草試合
とうとうこの日が来てしまった。
そう、部活体験。
例によって例の如くセルファに手を引かれナイツ・ゲーム部までやって来た。勿論、リューザスも一緒だ。
「お、君は…セルファ君か。ちゅーことはその隣はアスレイか。昨日ぶりやな。っと、その隣は知らん顔やの」
そう言ったのは昨日、保健室で会ったメギア先輩。
「リューザス・マークレーンです。先輩」
「リューザス君か、ほなよろしゅう。早速やけどポジション教えてな。早速動きが見たくて堪らん」
「僕はメインのセイバーです」
「俺はアーチャーです」
「お、俺は…サブのセイバーです」
メインのセイバーとサブのセイバー。
その隔たりは大きい。役が無いよりは良いが俺には納得いっていない。
サブのセイバーはセイバーとはいえ花筐では無いのだ。勿論、動きは細やかでチマチマとした牽制が多くシールダーに次いで不遇職とされている。
「そか、シールダーはおらへんか…。まぁ、ええか。よし、草試合やろか」
◆◆◆
メギア先輩により急遽組まれた草試合。
…セルファが目立つんだろうな。
そう考えると暗澹とした雲が立ち込めるような気分になった。
「レイちゃん、防具着けるの久しぶり?」
「…ああ」
間が空いたがどうにか返す。
ナイツ・ゲームはポジションによってプラスチック製の鎧…防具を装備するのがルールだ。
防具が軽い順からアーチャー、セイバー、そしてシールダー。
アーチャーは常に移動しながら牽制をする都合上軽装が好ましいし、逆にセイバーやアーチャーを守り敵を封殺するシールダーは重装備となる。
「にしても、リューザスってアーチャーだったんだな」
「ああ、昔齧った程度だがな」
スポーツ用の眼鏡に付け替え、防具を付けたリューザスは中々様になっていた。
昔齧った程度と言ったが額面通り取ると上手くて凹みそうだ。
気を付けなければ。
全員防具を装着し、グラウンドに集合する。
「お、来たかいな。ほな、始めよか」
「ゲームの形式は?」
「三対三のヒット一発退場のレギュレーションで行こか」
ヒットとは防具に色が塗られた状態の事で、公式試合ではアーチャーは二ヒット、セイバーは五ヒット、シールダーは八ヒットまでセーフで以降のヒットで退場となる。
尚、使用されるインクは魔物の皮脂から出来ており粘度が高く、濡らすとすぐ落ちるのが特徴だ。
ただ、このインクの元となる魔物の皮脂は壁の外に出向かなければ採取は不可能の為、かなり高価。
俺がナイツ・ゲームを辞めたのは親に負担をかけない為でもある、というのは防具やインク、それにゴム製の長剣の費用の面で負担になることも含まれている。
「じゃ、やりましよ」
「「「宜しくお願いします!!!」」」
試合が始まる。
俺たちは逆三角形状に展開。
アーチャーであるリューザスを後ろに控え、俺とセルファのツートップで攻める極めて無難な陣形だ。
対して先輩は横並びに展開。
アーチャーを警戒してアーチャー同士の技術差が見えやすいタイマンに持ち込むようだ。
そして他はメギア先輩がシールダー。
隣には大柄なセイバー。
…このレギュレーションに於いて、本来ヒット前提で動くシールダーはかなり不利だ。なのに、何故?
先輩ならあらかた三役職は出来る筈。…何か意図があるのか?
「ワクワクするね、レイちゃん」
「……」
セルファの俊足ならセイバーの先輩も速度で退場させれる。
なら俺のすべきはメギア先輩のマークか。
先輩が審判が笛を吹く。
試合開始だ。
セルファは自慢の俊足で大柄なセイバーに肉薄するがー。
「スピードタイプのセイバーか。やるの」
メギア先輩の盾に阻まれた。
盾に赤いペイントが塗られる。しかし、盾へのヒットはヒットとカウントされない。
一拍遅く追いついた俺はメギア先輩に攻撃を仕掛けー。
仕掛けー。
『セルファがいれば試合に勝てたのに!!このクソ野郎!!!』
昔の映像が鮮明にリフレインする。
しまった!
力み過ぎた!!
狙い外れの一撃は地面に色を付けた。
「ふん、アスレイは素直なパワータイプのサブ…いや、この動き…」
「やった!」
セルファはセイバーの先輩を仕留めたようだ。
「っ!?」
「すまんアスレイ!退場した!」
アーチャーの先輩にリューザスが対応していたのがどうやら仕留められたようだ。
これで勝負は降り出しだ。
が、不味い。
アーチャーの先輩からは距離があり、逆にメギア先輩からは近過ぎる。
癪だがセルファをアーチャーの先輩にぶつけるのが最善だろう。
だが、それだと役職が違えど技量で劣る俺が確実に退場になる。
勝ちたい。認められたい。
そんな想いが交錯する。
だからと言って俺がアーチャーの先輩を対応するのは無理だ。
メギア先輩が動きを阻害するだろうしあの小柄さと俊足でなければアーチャーの先輩まで辿り着けない。
「貰いや」
そうこう思考するうちにセルファが盾に弾かれバランスを崩したところをアーチャーが狙撃。退場となり圧倒的な不利に追い込まれた。
残りは俺一人。
…当たらない。
何度降っても嫌な記憶が蘇る。
その度に筋肉が柔軟さを失い固まる。
楽しくない。
「…イップス持ちか」
「!?」
動揺して、しまった。
バスッ!
シールダーには元からインクは付いていない。相手のヒットを盾で受けて付いたインクを相手に擦り付けるという玄人向けの役職。
それに、見事敗北した。
「……」
疲れた…。
グラウンドで屈み込む、ハアハアと息を荒らげながら先のプレイを思い出す。
完封。
奥歯を噛み締めながら砂を掴む。
「クソッ」