入学式
入学式、それは退屈な時間である…はずだった。
校長の矢鱈と長い建学の精神や学園生の心構え、講師の紹介。
酷く退屈なはずだった。
退屈であって欲しかった。
そんな細やかな願いはそいつの登場で俺の安寧は脆くも崩れ去った。
新入生挨拶。
ライトノベルではヒロインが出る場面だが、それは最悪の形で裏切られることとなる。
「新入生代表、セルファ・クリストファー」
はい、と返事する小柄な影。
キラキラと輝くブロンドの髪。
女子と何ら遜色ない高い声。
忘れない。忘れやしない。
この男は…。この、男は…。
◆◆◆
「あのさ!君、メンツ足りないからナイツ・ゲームに入ってよ!!」
こう、声をかけたのが始まりだった。
都会と言っても空き地や公園は沢山あったし大人気なナイツ・ゲームとあらば場所に事欠さなかった。
そもそもナイツ・ゲームはゴム製の武器にインクを付けて敵に色を塗るゲームだから場所もそこまで取らない。
インクの心配さえなければある程度広い家の中でもできる。
もし、だ。
もし仮に過去に戻れるのならば。
俺はセルファを誘いはしなかっただろう。
………
「あちゃーまた負けちゃったかー!」
笑顔でそう言う俺。
俺はシールダー、アーチャー、セイバーの四ポジションの中でセイバーを担当していた。
シールダーは防御特化。相手の武器のインクを盾で防ぐ地味な役職。
アーチャーは牽制役。トドメを刺す場合もあるから注意が必要。
そして、セイバー。これがナイツ・ゲームの花形。果敢に敵を攻め立てインクを振りまく、一番目立つ役職。
小さい俺は目立ちたがり屋だった。
だからセイバーを担当したし、実際俺はその頃で見れば大分力が強かったからセイバーはハマり役だった。
それからは毎日セルファを見つけてはナイツ・ゲームに誘った。
親友だと思っていた。
だが、非常にも時代は移ろう。
ナイツ・ゲームはスポーツだ。
スポーツにはそのときの主流がある。
例えばナイツ・ゲームでは大柄なセイバーが猪突猛進するスタイルが流行した、みたいな。
そして…セルファの時代が来た。
彼も俺と同じくらセイバーだった。
俺はセイバーしか教えられなかったからだ。
小柄な彼はパワーに欠ける。
しかし、小柄故の機動性があった。
そこからはセルファのワンマンプレイ。
俺はサブのセイバーに降格した。
それでもナイツ・ゲームは楽しかった。
セルファは楽しそうにインクを振りまく姿は輝いて見えた。
そして、クラブチームにセルファと一緒に入会して…。
俺は役目を失った。
試合には出れずに裏方仕事。
それでも自分のセイバーの可能性を信じてひたすら一人で鍛えた。
だが、俺は小柄ではなく。
時代がセルファをメタすることもなく。
セルファは地元ではかなりの強者になった。俺を置き去りにして。
猪突猛進とは言わないが、メジャー過ぎる俺のスタイルは完全に閉ざされていた。
個人が草試合に上がればシールダー達に囲まれて思うように動けずに封殺された。
小柄なら…盾の合間を縫って狩れるのに…。
セルファはどんどん頭角をあらわし、俺は妬みを抱えながら背景に消えた。
そして他のクラブチームとの試合が決まったときそれは起きた。
偶々セルファは他の習い事で休んだのだ。
比較的家が近い俺が日程の伝達を任された。
悪魔が囁く。
ここで試合の日程をセルファに言いさえしなければ例えサブでも試合に出られるのではないか。
セルファの陰に隠れていたくない…ナイツ・ゲームをしたいその一心で、セルファには偽りの日程を言った。
俺は、心が弱かった。
それが堪らなく嫌だった。
セルファを抜いたナイツ・ゲームの試合は惨敗。
クラブチームの先輩はセルファがいるという事にかまけて鍛錬を怠ったのか不味い動きを連発。アーチャーに仕留められ退場。
俺はアーチャーを一人仕留めるも突出し過ぎてまたシールダーに囲まれシールダー一人を道づれにして退場。
セイバーを失ったチームは敵方のシールダーとセイバーのジリジリとした侵攻に対応出来ずに大敗を喫した。
そして、セイバーの先輩がセルファの不在を俺のせいにした。
実際、セルファがいれば圧勝してもいい盤面だった。
先輩はセルファがいれば勝てたと言い放ち、俺は徹底的に糾弾…され引っ越しせざるを得なくなった。
◆◆◆
壇上に上がるセルファを見上げる。
いつしか自分への不甲斐なさはセルファへの憎しみへ。
セルファへの賛辞はセルファへの嫌悪感へ。
だから、俺は昔からずっと。
コイツが、大嫌いだ。