ムキになってんだよ…カッコ悪い。今時流行らないだろうが」
言い聞かせるように呟く。
でも、そう。俺はムキになっていた。
ナイツ・ゲームは呪いだ。
俺の人生を狂わせた呪いだ。
…セルファが、悪い。
俺が誘った、俺が教えた、俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が。
俺が、何をしたって、出来たって言うんだ?
何も出来てやしないだろ馬鹿。
あぁ、でも唯一褒められたのはセルファをクラブチームに誘ってから監督に言われたのが最後だったか。
『セルファをクラブチームに誘ってくれてありがとう。アスレイ君』
俺を見ていなかった。
ずっとセルファしか見ていなかった。
セルファを誘った。
それだけが俺の功績。
そして、それこそが俺の人生最大の汚点。
俺は手洗い場を後にすると外でセルファが待っていた。
「…おっす。リューザスは?」
「リューザス君は先に帰ったよ」
「そうか…」
そう言えばリューザスは両親が他界していて祖父の家で暮らしているんだったか。
リューザスの祖父は古風な融通の利かない頑固者のようで門限には厳しいようだったからそうなるのも当然と言えるだろう。
「レイちゃん、どうしたの?」
「何でも無いぞ」
「何でも無かったら唇噛んで血なんて流さないよ。メギア先輩も心配してたんだよ?もしかして、僕のミスが許せなかったの?」
は?
セルファのミス?
「…何でもない」
「やっぱり、僕が原因だよね。レイちゃん。後で牛丼屋さんにでも行こう?僕が奢るし僕で良ければ相談にも乗るよだから…」
「少し黙ってくれないか」
驚くほど冷たくて低い声が出た。
「…悪い、俺帰るわ」
バツが悪くなって早足で家に向けて動き出す。
本当にセルファは大嫌いだ。
けれど、俺は。
セルファが嫌いな自分が一番大嫌いだった。