先輩の評価
俺はメギア先輩に呼ばれた。
何だろうか。もしかしてイップス持ちであることの失望を口にするのか?
それともプレイの拙さを叱責するか?
「お、来たかいな。ほな、トークしよか」
「……」
「そんな辛気臭い面しんくてええよ?別にプレイが悪かった訳やないし。ただ、ちょいと気になっただけや」
「気になった?」
「その前に一回握手しよか」
促されるまま先輩の手を握る。
俺みたいにかなりゴツい手とは違い先輩の手はタコがある程度でそこまでゴツくはない。
…何度も何度も限界を超えても盾を握らされ、将来の壁外探索に備えて厳しい鍛錬をしてきた手と比べるのは流石に酷だが。
「ん、やっぱりか」
「どうしたんですか?」
「何で役職のとき、嘘ついたん?」
ドキリとした。俺は確かにセイバーだ。けれど本職はサブセイバーではなくメインのセイバーだ。
いや、根本から違うのかも知れない。
俺はアーチャーの素質はないがシールダーと勘違いされたのか?
巫山戯るな。
実際、俺の父さんは前線で盾をやっており、俺も父さんに習い盾を長らく握ってはいたが…。
「どういう、意味です?」
「あんたメインのセイバーやろ。いや、疑問やったんや。メインとサブが逆なんちゃうかって。あんたはサブにしてはフォローが下手やし、手数もセルファに圧倒的に劣る。一発一発が大振りで…」
「もう、言わないで下さい」
言葉は心を荒れ狂わせる。
煽るような言葉を選んで態と言っている気さえしてきて苛々した。
「ワシの話は最後まで聞かんか。ええか、セルファはセイバーとしては破格、リューザスもアーチャーとしては牽制の面で見れば中々のもんや。で、あんたは…足運びさえクリアすればいっちゃん才能がある。ちぃと苦かも知れんけど」
「!?」
俺は認められていたのか?
俺みたいな軟弱者でも、評価に値するのか?
…単純に嬉しかった。他人から評価されたのはいつ振りだっただろうか。
でも、言われたのは半ば死刑宣告だった。
「あんたにはシールダーの才能がある」
「え?…は?シールダー、ですか?」
「ああ、シールダーのワシが言うんやから間違いない。あんたはシールダー向きや」
…。
………。
「あんたの視野は広いし戦略のプランニングも悪くはない。体もしっかりしてるし立ち位置もシールダー向きや」
「立ち位置?」
「シールダーはセイバーの後ろか隣に控えて必要に応じてスイッチするんよ。だからあんたの位置から見ても最適なんよね」
俺はエースになりたかった。
シールダーの才能なんていらなかった。
目立ちたいし、褒められたいのだ。
新聞のナイツ・ゲームの記事には真っ先にセイバーが載る。
シールダーは滅多に載らない。
故にシールダーは不遇とされ、実際の壁の外では下手な盾役は動きを阻害し、疎まれる。
シールダーは害悪ですらあるのだ。
シールダーが活躍するのはセイバーを囲んで嬲ったりサブセイバーを活躍させる為に…俺をフォローせずに見殺しにしたりするくらいだ。
「………」
「まあ、そんくらいや。ナイツ・ゲーム辞めとったにしてはいい感じやったよ。また、部活に来てや」
「……はい」
昔の俺は、一体何の為にナイツ・ゲームをしていたのか。
それだけは。
今は分からなくなった。