転校生
「黒スケ、お前一体何なんだ?」
「さぁ?唯のキチガイ、阿婆擦れ女じゃねえの?」
「巫山戯てるのか?何で一日で新規にチーム申請、防具、武器一式の用意、それにエンブレムまで。どう言う絡繰だ?」
俺の前には黒猫を象ったシンプルなエンブレム…それも有名な製作団体、Folding Envyの文字が裏に彫り込まれている。
「Folding Envyなんて有名な製作団体に依頼が出来る奴が唯のキチガイな訳無いだろうが」
…唯のキチガイって何なんだろうか。
言ったそばから不安になってきた。
気違いの時点で全く『唯の』ではない。
「まあ、そこら辺は追い追いな。少しは信用しろよ相棒」
「………」
コイントスの要領でエンブレムを俺に投げ、俺はパシッと受け取る。
「明日だ」
「…明日か」
申請の受理は明日。
明日から俺の野望の第一歩が始まる。
思えば長かったような短かったような。
いや、短かったな。
にしても、自殺しようとしたらよく分からないキチガイに捕まった訳だが、本当によく分からない始まりだった。
「チーム名は黒猫隊だ」
「ま、妥当じゃねえか?」
相変わらず黒いパーカーとヘッドフォン、痛々しい包帯がデフォルトの黒スケと黒いジャージ姿の俺である。
黒猫隊というのは存外に嵌っていて良いと思った。
◆◆◆
『結成後』
俺の朝は早い。
と言っても俺の朝が早いところで誰が気にするでもないが。
いつも通りの登校風景。
徐々に乾きつつある空気を吸い込みながらの作業誰もそばに居ない物悲しさにも慣れたものだと一人で得意になる。
まあ、そんな事は周りから見れば哀しいだけだろうが。
「そもそも見てる奴がいるって考えは傲慢だよな」
誰かが見てるというのは傲慢だ。
誰かが俺を気に掛けて、その上で嫌うなんて効率の悪くていかにも頭の悪い事を仕出かすのは多分馬鹿なのだろう。
だから俺の日常は黒スケを除き不可侵となった。
誰も俺に触れない。
徹底した無視ではない。
会話の必要性が皆無だと諦められただけだ。
セルファを崇拝する女子は俺がセルファの友人であると知り、なりを潜めた。
三年生にもカッター騒動の顛末を知り虐めは無くなった。
残ったのは穢れに満ちた関係性だけ。
正にこの世は穢土に違いない。
果たして共命鳥は空を飛ぶだろうか。
柄にもなくそんな事を考えた。
そんな時、彼奴は昼にも現れたのだ。
「本日から転校生が来るから仲良くしなさい。さあ、どうぞ」
ガラガラとドアが開く。
さながらライトノベルのテンプレートをなぞるかのように。
その時、俺は多分鳩が豆バズーカを食ったような顔をして居ただろう。
いや、豆バズーカは動物虐待か。
そもそも豆バズーカって何だよ。
現実逃避をやめてそいつを見る。
顔は…悔しいが整っている。
包帯さえ、何かしらの傷が無ければ相当な美人さんだったのだろうと日の本に晒されたそいつを見て思う。
ああ、俺のファントムが来てくれた。
「よぉ、相変わらず辛気臭い面だな。相棒」
「お前はやっぱりキチガイが冴え渡ってんな相棒」
セルファの驚愕、その他の男子が示す女子歓迎のムード、女子が放つクラスカーストを危惧する声。
それらを無視して俺は立ち上がり、黒スケに相対する。
先ず二度の握手。
次に互いに同じインファイト。
最後に拳をぶつけて見せつけるように中指を立てる。
互いにドヤ顔を見せつけ、何事もなかったかのように俺は着席する。
「俺はアリス・アクィナス。よろしく頼む」
黒スケはーアリス・アクィナスはそう名乗った。




