登校風景の崩壊
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鉛のような飯を飲み下す。
味が分からない。
あれから俺は家に帰り真っ先に自室に引き篭もり晩飯を口にする事なくベッドに入った。
だが、目だけがやたら冴えて眠れなかった。
その癖思考は鈍麻し、ネガテイブに沈んで行く。
先輩の言葉が棘になって眠らせてくれなかった。
そして、親に迷惑はかけまいと半ば自棄でリビングに這い出し今に至る。
妹が何か言ったが、取り敢えず生返事で返し生きた死体のような生気の無さで家を出た。
外は心情に反してまたも目に痛い位の晴天。
こんな天気なら河川敷辺りでボーッとしたら中々良いのではないだろうか。
そうしたら、多分心に刺さった棘も気にならなくなる。
「よう」
「おっす…リューザスか」
俺が学校に向かうとリューザスが追いつく、中学から続いた習慣だ。
当たり前の登校風景はー
ーしかし壊れる。
絹を裂くような、耳を劈く女性の叫び声。
ここは勇者のいた日本ではない。
日本を模写した風景だが、その実、粗野な人間も日本とは違い多いのだ。
リューザスを見るとリューザスは頷いた。
どうやら同じ認識のようだ。
『婦女暴行』。
警察を呼ぶ役割をリューザスに託し、声の方向に向かうと少女が顔を殴られ鼻血を出しながらグッタリとしていた。
眼前には手の赤い男。下卑た笑いを浮かべながら激昂している。器用なものだ。
こいつか。
「この糞アマがぁっ!!」
急いで走りその手を掴むが、体制が悪かったのだろう。
拳に半ば巻き込まれる形で吹き飛ばされた。
化け物じみた回復力に定評がある俺だが打たれ弱いのは毎度の事だ。
吹き飛ばされればヒーローでもないから擦りむくし血が流れる。
「あぁ?邪魔してんじゃねぇぞ?」
女性を庇うように立ちー殴られる。
ちっぽけな正義感と、感謝されたいという報酬を期待した醜い心で尚もフラフラと立ち上がるがまた殴られる。
殴打に次ぐ殴打殴打殴打。
正に殴打の雨霰。
そしてその一つ一つがトラウマを呼び起こす。
心をこれ以上無く抉る。
『このクズ野郎!』
「止めて…くれ…」
ガタガタと体が震え心拍は急上昇し目がチカチカと眩む。
こんなときに発作?
頭はひりつく位熱く体は凍える程冷たい。
「はっ!男が命乞いかい?見苦しい!!」
息が荒くなり、感覚が麻痺する。
口には血の味。多分、切れた。
立ち上がる気力は無い。
もう、どうでもいい。
「レイちゃん!」
その高い声は聞き覚えがあった。
俺のイップスの原因。
俺が憎む相手。
そいつは男を簡単に殴り飛ばし俺に手を伸ばした。
「リューザス君から聞いて駆けつけたんだ。…痛い、よね」
「ありがとうございます!!」
それを横から暴行されていた少女が遮りセルファに抱きつく。
何とか平静を保てるようになったー憎しみで。
褒められるべきは俺だろ?
何発代わりに殴られたと思ってる。
何で俺を選ばない。
何で、何で何で何で何で何で。何故?
皆んなセルファだ。
皆んなセルファが大好きで皆んな俺を嫌う。
遅れて警官がやって来て…俺は病院に運ばれた。
ー全治一週間。
骨折があるにもかかわらずこれだけなのは一重に俺の回復力のおかげだった。
少女は鼻血こそでたものの比較的軽傷だったようだ。
苛々する。
現実逃避とばかりに別の事を考える。
『あんたにはシールダーの才能がある』
シールダー。
セルファを守り、セルファを引き立てる役職。
…ふざけるなよ。
何で俺までセルファを守らないといけないんだ。
そうだ。
何、気に病む事はない。
入部しなければいいだけの話だ。
文芸部にでも入ってリューザスと読書すればいい。
それはそれで楽しいだろう。
けれど、胸のシコリは残ったままで。
どうにも今日も眠れなさそうだ。
主人公にチートはない。
それはこう言うことだ。